週末雪山教室@シャモニー②:【1日目】メールドグラス氷河の上でギャンブリング懸垂下降 | 海と山、時々きもの

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ダイビング記録+きもの試行錯誤の覚書。…だったはずなのに最近は山歩きの記録簿と化しつつある。
23年秋から山のない国に滞在中のため山歩き頻度は低下中。

今回参加したのは、ネットで適当に検索してたら見つけたシャモニーガイド協会主催の雪山教室。
 
これまで日本では冬に雪山登山教室に何度か参加してきたけど、ヨーロッパの山はきっと日本の山とは違うだろうし、こちらの山の登り方を知るためにこちらで登山教室に行っておこう、と思ったのが参加動機。
シャモニーガイド協会はいろんなコースを提供しているけど、私が参加したのは「冬山登山教室3日間」のコース。
ハーネス、ピッケル、アイゼン、ヘルメットのレンタルを含めて686.44ユーロ。
目的と必要体力・技術レベルについての記載は以下の通りだった。
 
【目的】
・雪崩リスクの理解と冬山登山の入門
・岩雪ミックスの登山テクニックの向上
 
【必要体力レベル】
・定期的に運動をしている方
 
【必要技術レベル】
・事前の登山経験ある人対象。アイゼンとピッケル経験、クライミング経験、基礎的なビレイ経験のある方対象

「クライミング経験」と「定期的に運動をしている方」の部分がやや心もとないけど、前者についてはまぁないことはないので、この際試してみよう、と思った。
 
ちなみに、↑のコース募集もコース概要の記載も全部英語で、コース概要にも「英語による教室」と書いていた。。。。ような気がしていたけど、それは気のせいであったことを後から知る
 
1日目の前日、コース用に作られたWhatsappのグループ名が、私が申し込んだ「Winter mountaineering course」ではなく「stage alpinisme hivernal」と思い切りフランス語だったのを見たときにちょっと嫌な予感はしたし、グループでの最初のガイドさんからのチャット、
 

やあみんな。僕は君たちのガイドの一人、Aだ。明日の集合は9時にモンタンヴェール駅。明日はメールドグラス氷河で云々

 

みたいな案内が全編フランス語で来たときに嫌な予感9割増しになった。

 

その後もう一人のガイドのB(事前電話くれた人)から補足チャットが英語で入ったものの、「English SpeakerのためにさっきのAの言葉を訳すと明日は9時にモンタンヴェール駅集合でヨロシク」という、フランス語の原文で重要と思われた情報(軽食持参とか、どこで何をする予定とか)が9割抜けているものだった。

 

当日朝、嫌な予感を抱えつつもモンタンヴェール駅に向かう。

 

それっぽい4人組を発見したので近づいて「これってシャモニーガイド協会のstage alpinisme hivernalですか?」と話しかけてみたら、そうだよ、と返ってきた。

 

「ティボー」「フランソワ」「アドリアン」と自己紹介されて、オワタ、と思った。

 

どう考えてもフランス人や。。。

 

最後の一人に「ダニエレ。イタリアから」と言われて、友よ、と救われた気持ちになったけど、ダニエレはティボー達と普通にフランス語で会話しだしたので、やはりオワタ、と思った。

 

え、コースって英語じゃないんだ??フランス語なのか?英語の登山用語ですら理解できるか自信ないのにフランス語はマジで終わる。

 

と焦っている間にガイドの2人登場。一人(B)は名前と見た目がどう見てもアメリカ人だったけど、吃驚するくらい訛りのない綺麗なフランス語を喋っている。

そうこうしているうちに残りの参加者2人も登場したけど、他の人達とフランス語で話し出して、ワタシ氏、完全に終了。

 

英語話者、私だけかよ、まじか。。。

 

もう一人のメインガイドと思われるAに「フランス語は喋れる?」と聞かれて「いや、ほぼ無理」と答えたのでAは最初の説明はフランス語の後に英語で補足してくれたけど、だんだんフランス語だけになり始めた。

