モンブラン山旅一日目。
前日は殆ど眠れなかった。
テートルース小屋が予約できたことでこの日の旅程はそんなに厳しいものではなくなったけど、翌日以降への不安があったのかもしれない。
始発のバスでベルビューのケーブルカー乗り場に向かう。
平日だと始発のゴンドラには間に合わなそうなんだけど休日は6時台のバスがあって、7時過ぎにはケーブルカー乗り場に着いた。
チケット売り場は開いていないので開くまで待つ。
待っている人は結構いるけどヨーロッパなので列を作って待ったりはしない。日本人としてはやきもきする。
ここからテートルース小屋までは標高差2172m。
列はなかったもののチケット売り場がオープンしたらなんか自然な流れで列みたいなのが出来、チケットを購入し幸い最初のケーブルカーに乗ることができた。
ー ただ適当な列なので、私の後から来た人でもたまたま立っている場所が扉に近く先にチケット買ったりしていた。
ケーブルカーはそこまで大きくないのでもっと繁忙期だと場合によっては始発に乗れなくなる気がする。
このヨーロッパの「並んで待つ」という習慣がない所、未だに自分にとってはストレスたまる。
(列のためにあらかじめ場所が区切ってあったりするところはさすがにこっちの人もちゃんと並ぶ)
数分で頂上駅到着。
なんかこの先に、山小屋の予約を確認しているのかな?と思われた男女2人がいた気がしたんだけど、私が準備している間にいなくなっていたので気のせいかもしれない。
この左の坂を上がる。
ここからテートルース小屋までは標高差1373m。私にとっては結構な距離。
グーテ小屋までは標高差2023mとのことなので、ほんと初日テートルース小屋の予約が取れて良かったなと思う。
この辺りで、テートルース小屋まで2時間35分、の標識を見たんだけど、当初は線路沿いを上がるつもりだった。
線路の脇に小道がある。
当初この線路沿いを上がっていたんだけど、15分程経ったところで、なんでそんなことを思ったのかわからないんだけど、突然、
ほんとにこの線路はニーデーグルまで行くんだろうか
と不安になった。
私の前後に誰一人歩いていなかったからかもしれない(今思えば私がのろのろ準備し過ぎておんなじケーブルカーの人はみなはるか先を歩いていたんだと思う)。
そしてここから、今思い返してもどう考えても自分の頭がいかれていたんだけど、謎の行動&思考回路になった。
まず、不安になったところでYamapの地図を取り出した。
で、自分の今いる位置から線路のマークをすいすいスワイプしていったら、
Mont Lachat
という駅に続いていることを発見した。
もしこの時そのまま線路をスワイプし続ければ、線路はMont Lachatを経てやがてニーデーグルに達する、ということがわかったはずなのに、私はMont Lachatの文字を見た瞬間何故か、
やばい、まちがえた
とプチパニックになった。
私の事前知識では、ベルビューからニーデーグルまでは一駅のはず。
↓
モンラシャという駅名はなんかで見た気がするけど、ベルビューの次がモンラシャなのはおかしい(*注*おかしくないです)。
↓
ということはちゃんと調べ切れてなかったけど、きっとベルビューからは線路は二路線あって私はニーデーグルに行く路線ではなく間違えてモンラシャに行く路線を歩いてきてしまったんだ(*注*線路は1本です)
↓
引き返さなきゃ!
という正常な人が宇宙猫になりそうな謎思考により、慌てて引き返し始めた。
別に地図上の線路をそのままスワイプし続ければ「ニーデーグル駅」の文字が見えて間違っていないことがわかったはずなのに、何故こんな思考になり結局引き返してしまったのか今もって謎。
前日もそうだけど、ここ数日初日グーテ小屋まで行けるかとかテートルース小屋の空きがあるかとか色々不安過ぎて寝不足だったからかもしれない。
とりあえず確実に言えることは、この時私の思考回路はショート寸前、というかショートしてた。
そして思考回路がぷっつんしたまま、それまで20分程登ったのを無駄に引き返して、正規のトレイルを辿ることにした。
ちょっと時間を無駄にしたものの、結果的にこのトレイルを歩いて良かったなと思う。
このトレイルは最初ちょっと高度を下げた後はほぼ水平距離を歩き最後に一気に高度を上げる、というルート。
当初は木陰を歩くことができるし景色は素晴らしい。
途中何か所か鎖場が出てくるけど危険ルートは全くない。
これは何の侵入を防ぐ目的なのか、扉みたいなのが何か所か設置してあった。
