あのとき始まったことのすべて (角川文庫) 648円 Amazon |
太宰治などで普段と違う読書脳を使った後は、少し
軽めで気楽に楽しめる現代小説でほぐしたくなるので、
さて何にしようかな、と自宅本棚の未読コーナーを
チェック。プレイバック読書の後だから何か”新しいもの”
にトライしたいという気持ちもあり。
以前、本屋さんを散策した時に「知識としては知っている
けれど今まで読んだことのない作家ものを読んでみよう」
気分の時にピックアップしておいたものです。
主人公は、電機メーカーの技術営業3年目。仕事にも
ひとまず慣れて自分なりのペースとか工夫とか、面白さ
が見え始めてきた、”新人”から”いっちょうまえ”への
移行中で日々、10年目のデキる先輩に色々と指南を
受けているところ。なんていうか、仕事という面で見ると
20代の一番よい時期ですよね。懐かしい。
そんな時期に、ちょっとした偶然が重なって10年ぶりに
中学時代の同級生の「石井さん」と再会することになり、
久しぶりに会った石井さんは見知らぬちょっと可愛い女性
であり、昔と「同じ」石井さんであり、10年ぶりの再会は
それはとても楽しく盛り上がり・・・。
10年ぶりの再会をきっかけに、今まで忘れていたような
中学時代のあれこれの記憶が甦りますが、思い出す
ポイントや、印象が自分と相手とでは微妙に違っていたり
するのは、現実社会でも”あるある”ですね^^。
そして、二人の思い出話に登場する、物静かな女の子、
白原さん。実は中一の時に主人公が告白して失恋して
いたなんていう”10年目の告白”なども。
次の章では、その中学時代の白原さんの目線での物語
が挿入されて、石井さんと主人公の再会で再共有された
思い出の補填がされると同時に、この小説のもう一人の
主人公ともいえる白原さんの人物像が深堀されます。
社会人として楽しい時期に差し掛かって公私ともちょっと
の余裕が出てくるタイミングで、懐かしい思い出と仲間
との再会に盛り上がって、新しく始まる恋と、「もう中学生
ではない」現実と。昔と今とは色んなことが違っている
けれども、”ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで
トルネードが起こる”という「バタフライ効果」のように
あの頃に始まったちょっとしたことがずっと続いて繋がっ
って今の自分がここにあるんだね、という、キラキラ
青春あーんどラブストーリー。
読み始めて最初のうち、なるほど、これはひょっとする
と男版・有川浩か?なんて思ったのですが、ちょっと
違う気もする。もっとキラキラ度が高いというか(笑)。
そうかぁ、おおよそ男性の方が夢想家のロマンチストだっ
たりするものね。『君の名は。』の新海誠氏しかり。
と勝手に腑落ちしていましたが、表紙の見開き部分に
乗っていた中村航さんのプロフィールを見て小さな衝撃。
1969年生まれ。まさかの年上だった。自分より年上の
男性がこのキラキラ小説を流れるような澄んだ文章で
書き上げたという事実に驚きました。中学校時代の頃の
ことなんて、よく思い出せましたね・・・(いや、作家本人の
思い出でないにしても^^;)
中学生どころか、主人公の”現時点”である”入社3年目”
の頃のことだって既に危うげな私ですが^^;、そして10年
ぶりどころか、今年久々に都合があって会えた昔の
同級生はなんと20年ぶりだったりしたし、昔の職場の先輩
と久しぶりに飲みに行ったのが7年ぶりくらいだったりという
ことが割と普通にある年頃となった今、久しぶりに会っても
一瞬で”当時”に戻って距離が埋ること、すっごい盛り上が
ってちょっとはしゃぎすぎてしまいがちなこと(つい若い頃
の勢いでお酒飲んでしまって二日酔い・・・)とか、そんな
自分自身も重ねながら、キラキラをおすそ分けしてもらい
つつ楽しく読ませて頂きました。
単に主人公と石井さんの再会と恋物語だけでなく、白原さん
という共通の思い出の少女にもフォーカスをして、ある意味
同じ波長の二人(主人公と石井さん)の交流に、全く別の
波長の白原さんの物語を、しかも過去の時間軸の物語を
挿入したことで、よくある軽めの恋愛小説にならずに奥行が
出ているところが良かったです。私も奈良旅行に行きたく
なりました^^。
あとオマケで、『バタフライ・エフェクト』という映画があるのは
知っているけれど見たことがなくて、タイトルはどういう意味が
あるんだろう、、、ってずっと少し気になっていたので、
思わぬところで「バタフライ効果」という言葉が実際にあると
いうこととその意味がわかりました(笑)。原理的には、風が
吹いたら桶屋が儲かるのと同じようなことだったんですね。
ひとつスッキリしました♪有難う、中村航さん。