『潮風エスケープ』 額賀澪 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

ヒトリコ』以降、順調なペースで作品を発表している青春小説の若手ホープ、額賀澪さん。『君はレフティ』を図書館で借りる際に、すでに今年の新刊が出ていることを知り、さっそく予約登録しました^^。

 

今度のヒロインは大規模農業を営む家業に縛られるの嫌で実家から遠い、寮生活をしないといけない高校に入学した深冬(みふゆ)。クラスメートの真澄以外親しい同級生がおらず、学校にもあまりなじめず付属大学との共同カリキュラムで参加している大学のゼミ研究にばかり入り浸る生活をしています。南国の島出身の優弥先輩にスキスキ光線でまくり。夏休み、ゼミのフィールドワークで優弥の出身島で行われる12年に1度の大祭に参加することになります。

 

島から若者がどんどんいなくなり過疎化が進む中で、小さな「神が宿る」離島の民俗信仰をかたくなに守ろうとやっきになる島民たちに、自分の地元の閉塞感と共通するものを感じ、島の伝統を守り神聖な「神女」になる資格を失わないために生まれてから一度も島から出たことがない可愛げのない柑奈、島の重要な家系の長男である優弥が胸中に抱えるくったく、12年前の大祭の日に神女になる直前に島を脱走した柑奈の姉の渚の突然の帰省。現代社会にそぐわない信仰を守る意味や地元や家の都合に縛られる理不尽について。

 

・・・うーん。いつも、額賀澪さんの作品は、設定とかストーリーは比較的ありきたりで陳腐で展開も結構予想がつくのに、青春の切なさや瑞々しさ溢れる文章が引きこまれるし、必ず存在する陰の部分の描き方が、ドキっとするくらい峻烈なのに重苦しくなく、せつなくてほろ苦くて・・・のバランスが絶妙だと思っているのですが。今回は、ヒロインの深冬に全然共感が出来きず、いちいち違和感やザラっとした不快感を感じてしまって、いつものようにどんどん読み進めていくのが少し苦労しました。・・・といいながら、展開が気になって早く続きを読みたかったのですけれどね(;^ω^)。

 

深冬のリアクションがちょいちょい、んんー?それはちょっとヘンじゃない?そして所々登場する乙女チックなりきりな大げさな独白・・・ごく自然に察してもらっただけなのに「あぁ、あなたはこんな時でもそんなことに気が付いてしまう人なのか・・・」とか、いやいやいや、何にナリキリなの?これまで額賀さんが描く登場人物は、それはないでしょーな設定だったりマンガちっく過ぎたりしても、共感は持てなくても、実体を持っていたというか。いきいきとしたキャラクター性がそれぞれ確立されていたのですが、どうにもこうにも、深冬ちゃんはしっくりこない。

 

自分の言葉を話している感じがしない。誰かの独りよがりな想像の台詞を言わされている感があって・・・なんだろう、この違和感。それとも高校生ってこんな感じ?深冬のキャラクターがズレているのではなくて、私がもうその年頃の感受性を想像もできなくなったということでしょうか。それとも時代性の問題?どちらにせよ、私の方が感受性も価値観も古すぎて固まって柔軟性を無くしているってことなんでしょうか。うーむ。

 

まぁ、いつまでも同じ学校内や部活内に留まっていてはネタも尽きるし新鮮味もなくなるので。前作『君はレフティ』ではLGBT、今回は民俗学や伝承、信仰と過疎化による跡継ぎ問題など、社会性のあるトピックに色々挑戦して幅を広げる試みるのは解かります。ちょうど、新しい飛躍に向けての模索の時期なのかなー。今のところ処女作の『ヒトリコ』が私の中でベストをキープかなぁ。

 

・・・とか思っていたら。本編2/3位を過ぎたあたりで急に印象がガラっと変わりました。そこからはもうジェットコースターで一気に読み進み、いつもの額賀作品らしいカタルシスと清涼感。もぉー、額賀澪さんてば。すっかりやられましたよ(笑)。読み終わってからネットのレビューを見てみたら、同じように「途中までヒロインが好きになれなかったけれど」という感想が多くありました。で、す、よ、ね~!(^_^;)

 

やはり引き続き今後が楽しみな作家さんです。次はどんな手を打ってくるのか、期待でワクワクします(´ω`*)。