ひつじ村の兄弟 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

ひつじ村の兄弟 [DVD] ひつじ村の兄弟 [DVD]
4,104円
Amazon
2015年 アイスランド、デンマーク、ノルウェー、ポーランド
グリームル・ハゥコーナルソン 監督
原題: Hrutar / Rams
 
原題はそのものズバリ「羊」にちょっとほっこり系の邦題がついたこちらの映画、第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点部門」グランプリ受賞作。ところで「ある視点」って、いつも何となくやり過ごしているけれど具体的な定義としてはどういう賞なんだろう?と、これをきっかけにWiki先生その他に聞いてみました。すると”あらゆる種類のヴィジョンやスタイルをもつ、「独自で特異な」作品群”で毎年各国から選出された20作品程度でコンペティションが行われるとのこと。元々は1988年に「若き才能を認め、フランス国内での配給を支援する補助金を提供することで、革新的で大胆な作品群を奨励すべく」導入されたのが始まりだそうです。

「ある視点」部門ではグランプリの他に審査員賞、希望賞、男優賞、女優賞などが選出される場合もあって(特に決まってはいない)、日本の作品としては黒沢清監督が「トウキョウソナタ」で審査員賞(2008)と「岸辺の旅」で監督賞(2015)を、深田晃司監督が「淵に立つ」で審査員賞(2016)をこれまでに受賞しています。以上、主にWiki先生からのウケウリ情報でした^^。



映画の舞台はアイスランドの牧羊が盛んな人里離れた小さな村。先祖代々羊を育て、羊と共に暮らしてきた人々。皆羊が大好き。羊の品評会の授賞式で司会の人が読み上げる羊賛歌な詩?も、大げさで真面目な羊への愛が讃えられていて、微笑ましくもある種滑稽な可笑しさが滲み出ます( *´艸`)。



その村に暮らす共に独身の老兄弟、兄キディー(テオドール・ユーリウソン)と弟グミー(シグルヅル・シグルヨンソン)は、隣に住んでいながらもう40年間も口をきいていないというほど仲が悪い。偏屈で意固地なキディーと、兄より社交性はあるけれど頑固なグミー。この兄弟に昔何があったのか、は分りませんがいい大人、しかもおじいさんがプンっ(`´)ていがみ合ってるのが、子供の喧嘩かいっという感じで苦笑いを誘います。村の皆も暗黙の了解で、もう誰もあえて触れない(笑)。

因みに、最初どっちがどっちだか目が慣れるまで見分けがつかず大変でした^^;。仲悪いくせにお揃いのセーター来てるしΣ(゚Д゚)。帽子被っちゃったりしたらもう難問(笑)。途中で、お髭の色で区別すればいいんだと気が付いた時は神の啓示を得たような気分でした(大げさな)。白いお髭がお兄ちゃんキディーで、ブラウンがかってる方が弟グミー。これでバッチリ、ほっ。そして、どうしても伝えないといけない連絡事項が発生した場合は、手紙を書いて牧羊犬に届けさせるという徹底ぶりΣ(・ω・ノ)ノ!伝書鳩ならぬ伝書犬か!

このわんこがまた実に可愛いのです( *´艸`)。人間同士はツンケンだけれど、どっちもお使いワンコには優しい♪(勿論羊のことは言わずもがな、というか愛しすぎて大変)このわんこのお使いシーンがチラっと採用されていたので、予告編動画貼付ちゃいます(*'ω'*)。

 

 

画像は見つからず、スクリーンショットもトライしたけれど動きの速いわんこがどうしてもブレるので、わんこの姿を残したいがために一番最後にポスター画像も貼り付けておきます(´_ゝ`)。

 

ちなみに「口をきかない」と一方的に決めているのはどうやら弟グミーの方。キディーの方は、何かあるとすぐにグミーの家に怒鳴りこみにきます。それには常に「無視」という態度で答える弟。ま、口をきくっていっても、日常会話ではなくて罵詈雑言なんですけれど^^;。キディーはかっとなりやすい性格のようで(多分、それも他人とも家族とも人間関係がこじれた一因じゃないかと想像)、怒り心頭で夜中にグミーの家の窓に銃をぶっぱなすほどΣ(゚Д゚)。ひぃー。いくらベッドで寝てる時間だからって、もしたまたまトイレに行こうとか、水を飲もうとか思って立ち上がって部屋の真ん中にいたとしたらどうするのっ(>_<)。

