中央アルプス・歴史の古道で登る花の名山経ヶ岳(西箕輪〜権兵衛峠) | 単独行者の山行録

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歩いた山々の記憶を詳らかに。
山行中心の備忘録。

7月23日連休2日目は前日深夜に現地に前泊して日帰りで中央アルプス北部の日本二百名山の一座、経ヶ岳へ。
今年の夏山は実家の事情で身動きが取れず、6月の八ヶ岳日帰り1回のみで潔く諦めるつもりだった私。
でも7月、8月を残して日に日に募る夏山への想い···。
今年は日本アルプスに行けず仕舞いでそれで良いのだろうか。
日帰り可能な日本アルプスの山も無い訳ではないけれど、主要な山はかなり厳しいコースタイムを求められ、時間に追われる山行はどうしてもリスクが高くなってしまう。
文明の利器を使えば日帰りも現実的ではあるけれど、費用が嵩む上にこの齢でズルしてまで登ろうとは思わない。
となると、同じ日本アルプスの山でも前衛峰だとか、割りと市街地に近い山が候補に挙がってくる。
北アルプスの有明山とか、中央アルプスの経ヶ岳や南木曽岳がまさにそうで、予てから計画を立てていた私にとって未踏の山々だ。
この中で言えば有明山が一番興味があるのだけれど危険を孕む割りと険しい山なので、比較的安全(と思われる)な経ヶ岳を選ぶことにした。
実家の猫や親の面倒の為にも五体満足で帰らねばならないからだ。

始発待ちの篠ノ井線平田駅より北アルプス前衛の山並み。
例によって費用を浮かせる為に漫喫で前夜泊。
松本駅から二駅且つ駅の目の前という最高のロケーションなので、今後もお世話になるだろう。
塩尻、辰野と2回乗り換えて初めての飯田線に乗車。
そして初めて訪れる南信地域に俄然気分が高揚する。
車窓からは中央アルプスの核心部、その手前には今日登る経ヶ岳。※実は今回が初めての中央アルプス
初めての山域を前に目的駅に近付くに連れて鼓動が高鳴る。

伊那市駅からはタクシーに乗り換え。
何でも今回のコースの登山口はかなりマイナーなようで、地元のタクシーの運ちゃんでも判らないよう。
経ヶ岳に登る人は何人も乗せたけど、ここは初めてだと・・・笑
とりあえず、地図を確認してもらい、北沢橋までと依頼した。
寂れた集落を抜け左右から伸びた雑草を掻き分けながらタクシーは山奥へと入っていく。
そして車での進入が可能な地点で下ろさせてもらったのだけど、明らかに依頼した地点とは違う。
いや、本来なら右岸の道を走行している筈なのに何故か左岸を行くものだから、途中から薄々道を間違えていることに気づいてはいたのだけど。
そして、地図を確認してこの道は権兵衛峠遊歩道の登山口へ続いているものと推測。
まぁ、こちらからでも目的地へのアクセスは可能なのでそこは良しとしよう。
ただ、3,000円程度と見込んでいたタクシー代は4,000円少々と割高に。
初っ端から計画は狂うし、出費は嵩むし、幸先悪いなぁ。
落石や枝が散乱した沢沿いの細い道を山の懐へと更に分け入って行く。
舗装された道ではあるものの、山から染み出す水で全面的に水浸しでとてもスリッピー。
途中、右手の崖上からトラックの走行音が聴こえ、推測は確信に。
更に進むと国道の橋脚が見え、やはり権兵衛峠遊歩道の登山口へアクセスする道だった。

※観光情報に載ってはいるものの、夏草で不明瞭な箇所が多く、人の往来は滅多に無さそうな遊歩道とは名ばかりの本格的な登山道でした。
タクシーを下車したポイントから約20分、権兵衛峠登山口に到着。
夏草ボーボー、奴らが潜んでいそうで早速嫌ーな雰囲気。
とは言え、最早退くことは出来ないので意を決して叢へと足を踏み込んでいく。
観光協会が設置した新し目の看板だけが数少ない来訪者がいることを感じさせる。
不安を感じたのは最初の100mくらいで、その後は嘗て多くの人が伊那と木曽を行き来したことを窺わせる幅広な道へと変わる。
そんな嘗ては賑わっていただろう往年の峠道を今日行き来するのは私と・・・カモシカさんくらい(笑)
個体差もあるだろうけど、もっと近くで撮ろうしたら逃げられた笑
茶屋の跡
この付近はブッシュで道跡が消失していて戸惑うこと必至。
今となってはこんな人の往来が一切感じられない大自然の中に茶屋があったこと自体信じられない。
標高が上がり植生が変わると、木漏れ日が気持ち良い風光明媚な雰囲気に。
沢のせせらぎや小鳥の囀りを聴きながら
ふむふむ。
成る程。全く判らん。

立て札だけは立派。
推すんならもう少し整備してほしーなー。
丸太の橋を渡って対岸へ。
支尾根を巻きながら別の沢へと入っていく。
丸太の橋を振り返る。
この付近は全行程の中でもかなり雰囲気の良い区間だった。
尤も、何がと言われれば的確に表現出来ない個人的な感性によるものだけど···。
ブッシュが茂る踏み跡の薄い沢道。
道中幾つか支沢があるお陰で冷たく美味しい水を補給できるのは嬉しいポイントだ。
スタート地点の沢沿いの林道にてヤブカンゾウ。
権兵衛峠遊歩道後半の稜線間近まで登ると俄に花の姿が増えてくる。
ホタルブクロに
タマガワホトトギス
見るのは初めてかな。
シモツケソウ
ノリウツギ
オオバギボウシ
動物の糞に集る蝶···。
前にも尾瀬とかで見たことあるけれど、花の蜜だけでは補えない栄養素を補給しているのだろうか。
本来歩く予定だったコースと合わさり間もなくすると権兵衛峠に到着。
歴史を偲ばせる静かな峠には中央分水嶺と峠道を切り拓いた功労者の名を刻んだ石碑がひっそりと佇むばかり。
この稜線を境に降った雨は方や信濃川、方や天竜川へ。
全く逆の方へと流れることを考えると非常に興味深い。
古畑権兵衛さんの碑。
まさか令和の世にも自身の功績が伝承されるとは本人も考えすらしなかっただろうな。
それも自身の名を冠する国道のトンネルが造られたり、日本昔話として全国に名が届くなんて。
塩尻市によれば、現在でも生家の跡地には彼の末裔が暮らしているようだ。

歴史好きの私としては、とても浪漫を感じてしまう。
今回タクシーの運ちゃんが道を間違えたお陰で彼が切り拓いた道の一部を歩くことになったり、歴史に触れるきっかけができたのは何かの縁なのかな。

見晴らしの良い鉄塔から望む伊那盆地と南アルプス。
いつもとは反対側から望むだけでこんなにも新鮮に映るとは。
特にいつも山頂部ないしは半身しか望むことが出来ない仙丈ヶ岳の何と重厚で雄大なことよ。
こうも麓から一気に迫り上がる巨大な山体をしている事実には驚愕させられずにはいられなかった。
そして何処から眺めても格好良い甲斐駒ヶ岳。
伊那側からの姿も秀麗で素敵だけど、個人的には甲府辺りからの山容が最もピラミタルで好みだ。
すげー、ほぼ南アルプスの名峰が全て見渡せる。
反対側には中央アルプスもあるし、伊那って良いなぁー。←
9:50権兵衛峠に到達。
遊歩道として紹介されている実線コースなので、もっと単純で整備されているものと思いきや。
その実、変化に富みちょっとしたルーファイも強いられた冒険的で面白いコースだった。