装備からしてモンブランではなさそうだな、という人達もいたんだけど、恐らくこのルートはツールドモンブラン(TMB)の一部になっている気がする。
この野原みたいなところでTMB(?)とニーデーグル行きのルートが分岐する。
ここを過ぎると急激に登りになり、しかも結構朝日が当たって、あっという間にヘロヘロになり始めた。
小さな雪渓がまだ残っているところもあるけど何にもつけなくても大丈夫な程度だった。
雪渓を渡った後は日陰だけどすんごい急な崖についた道で一気に高度を上げていく。ばてる。
日陰の崖道を登り切った後はじりじりとお日様に焼かれながら更に高度をあげていく。
あそこに線路っぽいものが見えるということはもうすぐニーデーグルだと思いたい。
ニーデーグル小屋がようやく見えてきたけどここからがまだまだ遠くて絶望。
よれよれになりながらニーデーグル小屋到着。
よれよれのバテバテだけど、一応最初の30分くらいのロスを除けば3時間弱くらいで来られた。
コースタイム(2時間35分)よりはかかっているけど、これなら「17時までにテートルース小屋にチェックインする」という目的は達成できそうで安心する。
干からびていたのでここで飲み物を2本買い足す。
食欲はあんまりなかったんだけど、とりあえず何かお腹に入れようと思ってスープを頼んだ。
小屋に着いた時は全然人がいなかったんだけど、のろのろスープを啜っている間にどんどん人がやってきた。
結構軽装、というかトレランスタイルの人達が多くて、この人達はどこまで行くんだろう、と不思議になる。
犬も来ていた。
スープをちびちびしながらルートを確認していたら、想定していたルートの下にちょっと短そうな別のルートがあるのを発見した。
この下の地図で上のルートを行っている記録が多い気がするんだけど、下にもルートがある。
短そうでできればこっちを行きたいな、という誘惑に駆られたんだけど、このルートがどんなところなのか全然下調べしていないのと、最後テートルース小屋に微妙にたどり着かず道が途切れているのが気になる。
ここはもう恥を忍んで小屋番さんに聞こう、と思って小屋の中に入って聞いてみたところ、「この下のルートもテートルース小屋に行くよ。ただ、雪が多い時によく使われるルートだから今の時期は上のルートを行ったほうがいいよ」とのこと。
なるほど。なら素直に当初予定通り上のルート(ニーデーグル駅から上がるルート)を行こう、と思って1時間くらいの休憩の後小屋出発。
ただ、最初はルートが明確だったんだけど、ちょっと行った辺りでルートを見失ってしまった。
この辺りでルートを探してうろうろする。
一応、ニーデーグル駅からのルートは隣の尾根上に見えているんだけど、微妙にガレた急斜面を下らなきゃ合流できそうになかったりしてあまり行きたくない。
悩みながら(でもここであってるはずなんだよな)とYamapの地図を眺めながらきょろきょろしていたら、上の方から下ってくる人が見えてここでも恥を忍んで「テートルース小屋から下ってきました?」と訊いてみた。
そしたらちょっと間があった後に、「そうだけど、道が悪いのであまりお薦めしない。一番良いのはニーデーグル駅まで引き返して駅からのルートを上がることだよ」と言われてしまった。
うーんそれは嫌だ。。。
たぶんこの人が言っているのはニーデーグル小屋の小屋番さんが「もっと雪がついている時のルート」と言っていたルートの事な気がする。
私はそっちに行きたいんじゃなくてニーデーグル駅からのルートに合流したいんだよな。地図上では道があるから。
でもこの人はどうやら英語があまり得意でないようで、私の方もこれをフランス語で説明する能力はない。
なので結局Yamapと周りを交互に見つつそのまま進むことにした(アドバイスを無にしてすみません。)
しばらくしたら横切れそうな雪渓が出てきたので雪渓を横切りニーデーグル駅からの道に合流。
このログの下の方のルートがこの日ニーデーグル小屋から上がったルートなんだけどルートを大幅に外れているのがたぶん迷った辺り。
小屋からのルートはニーデーグル駅からのルートに比べてちょっとわかりにくい所がある。
何とか正規ルートに合流できてほっとする。
この辺りは結構アイベックスが多い。
ひょっこりアイベックス。
暑くてばてばてだけど振り返れば景色は最高。
でも前を見ると道のりはまだまだ遠くて絶望する。
遠くの方にグーテ小屋は見えるけどここからはテートルース小屋は見えない。
この辺りで雪渓をえっちらおっちら登っていたら、上の方からニーデーグル小屋で見たトレランナーの集団がヒャッハーしながら降りてきて吃驚した。
このトレラン集団はどこまで行ったんだろう?
