しあわせへのまわり道 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2014年 アメリカ
イザベル・コイシェ 監督
原題: Learning to Drive


インド人の父とイギリス人の母を持つイングランド出身のしぶーい名優ベン・キングスレーがインド人のタクシードライバーに扮し、これまた熟年の美人女優パトリシア・クラークソンと共演した大人の人生やり直しヒューマン・ドラマ、ほっこり系。性別も人種もバックグラウンドも違う二人が運転の教習を通して次第に心を通わせるようになっていきます。最近、中高年が主人公の映画にしみじみ感じ入る年頃になったんだなぁ、と実感することしばしです。私も大人になりました(笑)。


お綺麗な女優さんなのにこんな写真からでごめんなさい(;´∀`)。映画冒頭のウエンディ(パトリシア・クラークソン)は夫と喧嘩→泥酔でひどい二日酔いのボロボロです。

決して幸福ではなかった少女時代、ウエンディの心の支えは本でした。そして大人になって書評家として成功し、イケメン教師の旦那様をゲット、可愛い娘も生まれて今やアッパー・イーストに暮らすプチ・セレブな充実した人生・・・のハズだったのに。仕事=本に夢中な余り夫のかまってアピールに気づかずスルーし続けてしまった結果、結婚21年目にしてうんと若い愛人を作った夫に離婚宣言されてしまいます。夫の愛を露ほどにも疑わずに生きてきたウエンディには青天の霹靂。はっきりと「もう愛していない」と言われても納得できず、諦めきれず。


夫テッドを演じるのはドラマ「霊能者アリソン・デュボア」でアリソンの夫ジョーを演じたジェイク・ウェバー。長者番組過ぎて、何の映画に出ていてもジョー・デュボアにしか見えない(苦笑)。ドラマでは何があってもアリソンを愛し続けて支え続ける理想的すぎる夫だったので、妻が構ってくれないのにスネて若い愛人作ってウキウキ去ってくチャラ夫役が新鮮でした(笑)。


2人の娘ターシャ(グレイス・ガマー)は冷静かつ中立の立場ですが、どちらかというと母ウエンディのことが心配。ちなみにメリル・ストリープの三女一男のうちの次女。ドラマ「SMASH」では脚本家&プロデューサー夫婦アイリーンとジュリーの娘役で出演していました。ママと三姉妹、並ぶと全体的に雰囲気すごく似ていますが、年が若くなるにつれイマドキ的美人度が上がっていく気がするのは、世代の影響もあるのかな。皆ママ同様将来有望なオーラが漂ってます。


早くパパとのことは未練を断ち切って新しい人生に突き進んで欲しい、ママもパパ以外の幸せを見つけて欲しいと願う娘ターシャの勧めもあって、タクシー運転手ダルワーン(ベン・キングズレー)に運転教習を頼むことにしたウエンディ。これまでもこの先も運転は夫がしてくれる=ずっと夫がいると信じ切っていましたが、ひとりになって自分で運転する必然性に迫られます。

ところが、そもそも定格的に運転が向いていない、というかドヘタで中々上手くいかないウエンディ。しかも頭ではようよう理解したものの気持ちはまだまだ夫に未練たらたら、現実を受け入れがたい気持ちがどうしても残るので、運転免許もとる気になったりやっぱり止めることにしたり行ったり来たり。でも物静かで冷静、論理的で断固たるところのあるダルワーンに半分押し切られながら、諦めそうになる度に励まされてまたトライし直します。

「運転を習うということは、人生と同じことなんだ」と静かに語るダルワーン。原題のLearning to Driveは、即ちLearning to liveでもある。彼の教習は、その精神がそこかしこに滲み出ています。縦列駐車が上手くできずパニくるウエンディに、料理に例えるシーンは印象的。スープの出来が解からなければ、まずはちょっと味見をしてみる。そして様子を見ながらスパイスを少しづつ足していけばいい。ダルワーンは、インドでは大学教授をしていたインテリですが、家族が反政府勢力の疑いをかけられて投獄された過去もあり、政治亡命してきたアメリカで苦労して生きてきたのです。


