制度の概要:誰が対象か
「海外資産調書制度」は、日本の居住者で、その年の12月31日時点で海外資産を合計5,000万円超(日本円)保有している人に、翌年の3月15日までに「海外資産調書」を税務署に提出する義務を課す制度である。
この制度は、2014年(平成26年)度税制改正によって創設され、税務当局が「国外資産の把握強化」を目的として導入した。富裕層の税逃れを防止し、国際的な金融情報交換の一環としてOECDのBEPS(税源浸食と利益移転)対策の一部とも連動している。
報告対象となる「海外資産」とは何か?
以下は代表的な報告対象である。
- 米国株やETF(例:Apple、NVIDIA、SPYなど)
- 海外証券口座にある現金(例:Interactive Brokers口座のUSD残高)
- 海外にある不動産
- 海外の仮想通貨取引所に預けた暗号資産(例:Binanceなど)
- 海外の預金(例:Bank of Americaの口座)
重要なのは「どの国にあるか」ではなく、「日本国外にあるか」が判断基準になる点だ。
申告しないとどうなるか?
この制度には罰則規定が存在する。調書を提出しなかったり、虚偽の内容を記載した場合には、次のようなペナルティがある。
- 過少申告加算税等が5%上乗せされる(調書未提出や虚偽記載がある場合)
- 重加算税が10%加重されるケースもある
- また、資産の所在が把握できなければ、課税逃れと見なされるリスクもある
つまり、「申告しないことで税務調査を誘発する可能性がある」という現実的な懸念がある。
「米国株だけ持っている個人」も対象になるのか?
結論から言えば、「対象になり得る」。
たとえば、NASDAQやNYSEに上場している企業の株式を米国の証券会社(例:Charles Schwab、Fidelityなど)に保有しており、その評価額の合計が5,000万円(約$333K)を超える場合、この制度の報告義務が発生する。
仮に、米ドル建てで$400K相当(≒6,000万円)を米国の証券口座に保有していたとすれば、報告対象に該当する。
「日本の証券会社経由の米国株投資」は?
SBI証券、楽天証券、Monex証券など、日本の証券会社を通じて米国株を購入している場合、それらの証券口座は日本国内に所在する。そのため、たとえ資産評価額が1億円以上あっても、「海外資産調書」の提出義務は発生しない。これは制度の大きなポイントである。
海外資産調書と「国外財産調書」との違い
名称が似ていて混同されがちだが、別の制度である。
- 海外資産調書:合計5,000万円超の海外資産を保有する人が対象(制度の本件)
- 国外財産調書:合計5,000万円超の国外財産を保有し、所得1,000万円超の人が対象(2013年導入)
両者は制度上異なるが、対象となる資産が重なる場合もあるため、個人投資家は自分の資産状況を正確に把握しておく必要がある。
制度導入の背景にある国際的な潮流
この制度は、日本独自の措置というよりも、OECDの税務透明化戦略に日本が連動した動きの一環である。特に、米国との間で情報交換協定(FATCA協定)を結び、米国金融機関が日本人顧客情報を自動報告する枠組みが整っている。つまり、情報は既に税務当局に届く構造になっているため、「申告しなくてもバレない」という考えは極めて危険だ。
米国株投資を行う上での実務的な注意点
- 海外証券会社での米国株取引を行っている場合、年末の資産評価額に注意
- 評価額は時価ベースで判断されるため、保有株の価格変動も影響する
- 報告は翌年3月15日までに所轄税務署へ提出(確定申告と同時期)
まとめ
米国株を中心とした海外資産を築いていく中で、「税務制度への理解」は資産防衛の一部である。「海外資産調書制度」は、純粋に情報の報告義務を果たす制度であり、違反すれば不要なペナルティを背負う可能性がある。正確に把握し、期限を守ることが、長期にわたり安定した資産運用を支える基盤となる。
※備考
本記事は「海外資産調書制度」の制度概要と実務上の注意点に焦点を当てたものであり、特定の投資判断を助言・推奨するものではない。制度の詳細や個別の税務判断については、税理士や専門家への相談が推奨される。



