『終わった人』 内館牧子 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

 

図書館の予約が廻ってきたので、読み始めていた本を中断してこちらに切替え。気力も体力もまだまだ十分溢れているのに、定年退職でサラリーマンとして、社会に役立つ人として「終わった」宣言をされてしまい、第二の人生のスタートにソフトランディングできない主人公壮介のファインディング・サムシングの物語です。

 

東大法学部卒業、メガバンクのエリート街道まっしぐら、でも役員一歩手前で派閥のパワーゲームの為に脱落して子会社へ出向、後に転籍しくすぶったまま、俺はここにいるべき人間じゃないという思いを抱えたまま生前葬をされたドンヨリ気分。時間を過ごす術が見つからず取りあえずスポーツクラブに入会してもその辺のジジババと俺は違う、友達なんか作らないと肩肘はったり、カルチャークラブに行ってみたり、そのカルチャークラブの妙齢の秋旅人に片想いして高級レストランでご馳走してみたり、東大大学院で石川啄木の研究をしようと思いついてみたり、なかなか苦笑する迷走ぶり^^;。

 

親も既にリタイア済みだし、立場は全然違いますが自分自身もサラリーマンとして壮介の立場や退職後の状況とかがそろそろリアルに想像できる年頃なので、定年退職者全員の最終日の帰宅にハイヤー手配とか、社員全員で花道作って花束と拍手で送りだしとか、大企業とはいえいったいいつの時代の話だ(苦笑)とか、壮介の心中のモヤモヤとか、いきなり石川啄木に共感し始めるとか、リタイアした途端にお中元が届かなくなるとか、いちいち細かいところにひっかかってはツッコミ入れたり、自分自身や身の回りのオジサマ達の経験談などを思い出したり、自分の未来に想いを馳せたり(笑)と心の脱線が多くて序盤、中々ページが進みませんでした(笑)。

 

良寛の辞世の句「散る桜 残る桜も 散る桜」をやたらと繰り返す壮介に、若干ウザいなーと思っていると、奥さんにもある日ピシャリと文句言われるところでは気の毒に感じながらもちょっと笑ってしまいました。でも、自分自身ものすごく身につまされたのは「俺、行ってもいいのかな?」の言葉。リタイアして「終わった人」になったジジババは、卑屈になっているから若い人に誘われるとすぐ「いってもいいのかな?」と聞きたがる。そう聞かれてNOと言われるはずがないのだから(本当は来て欲しくなくても)、単に「勿論、ぜひ来てください」と言ってもらって後押しされて安心したいだけだと、最初は他人のその言葉にイライラしている壮介が後に自分も同じ言葉を使ってハっとするんですけれど・・・あぁ~、自分もつい言っちゃうわ、コレ!Σ(゚Д゚)

 

ですよねぇ。他人からは聞き苦しいみっともない言葉でしたね・・・自分を卑下してオドオドしてすがりついてる感じがアリアリ。誘われたんだから気持ちよく「ありがとう、ぜひ」って言えば済むこと、あからさまに仕方なくの社交辞令なら潔くご遠慮申し上げるべき・・・やっばい、次から気を付けなくちゃ(>_<) と反省しました。この気づきがあっただけでも、読んで良かったと思いました(^^ゞ。

 

そんな壮介が、何度も迷走しながら、落ち込みながら、スポーツクラブでの出会いをきっかけに意外な展開が続き、再び輝きを取り戻しますがそのまま死ぬまで順風満帆というわけには勿論いかず。中盤部分は、都合良すぎ&簡単すぎですがテンポも良く、絵空事として割り切って楽しめました。真の目標、生きがいが見つかったら中途半端な(というかハナから見込みはない)恋なんてもうどうでもいい、思い出しもしない、とか言いながら何度も「もしかして・・・」「あわよくば・・・」とフラフラしている姿に苦笑し、やっぱり東大ネットワークってすごいなと感心したり、プラスアルファで毎年のボーナスや各種手当金があったとしても、年収13百万円のサラリーマンが、プライベートでも1食10万~な高級レストランや1泊10万~な高級ホテルや座ってまず10万、な高級クラブを普通に使い続けていても退職時の個人金融資産が1.5億円超えか・・・まぁ自宅マンションは奥さんの実家の相続としても・・・と思わずソロバンはじいてみちゃったりツッコミどころはとにかくつきません( *´艸`)。

住む場所の家賃の心配がなくて(とはいえ、管理費が払えなくなる人も最近は多く、マンション自治会で問題になりがちですが・・・)、自営業で不安定要素はあるものの奥さんにいくばくかの収入があって、年金が年500万以上あるなら、それだけでも十分普通以上の生活できますよねぇ・・・現役の時と同じようにはいかないのは、全てのサラリーマンにとって度合の差はあれど普遍の事実。そんなこんなで、現実社会の大多数を占める本当の普通の一般人には参考になったり共感できる部分はあまりないかと思うのですが、そして中盤のテンポの良さから一転、後半は失速してうすーい感じで尻切れトンボな印象で読み物としては深みが足りない気がするのですが、テレビドラマだとしたらすごく面白いものが出来そうです(*^-^*)。やっぱり脚本家さんなんですね~。

壮介夫妻の子育て専業主婦をしている娘さんが誰よりも達観していて洞察力があって含蓄に溢れた「百戦錬磨」っぷりが1人で卓越していて、すごいです。いったい彼女はどんな人生を送ってきたらこうなるのか、と勝手にスピンオフドラマまで想像してしまいました(笑)。