 

諦めて黄昏ながら山を眺める。

 

まぁいいや。わかんなくても。。。見稽古だ。今日は見稽古だということにしよう。
 
モンタンヴェール駅10時発の登山電車に乗り、メールドグラス氷河を目指す。
終点近くにもホテルがあって吃驚した。
 
終点について展望台のようなところに出る。
 
そこで終了かと思ったら、一般には解放されていないっぽい工事中のロープウェーで氷河まで一気に降りた。
すごい山容だ。
 
あれがメールドグラス氷河だな、たぶん。
 
ツアー客っぽい人達が続々と出発していっているのが見える。
 
氷河の上、到着。
 
なんかかっこいい山がある。
 
私の中で、ヨーロッパの山で尖ってる山といえばマッターホルンなので、あれがマッターホルンかな、などと考えてしまったけど後から地図を見たら全然違った。良かった。ガイドに「あれってマッターホルン?」とかあほな質問をしなくて。
 

 
ロープウェーの駅からちょっと下ってそこらへんの氷河の氷で講習スタート。
 
どんなことをやるんだろう、と緊張していたけど、氷の斜面の歩き方とかフロントの爪を使った氷壁のトラバースとか、アイゼンをつけたままの岩の歩き方とかで正直少し拍子抜けしてしまった。
 
氷壁の蹴り方が強すぎる、そんな強く蹴りこむんじゃなくて、小刻みに何度も蹴るので良いんだよ、と指導されるゴリラ。
すみません、脳筋で。
 
氷壁の歩き方が終わった後にアイススクリューの使い方講座があってこれは今まで未経験だったのでちょっと新鮮だった。
カラビナは外向き。
 
間はあんまり開かないほうがいい。これくらいの距離ならOK.
 
間が開きすぎは強度の観点から良くない。80度がMax(と言っていたように思うけど記憶がやや曖昧ので違うかも)。
クローブヒッチでカラビナをかける。等距離になるように。
 
ガイドさんが説明(フランス語)時「カヴェスタン」という単語を繰り返し言っていたので頭んなか「????」だったけど、「英語ではclove hitch」と言ってくれたのでああロープの結び方を説明してたのか、とわかった。
結び方を見てクローブヒッチだ、とわかる程クライミングをやっていない悲しさ。
 
フランス語ではクローブヒッチはcabestanというのか。まぁ私が実践でその単語を使うことは一生なさそうだけど。
 
アイススクリューの使い方をちょっと復習してから昼食休憩。
この講習の間中背後の崖からずっとコンスタントに落石の音がしていたけど、改めて落石激しいな、と思った。
雷の音みたい。
 
昼食を終わってから講習再開。
場所を移動する、と言われて氷河の端っこに移動。アメリカ人ガイドBが何か説明(フランス語)しながら氷壁にスクリューで穴をあけてるなーと思いながら見てたら、その穴に巨大かぎ針みたいなのを使ってロープを通しだした。
この穴の角度は60度くらいが良い、と言っていたような気がするけど気のせいかもしれない。
 
フランス語を右から左に聞き流しながら何やってんのかなーと眺める。
 
ん?まさか降りるのか?
 
どうやら懸垂下降するっぽいけど、なんでさっき習ったアイススクリューを使わないんだろう。
と思って「なんでそんなことするの?」と聞いたら「そしたらアイススクリュー残さなくて済むでしょ」と言われた。
 
いや、そうだけどさ。。。
 
「その穴の強度が大丈夫かってどうやってわかるの?」
 
と聞いたら、横のフランス人3人組から「nobody knows」と返ってきた。
 
nobody knowsまじか。
 
嘘だと言ってくれよ、と思ってガイドのBを見たら苦笑いしつつ「その通り。わからない。でもこれくらいの氷河なら大丈夫だよ」と返ってきた。
 
まじか。
 
え、まじか。
 
そりゃプロのガイドなら「これくらいなら大丈夫」がわかるだろうけど、そんなん素人が判断すんの無理やん。
その「これくらいなら」を知りたいんだが。
 
と思ったけど、まぁよく考えれば自分の登山の中でこの技術を使うことはたぶんないだろうと思ったので講習の邪魔をしないように黙っておいた。
 
「最初に降りる?」と笑いながら聞いてくるお茶目なフランス人3人組。
 
謹んで遠慮します。
 
かといって最後も嫌なので、2番目くらいにさっさと降りることにした。
ギャンブリング懸垂下降するへっぴり腰のゴリラ。
 
幸いにも私の体重で貴重なメールドグラス氷河の一端を破壊するようなことにはならなかったけど、全体重があの氷壁にあけた穴にかかってると思うと今までの懸垂下降の中で一番スリリングではあった。
 
懸垂下降した後は、そこらへんの氷壁でアイスクライミング講習。
 
手前の方が難易度が低い、と言われたので迷わずそちらを選んだ。
アイスクライミングはクライミングに比べたらまだ好きだけどあんまり好き好んでやりたくはない。
 
登ってる時はまだいいんだけど、ビレイするときめちゃめちゃ緊張する。
私がこの手を離したら人が死ぬかもしれない、というのは怖すぎる。
 
ビレイ用グローブを持ってきてなかったので最初普通の毛糸グローブでやってたんだけど、ガイドのAに「それはちょっと滑るかも」と言われたのでグローブ放り出して素手でロープを握った。
素手でビレイって一番やっちゃいけない奴じゃないっけ。。。まぁガイドさんが何にも言わないのでいいか。
もしパートナーが墜落しかけたら手が裂けてもロープを離さない所存。
 
前にこの街でロープクライミングの講習受けたときも思ったけど、ビレイヤーってめっちゃ体力と筋力使う気がする。
私がへたくそだからかもしれないけど。
 
登るのとビレイと交代交代で2セットくらいしかやらなかったけど、結構へろっとなりながら講習終了。
 
終了後ロープウェー駅までちょっと登り返し展望台へ、そこから再び登山電車でシャモニーへ帰る。
そのまま解散か、と思ったら「明日のブリーフィングのためにそこらへんのカフェに入ろう」と言われて全員で近くのカフェに入った。
 
なんか、明日からのコースはレベル別に2組に分ける、明日の天候は今日よりちょっと寒いからあったかくして、みたいなことを言っているのはわかったけど、如何せん私のフランス語レベルではそれ以上は聞き取れず、だんだんしんどくなってきて聞くのを放棄してしまった。
 
そしたら「????」が顔に出ていたのか、今日のクライミングのパートナーだったエリック(ベナン出身。フランス語話者の参加者の中でたぶん一番英語が流暢)がわざわざ席を変えて近くに来てくれて「今言ってるのわかった?明日はね…」と一々教えてくれた。
 
エリック~あんたええ人や。。。
 
同じ参加者に負担をかけるのはよくない、と反省したので「明日の標高差はどれくらい?行きは何時間くらい歩くの?」と聞いてみて、200mくらい、行きは1時間半~2時間、と回答をもらった。
 
200mで2時間ならまぁ。。。何とかなるか。
 
そんなに大変ではなさそうだ、と思いながら16時頃ホテルに帰り、へろへろだったけどパンを齧りながらちょっと仕事をした。
 
この日の講習自体は、自分がアイスクライミングにあんまり興味ないこともあって正直、満足度は普通かなという印象。
氷壁の歩き方なんかは、日本で受けてた雪山教室の方が体重移動の仕方や足の置き方などを理路整然と教えてくれて丁寧に感じた。
ただ、ヨーロッパの雪山を歩くのに何か特別な技術が必要だったらどうしよう、と思ってたけど、どうやらそんなこともなさそうだ、というのがわかったのは大きかったように思う。
 
ビレイに緊張しまくったせいか、腕がすごい筋肉痛になっているのを感じながら20時には就寝。