『あのとき始まったことのすべて』 中村航 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

太宰治などで普段と違う読書脳を使った後は、少し

軽めで気楽に楽しめる現代小説でほぐしたくなるので、

さて何にしようかな、と自宅本棚の未読コーナーを

チェック。プレイバック読書の後だから何か”新しいもの”

にトライしたいという気持ちもあり。

以前、本屋さんを散策した時に「知識としては知っている

けれど今まで読んだことのない作家ものを読んでみよう」

気分の時にピックアップしておいたものです。

 

主人公は、電機メーカーの技術営業3年目。仕事にも

ひとまず慣れて自分なりのペースとか工夫とか、面白さ

が見え始めてきた、”新人”から”いっちょうまえ”への

移行中で日々、10年目のデキる先輩に色々と指南を

受けているところ。なんていうか、仕事という面で見ると

20代の一番よい時期ですよね。懐かしい。

そんな時期に、ちょっとした偶然が重なって10年ぶりに

中学時代の同級生の「石井さん」と再会することになり、

久しぶりに会った石井さんは見知らぬちょっと可愛い女性

であり、昔と「同じ」石井さんであり、10年ぶりの再会は

それはとても楽しく盛り上がり・・・。

 

10年ぶりの再会をきっかけに、今まで忘れていたような

中学時代のあれこれの記憶が甦りますが、思い出す

ポイントや、印象が自分と相手とでは微妙に違っていたり

するのは、現実社会でも”あるある”ですね^^。

そして、二人の思い出話に登場する、物静かな女の子、

白原さん。実は中一の時に主人公が告白して失恋して

いたなんていう”10年目の告白”なども。

次の章では、その中学時代の白原さんの目線での物語

が挿入されて、石井さんと主人公の再会で再共有された

思い出の補填がされると同時に、この小説のもう一人の

主人公ともいえる白原さんの人物像が深堀されます。

 

社会人として楽しい時期に差し掛かって公私ともちょっと

の余裕が出てくるタイミングで、懐かしい思い出と仲間

との再会に盛り上がって、新しく始まる恋と、「もう中学生

ではない」現実と。昔と今とは色んなことが違っている

けれども、”ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで

トルネードが起こる”という「バタフライ効果」のように

あの頃に始まったちょっとしたことがずっと続いて繋がっ

って今の自分がここにあるんだね、という、キラキラ

青春あーんどラブストーリー。

 

読み始めて最初のうち、なるほど、これはひょっとする

と男版・有川浩か?なんて思ったのですが、ちょっと

違う気もする。もっとキラキラ度が高いというか(笑)。

そうかぁ、おおよそ男性の方が夢想家のロマンチストだっ

たりするものね。『君の名は。』の新海誠氏しかり。

と勝手に腑落ちしていましたが、表紙の見開き部分に

乗っていた中村航さんのプロフィールを見て小さな衝撃。

1969年生まれ。まさかの年上だった。自分より年上の

男性がこのキラキラ小説を流れるような澄んだ文章で

書き上げたという事実に驚きました。中学校時代の頃の

ことなんて、よく思い出せましたね・・・(いや、作家本人の

思い出でないにしても^^;)

 

中学生どころか、主人公の”現時点”である”入社3年目”

の頃のことだって既に危うげな私ですが^^;、そして10年

ぶりどころか、今年久々に都合があって会えた昔の

同級生はなんと20年ぶりだったりしたし、昔の職場の先輩

と久しぶりに飲みに行ったのが7年ぶりくらいだったりという

ことが割と普通にある年頃となった今、久しぶりに会っても

一瞬で”当時”に戻って距離が埋ること、すっごい盛り上が

ってちょっとはしゃぎすぎてしまいがちなこと(つい若い頃

の勢いでお酒飲んでしまって二日酔い・・・)とか、そんな

自分自身も重ねながら、キラキラをおすそ分けしてもらい

つつ楽しく読ませて頂きました。

 

単に主人公と石井さんの再会と恋物語だけでなく、白原さん

という共通の思い出の少女にもフォーカスをして、ある意味

同じ波長の二人(主人公と石井さん)の交流に、全く別の

波長の白原さんの物語を、しかも過去の時間軸の物語を

挿入したことで、よくある軽めの恋愛小説にならずに奥行が

出ているところが良かったです。私も奈良旅行に行きたく

なりました^^。

 

あとオマケで、『バタフライ・エフェクト』という映画があるのは

知っているけれど見たことがなくて、タイトルはどういう意味が

あるんだろう、、、ってずっと少し気になっていたので、

思わぬところで「バタフライ効果」という言葉が実際にあると

いうこととその意味がわかりました(笑)。原理的には、風が

吹いたら桶屋が儲かるのと同じようなことだったんですね。

ひとつスッキリしました♪有難う、中村航さん。