3日目、この日私は結局頂上まで行けなかった。
何が敗因だったのかなと未だに考えるけど決定的な「これ」という原因は思い当たらない。
ただ原因の一つはエネルギー不足(への不安)かなと思う。
この日の朝食時間は2時を選択した。
出発予定時間は6時だったのでだいぶ早いんだけど、2回目の朝食時間にしていたら6時出発に間に合わないのでやむを得ず2時を選択。
で、あんまり早くご飯食べても出発時間にまたお腹すくだろうからぎりぎりに行こう、と思って2時25分くらいに食堂に行って自分の名前が書かれたテーブルに行ったらなんと、
パンバスケットが空だった。
本来朝食はパン3切れ(ぱさぱさ系のパン2切れとブリオッシュ系のパン1切れ)なんだけど、だれかが私の分まで食べてしまったっぽい。もう来ないと思ったんだろうか。
食堂にいた忙しそうなスタッフのお姉さんに「あの、パンがもうないんですけどもらえますか」とおそるおそる声をかけたら「違うテーブルの余ったパン取って。でも後10分で食堂閉めるわよ」と言われて、大慌てで他の誰もいないテーブルのパンバスケットで余ってたブリオッシュ系のパン1切れを取得。
ついでに大皿からサラミとチーズそれぞれ2切れを取得して、オレンジジュースと紅茶1杯で何とか全部胃の中に押し込んで食堂を退散。
お腹は空いていないんだけどこれだけで足りるはずもなく、前日もあんまり食べられなかったこともあって5時を回る頃にはお腹が鳴り出した。
気休めに、初日シャモニーで買ったプロテインバー1本を摂取。
でその結果、手元の食料が小さなエネルギー飲料2本とプロテインバー1本になってしまった。
これで頂上までの往復(自分の予想では12時間)持つのかな、という不安に苛まれながら6時前、出発。
最初の方はひたすら広大な雪の斜面をジグザグと登っていく。
これなんていうんだっけ。ブロッケン現象、ではない。山の影が向こうの方に見える奴。
危険個所はどこもなく、ただひたすらに雪の斜面を登るだけなんだけど、登っても登っても同じ雪の斜面で、なんかだんだん疲れてきたというか正直飽きてきた。
この時間に下ってくる人達がいたんだけどこの人達は頂上に行ってきたんだろうか。それともどこか違うルート(三山縦走ルート?イタリアルート?)から来たんだろうか。
ひたすら雪の斜面を登っていたら斜度が緩んでコルっぽい所に出たんだけど、この辺りから風がすごくなった。
風が強い、といってもいつかの根石岳山荘前やテイデ山で経験したような、体が吹っ飛ばされそうな程の強風、という訳では全然ないんだけど、風が強くて顔が冷たいを通り越して痛く(フェイスカバーだけでバラクラバを持ってこなかったのは失敗だった)、しかも顔だけじゃなく体全体もなんかだんだん寒いな、と感じるようになってきた。
お腹が減っているせいか全然力が出なくて、5歩歩いては休み、5歩歩いては休み、寒い寒いと思いながらのろのろと進む。
進みながら、「この風頂上まで続くのかな?今の時点で『寒い』と感じるのは危険では?食料持つのかな?行って帰ってこられるのかな?」と不安がどんどん大きくなっていった。
とりあえずヴァロ避難小屋まで行こう、と避難小屋を目指す。
これは帰りに撮った避難小屋までの道。
この左の方から上がったんだけど、小屋直下は氷の斜面になっていて、そこをトラバースするのにちょっと神経を使った。
滑落しても死にはしないと思うんだけどせっかく登った数10mを無駄にしたくない。
小屋には、ガイドパーティと思われる3人組と、ソロの若者と、私の5人がいた。
私の顔色が悪かったのか、ガイドパーティのガイドさんが「毛布を巻くといいよ」と声をかけてくれる。
でも正直あんまり手を触れたくない感じの毛布だったので適当に膝にかけていたら、「そうじゃない。直接座ると冷たいからまず毛布1つ敷いて、2つ目はこうやってかけてから体に巻いて」とガイドさんがそこら辺の毛布をかき集めてぐるぐるに私を巻いてくれた。
メルシー、ムッシュー。
毛布巻いてもしばらくがたがた震えてたんだけど、飲み物飲んだりしたらだんだん落ち着いてきた。
落ち着いてから、モンブランはこれで9回目、という地元出身の若者の話に相槌を打ちながら、自分のこれからのことを考えていた。
私はここから頂上まで行って帰ってこられるのか。
なんか力が出ないし寒い。
寒さは、ベースレイヤーの腕が捲れていたりしたのを直したので少しましになるような気もしたけど、ここから標高が上がったらもっと寒くなるんじゃないのか。
ここから見る限り、風を防ぐようなものは何もない。
私のこの日の装備はミレーのアミアミの上に
上5枚:ミズノのサーモ+モンチュラのナントカマグリア+モンチュラのフリース+マムートのノードワンドプロ+パタゴニアのDASパーカ(+背中にカイロ)
下3枚:モンベルのメリノウールタイツ+モンチュラのエクスカリバー+マムートのノードワンドプロ
もうこれ以上着られるものがない。SOLのエマージェンシーシート巻くくらいしかできない。
防寒装備Maxで「寒い」と感じる状態で進むのは正しいのだろうか。
そして食料というかエネルギーが足りるのか不安。
ここから頂上まで通常は2時間だけど私はたぶん3時間はかかる。ヴァロ小屋起点で考えて往復6時間。
ここから進むことはできるけど、途中で寒さを我慢できなくなったら?