トレランシューズだし超軽装でヘルメットもないしまさかグーテ小屋までは行ってないと思うけど。
(でも翌日グーテ小屋に向けて岩場を登ってたらトレランシューズみたいなので降りてきてた人もいた)。
でもテートルース小屋までだとしても私がスープ啜ってる間にここからまだはるか先に思えるテートルース小屋に到達して降りてきたってことなんだからすごい俊足だ。。。
登山道の真ん中で堂々と寝転がってるアイベックス。
行きも帰りも何頭かいたのでこの辺りが縄張りなんだろうか。
アイベックスを邪魔しないように回り込んで登ってたら、後ろから別のアイベックスが登ってきた。
君らすごいよね。そんな雪の急斜面でもアイゼンとか必要ないもんね。
そしてテートルース小屋、遠い。。。
最後の岩尾根をひいひい言いながら登る。
雪は多少ついているところもあったけど、アイゼンなしでも行けた。
ようやくテートルース小屋が見える。
ちなみに私が半分魂抜けながらのろのろ登ってる間、この横の雪斜面をヒャッハーしながら降りていく集団(雪山装備ではあった)がいた。
結構急だったけどすごいな。。。
岩尾根を登り切った所に山小屋の予約を確認されるという噂の検問所(?)があったけどこの日は閉まっていた。
ここでノルウェーから来たというおじさまと少し話をして、「じゃあ山小屋でまたね」と私が先に出発したんだけど、この何でもない雪の平原をへろへろで5歩歩いては休み、5歩歩いては休み、と歩いてたら後ろから軽快に歩いてきたノルウェーおじさまに「手貸そうか?」と笑われた。
ヘタレに生まれてすみません。
到着は16時半。ニーデーグル小屋を出て4時間半。
ニーデーグル小屋の小屋番さんは「テートルース小屋まで僕は2時間もかからないよ」と言っていたし殆どの人の記録では3時間くらいで行けているので、如何に私が駄目かということがわかると思う。
ノルウェーおじとか、失礼ながら私より20歳くらいは上に見えたんだけどな。。。
岩尾根で干からびた私がへろへろと登っている後ろからしっかりした足取りで登ってきてすいすい抜かしていき、検問所で休憩した後の数十mの道も結局抜かされてしまった。
問題は年齢じゃないんだ。私がヘタレなだけなんだ。。。
とちょっぴり悲しくなりながらチェックイン。
「〇〇と言います」とフランス語で受付のお姉さんに伝えたら、
「あら、あなたね。キャンセル待ちの。あの時電話取ったの私よ」
と英語でにっこり言われて、
我が女神よ、ここにいらっしゃったのですね
となった。
「あの、本当に有難う。ほんとのほんとに有難う。あなたのおかげで助かりました。一日でベルビューからグーテ小屋まではとても行けなかったから」
と伝えたけど、もっと感謝の気持ちをうまく伝えられない自分の乏しい英語力が恨めしかった。
ここまでの所要時間とバテ具合を考えると、初日に17時までにグーテ小屋到着は絶対無理だったと思うので、ほんとこのお姉さんのおかげで助かった。
チェックインした後、外で景色を眺めてごろごろする。
テートルース小屋もグーテ小屋もインナーシーツ必須なのでテートルース小屋で購入した。
上の方に旧グーテ小屋とその右にグーテ小屋が見える。
旧グーテ小屋の下がルートである尾根のはずだけど、この尾根を登るの、私は一体何時間かかるんだろうか。。。
で、たぶんあれが悪名高いグランク―ロワールなんだろうな。
この写真だと右下のあたりにトラバース跡が見える。
雪は思ったより結構溶けてる。
そしてトレースがちょっと上り坂気味についているのを見て憂鬱な気分になる。
早く通り抜けなきゃいけない所なのに私のヘタレ体力では登りを素早くなんてことは絶対無理だ。
グランク―ロワールは上り坂が憂鬱ではあるもののまぁ運みたいなものだからそんなに不安はないんだけど、その後の尾根が自分の予想より結構ハードそうに見えて明日の不安でぎゅっと胃が重くなった。
まぁ、明日はグーテ小屋に登るだけだから道を迷ってもいいからゆっくり確実に行こう。
もう17時を過ぎてたけど上から下って来て更にそのまま下っていこうとしている人達がいて、この人達は今日どこまで行くんだろう、と不思議になった。
10時頃までは明るいとはいえ、今から降りたらニーデーグルつくのは8時にはなるだろうし。。。
皆タフだな。。。
グーテ小屋の食事の前菜のスープ。
なんか味に覚えがあるな、と思ったら昼にニーデーグルで食べたのと同じだった。
メイン(スープとメインの間にサラダもあった気もするけど忘れてしまった。気のせいかもしれない)。
おいしかったけど例によってお腹空いてるはずなのに全然食べられず肉2切れを飲み込むのが精いっぱいでクスクスも半分以上は残してしまった(普段嫌いな野菜はなぜか全部食べられた)。
テーブルは小屋から指定される(名前を書いたプレートがおいてある)。
ノルウェーのおじさまと同じテーブルになったのでまたちょっと話をした。
モンブランにはもう何回も来ていて、明日は頂上を目指しそのまま麓の駐車場まで降りるという。
「そのまま麓の駐車場まで!!??」と目が飛び出そうになった。
私が真似しようとしたら確実に疲労で途中で滑落してると思う。
このノルウェーおじさまだけではなく、翌日や翌々日もいろんな経験豊富な人や体力化け物みたいな人達と出会った。
食堂に松本清張の本があった。
"Inspector Imanishi Investigates"ってそんな本あったっけな、と思って帰国後に調べてみたら「砂の器」だった。
アルプスの山小屋においてる日本の本が「孤高の人」とか「神々の山嶺」ではなく「砂の器」なのちょっとおもしろい。




