シェルブールの雨傘 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

1963年 フランス

ジャック・ドゥミ 監督

原題: Le Parapluies de Cherbourg / The Umbrellas of Cherbourg

 

 

再びBack to 秋のミュージカル祭り。フランス映画の名作から。よく考えたら全編通してじっくり観たことはなかった気がする、若きカトリーヌ・ドヌーヴ主演の「シェルブールの雨傘」。フランス映画の名匠ジャック・ドゥミ監督とミシェル・ルグランの美しい音楽のコラボレーション。この作品、セリフ部分も全て歌なんですよね~。まさに音楽でつづる夢の世界。美しく繊細で、フランス映画らしい人生のエスプリも。
 
 
フランス北西部の港町シェルブールで母親の経営する笠屋を手伝う16歳のジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と車の修理工場で働く20歳のギイ(ニーノ・カステルヌオーヴ)は恋人同士。お互い恋に夢中で、無邪気に「2人の子供が欲しいな」「女の子なら名前はフランソワーズにしよう」「いつかガソリンスタンドを買って経営したい」とロマンチックな未来を語り合う可愛い若いカップル。
 
 
ところがフランスはアルジェリア戦争の真っただ中。ついにギイにも召集令状が届きます。そういえば、イブ・サンローランが徴兵されて精神的なダメージを受けたのも、アルジェリア戦争の時でしたね。若い2人、とりわけジュヌヴィエーヴにとっては耐え難い不幸です。出発の前夜、一緒に夜を過ごし悲しい駅での別れ。2年間、どうか待っててほしいと繰り返すギイと、とにかく不安でいっぱいのジュヌヴィエーヴでした。
 
 
別れの前夜に子供を授かったことがわかり、母親の猛反対も跳ね除け出産することを決意するジュヌヴィエーヴでしたが、ギイからの手紙が届くのが遅れがちで、常に心細く不安な気持ちがまとわりつきます。離れている年月が重なるにつれ、だんだん遠のくギイの面影。いったい私は本当にギイを愛しているかしら?ギイってどんな人だった?ギイは本当に帰ってくる?私への愛は変わらない?私の愛は?
 
 
そんなギイの不在中に、若く美しいジュヌヴィエーヴに新たな求愛者が現れます。富豪の宝石商、年上で紳士的でハンサムな男性、ローラン・カサール(マルク・ミシェル)。しかも多額の納税通知に困っていた母親の真珠のネックレスをその場で買い取ってくれて親子の危機を救ってくれた恩人でもあります。
 
ジュヌヴィエーヴの母親(アンヌ・ヴェルノン)に、ジュヌヴィエーヴと結婚したいと告白するローランは、昔一度だけローラという女性を愛したことがあるが失恋したと過去を話すのですが、ドゥミ監督のモノクロ映画「ローラ」に、まさにローラとローラン・カサールという男女が登場するようなのですが、そのローランのその後が彼なのでしょうか、それとも同じ名前の別の登場人物なのでしょうか?いつか「ローラ」も観てみたいです。
 
 
不在のギイと、裕福な年上の求婚者ローランとの間で揺れるジュヌヴィエーヴの下した決断は、ギイを打ちのめすものでした。えっそっちを選ぶ?!とちょっと驚きますが、まだ16歳。恋人は不在で、若い彼女にとって実体を伴わない恋人の存在があやふやになっていくのも仕方がないことでしょう。母親ははなからギイとの結婚はまだ若すぎると反対だし最初から経済的な幸福が約束されたローラン推しだったし。そもそも、裕福というだけでなく、ローランが本当に寛容で献身的でこれ以上ないくらい理想的な男性ですし・・・ねぇ。
 
ようやく兵役を終えてシェルブールに戻ったその足でジュヌヴィエーブの実家の傘屋に駆け付けたギイですが、店は閉店。そして自分の不在中に、自分には黙ったままジュヌヴィエーヴが他の男性と結婚しいなくなってしまったと知らされたショック。愛する恋人に裏切られたばかりか、生まれたはずの自分の子供の性別もわからず、会うこともかなわず、他の男の子供として育てられているんです。しかも最愛かつ唯一の身内だった叔母もなくし、そりゃあ荒れます、荒みます。
 
 
月日が経ち、別々の人生を歩んだかつての恋人たちが偶然再会するラストシーンは、切なくて美しくずっと印象に残り続けます。戦争が2人の人生をまるで変えてしまいましたが、結果的に大切なのは、どんな出来事が起ころうと自分の道をしっかり歩んでいくこと。大人の切ない恋の想い出にいっとき、心を騒がせますが今となっては遠く離れてしまったそれぞれの人生に立ち戻る2人。
 
 
とにかく若いドヌーヴが可憐でたまらなく可愛い!ギイが夢中になるのも、心配するのも、ローランがゾッコンになるのも全て納得。この高い位置でリボンを結んだハーフアップのヘアスタイル、若いときすっごく憧れてなんとか真似したいとトライしたものです・・・が、髪質も髪色も違いすぎてこんな風にはどうしてもならなかった・・・というか、それ以前に顔だちが違いすぎましたけれど(苦笑)。
 
 
雨のシーンと、店内のカラフルな傘が並ぶシーンも印象的ですよね。ドヌーヴの美しさと音楽と並び、カラーも本当に美しい映画。カラーフィルムにこだわったドゥミ監督の美意識と色彩センスが画面の隅々まで溢れています。それに加えて、状況に応じてドヌーヴの髪型とファッションも変わっていくのもまた情緒を増します。まだ恋に恋するレベルから抜けない少女時代はハーフアップとリボン、妊娠中はセンターパーツで分けた髪をダウンスタイルに。お金持ちマダムになってからは豪華な衣装に映える手の込んだ(お金と時間もかかっているに違いない)アップスタイルに。状況が変われば心境も変わり、ファッションとヘアメイクが変わり、表情も変わっていきます。そう、ファッションって本来そういう(パーソナリティやポジション、アイデンティティを表現する)ものです。
 
 
ジュヌヴィエーヴ母娘の自宅も、部屋ごとに違うカラフルな壁紙。日本人の家ではありえない、さすがフランス人の感覚。派手な色と柄なのに、家具とも洋服ともケンカせず、悪趣味にならず、しっくり収まっているのが不思議。どう修行しても日本人には学習できないセンスのような気がします(*´ω`*)。
 
まだ駆け出しだったドヌーヴが大抜擢され、有名女優に名を連ねるきっかけになった映画ですが、ドヌーヴって歌もこんなに上手だったの?!と驚きましたが、彼女も含めて主要登場人物の歌は全て吹き替えだそうです。・・・だよねぇ^^;。それにしても美しく情緒的な音楽。英語のタイトル「I Will Wait For You」で知られる主題曲は特に有名で、色々な人がカバーしているので映画を見たことがない人もきっとどこおかで耳にしたことがあるはず。その主題曲と、予告編の動画をどうぞお楽しみください^^。