ルイの9番目の人生 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2015年 カナダ、イギリス

監督: アレクサンドル・アジャ

原題: The 9th Life of Louis Drax

原作: リズ・ジェンセン著 『ルイの九番目の命』

 

 

子供が主役のちょっと不思議な物語なのかな、と適当な予想していたら全然違ってビックリ。思いがけないサスペンスな展開にドキドキ、ハラハラ。(事前に映画紹介に目を通しておけば人気のサスペンス小説が原作、とちゃんと書いてありますが^^;)原作はフランスの物語ですが映画では設定をアメリカのサンフランシスコへ写し、実際の撮影の大部分はカナダでロケーションが行われたそうです。アレクサンドル・アジャ監督は映像に「時を超越した感覚」を求めたそうで、何時の時代とも、どこの国とも限定されないような、とりどりの色彩に富んだ独特の映像がまた美しい映画でした(*'ω'*)。

 

 

9歳の誕生祝に家族でピクニックに出かけたルイ・ドラックス(エイダン・ロングワース)が崖から転落する事故に遭い救急搬送されるところから物語が始まります。奇跡的に一命はとりとめたものの昏睡状態。一緒にいたはずの父親ピーター(アーロン・ポール)は事故以来姿を消しており、美しい母親ナタリー(サラ・ガドン)は同様激しく献身的に息子に付き添っています。実はドラックス夫妻は夫婦関係が上手くいっておらず、別居中。一人息子の誕生日を祝う為に久しぶりの家族水入らずの再会だったのですが。さらに、ルイの前歴が極めて特異。生まれてから9歳を迎えるまでに、感電や食中毒などの9回も命にかかわる事故に遭ってそのたびに辛くも生き延びてきたということが判明します。

 

 

昏睡状態のルイの担当医は、賞味神経科のスター医師、アラン・パスカル(ジェイミー・ドーナン)。自分の職務に誠実でありながら超優秀、さらに精悍な美男子。インテリでモデル級のハンサム、しかも真面目。そりゃ、既婚者ですよ、えぇ(笑)。このどこか見覚えのあるハンサム俳優、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」では繊細で複雑でミステリアスなSM男、クリスチャン・グレイを演じたあの方です。

 

 

幼いながらに不幸が付きまとう、母親譲りの天使のような美貌の昏睡美少年、若く美しくいかにも庇護本能をくすぐる母親、ハンサムなスター医師。何もかもが美しく完璧に整っていて、それが妙にいわれのない不安を煽ります。美し過ぎると、整いすぎると、人間ってなぜこんなに不穏な気持ちを呼び起こされるのでしょうね。

 

 

文字通り「男が群がる」美貌とフェロモンの持ち主、美しきナタリー。演じるサラ・ガドンは同じ製作年の映画「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」ではまだ初々しさも残す可憐な若き日のエリザベス王女を演じていたのに、こちらではガラっと変わって魔性の美女。写真でも見とれる美人さんですが、スクリーンの中で動いてしゃべっているナタリーが発散する吸引力はハンパないです。同性でもフラフラ~と巻き込まれてしまいそうな。でも同時に本能的な警戒心も。もの凄い演技力の女優さんだと改めて知りました。映画監督のデヴィッド・クローネンバーグとブランドン・クローネンバーグ、父と息子どちらの監督作品にも指名されて「クローネンバーグのミューズ」として有名だそうな。

 

 

ルイが9度も死にかけてきた事実は、今回の転落事故と直接関係がないにしても見逃せない気になる事実。父親が姿を消していること、夫婦が別居中だったことなどから、転落事故の原因に父親が関与している可能性を視野に警察は捜査にあたりますが、中々糸口がつかめません。昏睡中のルイの意識が過去の記憶の回想シーンでは、仲の良い父子のようにも見えるのですが。

 

 

ルイは、事故の少し前まで精神科医のDr.ペレーズ(オリヴァー・プラット)のセラピーを受けていましたが、ナタリーの判断で中断されました。セラピー中でのDr.ペレーズとルイの会話は、ナタリーやピーターといる時とはまた違った雰囲気のルイの一面が表れて、時々ドキっとします。純粋無垢な天使のように可愛らしく利発なルイですが、ふとしたときに冷徹にすら見える無表情で、ひどく大人びて皮肉めいた発言をしてみせます。最初は親の気を引くためのルイの自傷行為、あるいは家庭内のDVといったありふれた予想を立てていたDr.ペレーズですがどうも一筋縄ではいきません。

 

 

オーディションで見出された子役のエイダン・ロングワース君の存在感が、とにかく際立っています。天使のようなルイ、大人びたルイ、残虐性を隠し持っていそうなルイ、何かの諦念に捕らわれているようなルイ、ナイーブなルイ。複雑多様に、コロコロと違った表情を見せるルイに、大人はいちいち翻弄されます。ペットのハムスターを可愛がっていながら、ある日唐突に殺してしまう。お気に入りのペットがその種の平均寿命より長く生きた場合は殺してもいい「処分の権利(Right of Disposal)」は、法律とは別のもうひとつの「ルール」だとDr.ペレーズに語るルイ。いったいその「ルール」は、誰かから教わったのか、それともルイが独自で見出したものなのか。「子供は大人が思っている以上に大人のことを理解している」。本当に。

 

 

昏睡状態のルイに付きっきりで不安定で衰弱しきっているナタリーと、熱心で献身的な医師アラン。わかりやすく予想通りに惹かれあい始めるのですが、2人が親密な空気をまとい始めた途端、昏睡状態のルイの名前でナタリーとアラン、それぞれに脅迫状めいた手紙が届きます。もちろん昏睡状態のルイが手紙を出すわけはないのですが、その文章はルイのセラピーをしていたDr.ペレーズも太鼓判を押すほど、いかにもルイ的な文章でした。ルイ本人、もしくはルイを良く知る人物が差出人?その目的は・・・。

 

 

肉体は昏睡状態のままのルイの精神は冷静に周囲の様子を眺めていたり思い出の回想をめぐったり、謎の”何か”と会話をしたり。 ほんのすこしだけダークファンタジーな部分もあって、そこに内在するテーマは、作品のベクトルは違うけれど「パンズラビリンス」とも共通するものを感じました。 ルイの過去も含めての事故の真相も、父親の行方も、手紙の差出人も、謎めいていますがそれ以外にもルイとルイの側にいるアランの周囲でいくつかの不思議な出来事が起こり続け、アランはある思い切った仮説を得るとDr.ペレーズの元を再び訪ねます。

 

 

真相については、映画の中ほどで既に予想はつきます。が、登場人物たちがどうやってその真相にたどり着いていくのかが気になり、そして美しい映像と魅力的なキャストの演技と、最後の最後まで多面体のようなルイ自身がどの面で落ち着くのか興味深く、退屈しません。そして、真相が明らかになったラスト近く、ナタリーの身に起りつつあることは物語の終わりよりも更なる始まりの予感を感じさせて、不穏な余韻が残ります。この不穏さ、映画で言えば「ザ・ギフト」、小説で言えば『ぼぎわんが、来る』に始まる澤村伊智さんお得意の手法。(ということは、この映画もブロ友のあの方のお好みに沿うかも^^)


サスペンスやミステリーの要素だけ取り上げると少し物足りないかもしれませんが、総体的には面白く、楽しめました^^。映像と雰囲気が美しく好みです。ナタリーの少しノスタルジックな雰囲気のファッションも目を楽しませてくれます。