エネルギー不足で動けなくなったら?
後、トイレも微妙に行きたい。
だけどここまでもここからも花摘めるような物影はないし。。。ヴァロ小屋周辺で頑張れば物影を探せそうな気もするけど。。。凍ってるところもあるからちょっと怖い。
グーテ小屋まで我慢できるんだろうか。
こういう時女性は不便なんだよな。。。男性は後ろ向いて立ったままパッとできるけど。
などと悶々と考えた結果、引き返そう、と決めた。
なんか、いろいろな心配事ばっかりで全然楽しい気持ち、わくわくした気持ちがなくなっていた。
それはもう自分にとっては山行を続ける意味がないな、と思った。
一緒にいたガイドパーティのガイドさんにお礼を言ってから「私もうここから引き返します。なんか調子悪いから」と言うと、すんごい吃驚した顔をされた。たぶん絶好のコンディションで時間もまだ早いのになんで引き返すんだ、と思ったと思う。
でも「それはwise decisionだね」と慰めてくれた。おっちゃん、まじメルシー。
というわけでこれが私のこの旅の最高到達地点(ヴァロ小屋は4362mなのでちょっと標高はずれている)。
外に出て、上に向かうガイドパーティと若者に「頑張ってね」とあいさつして別れ、下る。
コルに着いたところで振り返って見上げた所。
時間は早いので、まだまだ下から登ってくる人達はたくさんいたい。
登ってくる人達を見るたびに、(私は今もったいないことをしているのでは?)という考えが頭を掠めたけどまた登りなおす気力は全然湧いてこなかった。
下るだけなのに全然力が出なくて途中で休み休みグーテ小屋に帰った。
グーテ小屋の部屋に帰って仮眠して起きたら隣のベッドでごそごそしている人がいて、ちょっと話をした。
同じようにソロで今日頂上を目指したけど体調がいまいちで戻ってきたという。
私よりはだいぶ早く出発しだいぶ先まで行ったようだけど、勝手に親近感。
流れでお昼を食べに行くことになり、色々と話をした。
何とグアテマラから来て、モンブランは今回が3回目でまだ登頂できたことはない、という。
情熱がすごい。。。自分はまたモンブランに挑戦したいかと問われると。。。うーん。。。
うーん。。。と思いつつも、午後になってモンブランから返ってくる人達が増え、食堂でガイドさんとシャンパンでお祝いしたり家族に「登頂できたよ!」と電話したりしている人達を見ていると、(もうちょっと頑張れば良かったかも?)という後悔が結構湧いてきた。
ヴァロ小屋で休んだ後はウェアを直したおかげか寒さはそこまで感じなかった。
風は強かったけど天気は午後まで申し分ない予報だったし、食料は心許なかったけどゼロというわけではなかったし、トイレだってあの後人のいなくなるタイミングを待ってヴァロ小屋の影で済ませることもできたかもしれないし、もっと頑張れば良かったのかもしれない。
私は絶好の機会を無駄にしたのかもしれない。。。
と思う一方で、引き返す判断は間違っていなかったのかも、と思ったりもした。
この日夜、踊り場で荷物を整理していて横に別の宿泊客のおじさまが来たのでスペースを空けようとしたんだけど、何を考えていたのか、私はそこで後ろに下がってスペースを空けようとした。
当たり前なんだけど踊り場なので後ろにスペースなどなく、足を踏み外して体が後ろに傾いた。
とっさに体をひねったので階段を途中まで滑り落ちただけで済んだんだけど、階段にへばりついたまま茫然と上を見たら、おじさまも茫然と私を見ていた。そりゃ吃驚するよな、すみません。
「なんか、疲れてるみたい、へへへ・・・」とアホみたいな笑いと言い訳をひねり出すしかなかったんだけど、すんごい同情的な目で肩をぽんぽん叩かれた。
たぶん、だいぶ頭が働いていないというか疲れていたんだろうなと思う。
下手したら「日本人宿泊客、グーテ小屋内で転落し救助」みたいなアホみたいな事になっていたかもしれない。
なので、引き返したことに対する後悔もある一方で、こんだけ頭働いてないならあそこで引き返したのは正解だったかも、という思いもある。
夕食の時に同じテーブルになった人達は、私とグアテマラの人以外はガイドパーティで本日登頂できたことを祝う人達ばかりでそれを見てたらちょっとまた後悔が大きくなってきた。
一人の人はカナダからとのことだったけど、どう見ても60過ぎていて、それでいてものすごく元気だった。
私とロドリゴ(グアテマラの人)が今日引き返してきた、というと、カナダの人もそのガイドも「明日また挑戦してみたら?せっかくなんだから」と言う。
ロドリゴは迷っているようだったけど、私は全く挑戦する気になれなかった。
あのただひたすら何にも景色の変わらない雪原を登る時間をもう1回繰り返す元気がない。。。
もったいないかな、と思う気持ちもありつつ、かといってもう一度挑戦する気にもなれないまま、もし万が一仮に2時頃目が覚めて元気が有り余っていたら考えよう、と思いつつ就寝。










