「あれ?コート、腕のとこボタン無くない?」
日曜の夕方、いつも行き慣れたスーパーに彼女がいるのをどこか不自然に感じていた。ひょんなことから彼女とデートをすることになった。お茶して…映画を見て…その後、話の流れで僕の家で彼女がご飯を作ってくれることになった。
「あれ…、ホントだ…。」
一体いつ取れたんだろう?全然気がつかなかった。彼女は職場の後輩でたまにみんなで飲みに行くことはあっても二人きりで遊ぶことは今までなかった。僕はいつも遠くから眺めているだけだった。
「アタシが後で縫ってあげるよ」
ドキッとした。
「あ、じゃあ裁縫道具買わなきゃ…」
「これでも女の子だよ?ちゃんと持ち合わせてますぅ」
どっからどう見ても女の子である。僕はボソッと呟いた。クスクスと笑う彼女…、ヤバイ聞かれたかな?
「似合うね…買い物カゴ!」
よかったぁ~聞かれてない!僕は彼女のはにかんだ笑顔が好きだった。
「手芸屋さんとかこの辺ある?」
手芸屋…聞き慣れない単語だった。もちろん手芸屋の場所など知りもしない。スーパーを出ると商店街に向かった。買い物袋を提げながら僕は彼女の後を追った。道行く人に手芸屋の場所を聞いて歩く彼女に僕は圧倒されていた。
「この先にあるって!」
白い息を吐き肩を上下させながら彼女が戻って来た。僕にはない行動力である。
「すいませ~ん、これと同じボタンありますか?」
ボタンが取れた袖とは逆の袖を掴まれ、僕は店の奥に引っ張りこまれた。頑固そうなおじいさんが店番をしていた。おじいさんは無言で立ち上がり、無数にあるボタンが入っているであろう引き出しを開けて探し始めた。
「え~色違いしかないのぉ?」
おじいさんの表情は変わらない。
「でもいっか!こっちもこの色のに付け替えちