私が物心ついた頃に住んでいた実家は「となりのトトロ」のメイとさつきの家のようなボロい家だった。
おそらく住んでいた当時でも築30年は経っていたのではないかと思うが、風呂はバランス釜、トイレは和式、台風が来れば雨漏りするし、夏場は室温と外気温が一致するような有様で、あまりにも暑いので夏場の日中はとにかく涼しいところに行ってこい、とよく家を追い出された。
地震が多い地域だったので、この家に住んでいたらいつか「8時だョ!全員集合」の舞台セットのように平たく潰れた家の下敷きになって死ぬのだろうと思い詰めたこともあった。
そんな家だったが、唯一住んでいてよかったと思えるメリットが「家の庭に桜の大樹がある」ことだった。
梶井基次郎が見たら「この木の下には少なくとも2人は埋まっているだろうな」とでも言いそうなその桜の木は、家の前の坂道からも目立ち、夕暮れ時にふと風が吹いて花吹雪が夕日に輝く光景は、今思えば最高にエモい光景だった。
私が幼稚園児だった頃は、春休みの昼時になると庭先に折りたたみ椅子を出して、母に弁当を作ってもらって庭先で花見をしながら昼食を取っていたこともあった。
そんな桜も私が小学生くらいのころには老化が進んだことで危ないと判断した大家さんが業者を手配して伐採してしまい、唯一の住まいの楽しみはそこで終わりを迎えた。そして私が高1になった冬、ドリフセットの家を引っ越して現代的な家に住むことになった。
って話を、先日撮った花見の写真を見返しながら思い出した夜更けの昔語り。
(Sony α6000 + SIGMA 30mm F2.8 DN Art)