 

そんな感じで局地的に険悪な空気が流れるものの(笑)、広大な自然の中、のどかな羊と暮らす人々の日常ドラマ・・・が、ある日一変します。よりによって品評会で優勝したキディーの自慢の羊が恐ろしい伝染病にかかってしまい、感染が広がるのを防ぐために保健所から周囲一帯の全ての羊の殺傷処分命令が下されます。こういうニュースを聞くと、毎回、切ない気持ちになります。それ自体が他人事で浅はかかもしれませんが・・・。村人たちは勿論ショック。先祖代々、家族同然に大切に愛してきた羊の殺処分も耐え難いし、経済生活だって大ピンチ。

 

 

こんなに沢山の羊さんたち・・・「可愛いね、お前たちは本当に可愛い」と毎日愛情たっぷり世話してきたのに・・・(T_T)。やるせなさや悔しさ、怒りの納め方も解からぬまま、抵抗も空しく保健所の指示に従わざるを得ない人々。ここで、品評会での羊賛歌の詩の文言たちがズンっと効いてきます。

 

 

モフモフの身体に細い脚、くるりんと丸まったツノに三日月形の目、グミーが可愛い、可愛いといって愛撫するのを観ているうちにすっかりこちらも羊ラブ♡な気分になっているので、グミーが「保健所の職員ではなく自分の手で死なせてやりたかった」と自ら猟銃で100頭以上の羊を殺すシーンは辛すぎて目をそむけたくなります(直接的な映像はありません)。

 

でも、そのショッキングな行動も、グミーの目くらましの作戦のひとつでもあったのです。なんとグミー、数頭の羊だけ生かしておいて、地下室でこっそり飼育し続けます。ちゃんと自慢の雄羊もキープしてちゃっかり種付け、出産までホクホクと。えぇーいくら人里離れてるとはいえ、そんなん、バレないわけない・・・と思ったらやっぱりバレます。そりゃそうだ。

 

 

どうしよう、保健所の連中が僕の羊を処分しにやってくる!絶体絶命のグミー、ついに40年間の無言を破ってキディーのところに助けを求めに駆けつけます。わずかに残った貴重な我々の国産種の血統の羊たちを、何としても守ろう!という思いで再び兄弟の絆が復活。ちなみにこの映画に出てくる羊ちゃんたち、アイスランディック・シープとう種で純血家畜用羊としては世界最古の品種なんだとか。キディーグミー(なんだかサンリオのキャラクター名みたい^^)が必死に血筋を守ろうとするのは愛情以外にも理由があるんですね。

 

 

アクシデント的に殺人を犯してしまった身内や恋人の手を取り「逃げよう」と無謀な逃避行に飛び出すといったシーンはドラマや映画でよくありますが、まさにそんな勢いで危険を承知で羊たちを逃亡させるために高地の山へと羊を追い立てながら向かう兄弟、日が暮れて暗くなる空、凍えそうに冷たい空気、そして吹雪で視界がどんどん失われて、、、。

 

大自然の中に生きる素朴な人々のヒューマンドラマのようで、少々ブラックな皮肉も含んだコメディ的な要素もあり、深刻な問題提起をはらんだ社会風刺ドラマの一面もあるようで、一筋縄ではいかない何だか不思議な作品。そして、結末も用意されていないので、え、ここで終わり?ちょっと待って・・・と画面に追いすがりたくなる、いけず感(苦笑)。いったいあの後兄弟はどうなったのか、羊たちはどうしたのか、”その後”の展開が気になってしまって、ふとした時に思い出して考えてしまいます。なろほど「ある視点」部門グランプリ、納得です。何とも言えない味わいと余韻でしばらく心に残る、そして多分忘れた頃にまた思い返すような映画でした。