行きつ戻りつはしながらも、ちょっとづつ息を吹き返していくウエンディ。ダルワーンとの会話で笑顔も見せるようになり、冒頭のヨレヨレとは別人?なくらい本来の美しさが戻ってきます。共通点が全然ない2人ですが、何気に気が合っていい感じ・・・ウエンディに「今日は綺麗ですね」なんてストレートに褒め言葉を送るし、「女性はどんなプレゼントを喜ぶか」なんて質問してソワソワするから、てっきりウエンディに愛の告白をするのかと思って一緒にソワソワしだしたのですが・・・。


厳粛なシーク派のダルワーンは、祖国に住む姉の薦める女性とお見合い(現実には結婚前に一度も”見合って”すらいませんが)結婚をしたのでした。神の決めた習わし、親族の薦めの結婚に何の疑問も持たず、正しいことだと信じるダルワーンは見知らぬ異国に住む見知らぬ男の元に嫁いだジャスリーン(サリター・チョウドリー)の心細さは今一つ理解できず、早く英語を習得することや一人で買い物に行くことなど、妻としてよりも独立した一個人としての自立を求めがち。一方、無教養な妻との共通点が見つからず、打ち解け合うのに苦労をするダルワーン。

どう考えても、知識レベルや興味のある分野も重なるウエンディとの方が話も盛り上がるし、傍目にもバッチリ気が合っている2人。恋愛感情とまではいかずとも、お互い好意を抱くようになっているのも明らか。なんでこの二人が恋に落ちないの?てか今にも落ちそうなんだけどねぇ。

私は小説や映画の中では、あくまでもフィクションなのだから不倫だろうが二股だろうが、どうぞお好きに、が基本スタンスです。なので、ダルワーンとウエンディがこのまま恋愛関係に発展して、という展開もアリかなとは思ったのですが、この映画は敢えてそのありがちパターンに転ばない潔さが清々しく素敵です。

過去を振り返れば自分にも非はあったとはいえ、夫に裏切られて生活の基盤が崩れ落ちる衝撃に打ちのめされたウエンディにとっては、ダルワーンが妻に対して「誠実な人であること」は、弱った心を抱えてなんとか立ち直ろうとしている状況の中で唯一の「希望の光」(男が皆、浮気をするわけじゃない、と信じる根拠になる)であると同時に、「問題でもある」(だからダルワーンに非誠実な行動はさせられない)というジレンマ。そのジレンマを前にして、何を選択するのかは人それぞれで正解はありませんが、大切なのはその選択に自身と責任を持つこと。本編を通してどんどん明るく綺麗になっていくウエンディの最後の笑顔が一番美しく清々しいのが、嬉しくなりました。

あまり詳しくは描かれないものの、ダルワーンに嫁いだジャスリーンの不安と葛藤、緊張とちょっとした勇気や本来の彼女の大らかな明るさを少しづつ見せていく過程と、ダルワーンとの本当にちょっとづつですがお互い手探りで歩み寄って行こうとする様子も、さりげない映像でしっかりと描き込まれていて、それもよかったです。

キャスト全員がすごくハマっていて全体のまとまりもよかったですが、ウェンディ、ダルワーン、ジャスリーンの3人は特に素晴らしかったです。ベン・キングズレーの抑えめの演技も本当に渋くて素敵。そういえば去年の映画「ジャングル・ブック」では主人公モーグリを守護する黒豹バギーラの声をやっていたんですよね。バギーラも格好良かった♪

観おわった後、幸せな気分にしてくれる映画ってやっぱり大好き。そう再認識した映画でした^^。余談ですが、中近東の男性が頭に巻くターバン。昔からどういう構造なんだろう?ターバンの中の頭髪はどういう状態になっているんだろう?って思っていたのですが、その疑問がこの映画でやっとスッキリできてラッキー。そうなってたのか!(笑)映像も、派手じゃないけれど何気に可愛い色彩に溢れていて綺麗でした。