『海の見える理髪店』 荻原浩 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。



買ってから1年くらい温めてしまっていました・・・(;´∀`)。
去年の直木賞受賞作品ですねー。荻原浩さん、初めま
してです。受賞作含む6編の短編集でした。

《目 次》
海の見える理髪店
いつか来た道
遠くから来た手紙
空は今日もスカイ
時のない時計
成人式

短編小説が6本、家族の物語、過去を邂逅する内容、で
この前に読んだ湊かなえさんの『望郷』と一瞬カブる感じが
しましたが、こちらは基本的にミステリー要素はほとんど無し
&エグりも柔らかめ&ファンタジー強め。かな。
表題作と「成人式」、最初と最後が私は特によかったです。

「海の見える理髪店」は、海の見える田舎町にひっそりと
隠れるようにある小さな理髪店に初めて訪れる主人公に、
1人で切り盛りしているご主人がサービスの間、自分の過去
を語って聞かせます。小さなお店ですが大物俳優など有名人
の顧客が多く、一時期は銀座に二号店を出したりして繁盛
していた理容師が、なぜ都会から遠い海の側に辿りついた
のか。そして、ネットなどの評判を聞きつけてきてみたという
一見の若い客に何故そんなことまで語って聞かせるのか。

穏やかで職人気質のおじさま、というイメージの理髪師さん
が、若い頃結構ヤンチャだったり天狗だったりしたらしい
そのギャップが意外で、そしてそこに辿り着くまでに重ねて
きた幾年月と沢山の後悔や哀しみや希望に想いを馳せて
胸が熱くなりました。終わり方も、いかにも物語っぽくて美しい
です。若干ありきたりと言えなくもないですが。王道です。

「いつか来た道」は、母親と娘の確執の物語。母親の抑制
に対する反発と、母親への憧憬。女同士の難しさ。
荻原さん、男性名だけど実は女性?と思うほど、女性心理
や、母娘関係の息苦しさがすごくリアルに描かれています。
そして、絶対君主だった母親の、衰えと対峙した時、娘の
胸中にこみあげてくるものは・・・。

どちらかというと切ない物語が多いなかm「遠くから来た道」
はハッピーエンドを期待させる明るめでちょっと不思議な
物語。夫が仕事ばかりで子育ても家庭も放置気味なのに
怒って小さな娘を連れて実家へ家出した主人公の元に、毎晩
同じ時間に届く夫からと思われる時代錯誤な不思議なメール。
大好きだった祖母の部屋で居候しながら、子供時代の
思い出の残る家で自分の家族のこと、夫とのことを、家の
農業の手伝いや子供の世話の合間に思い出していきます。

「空は今日もスカイ」は、子供目線の物語ですが、読むのが
ちょっと辛い・・・哀しくなります。自分はどれだけ呑気でヌクヌク
と大事に愛された恵まれた子供だったのか・・・と改めて両親
に感謝するばかり。
「時のない時計」に出てくる、時計屋のご主人は・・・どういう
印象を持てばいいのか、読み終わってしばらくしても判断しかね
ます。ただ、とても哀しい人なのだな・・・と思いました。
本筋とは関係ないけれども、パタパタ時計とか鳩時計とか、
ディズニー時計とかが出てくる度に、懐かしかったです。

「成人式」は、15歳で死んでしまった娘の代わりに、成人式
に出ようと頓狂な思い付きを実行に移そうとする中年夫婦の
物語。思いっきり若作りして、髪も染めて、派手な晴れ着を
選んで・・・無理矢理悪ノリしてみせながら、そうすることで
娘の死を受入れ、前に進もうとしていく過程がじーんときます。
成人式の会場で再会する、娘の同級生たちがまたいい子で
救われる気分になりました。

仕事もピークはひと段落したし、短編集が2冊続いたので
次は長編ものを読もうかな。図書館に行く余裕も暫くなかった
ので、鬼平犯科帳スゴロクも止まったままなのもウズウズ
していますが(>_<)。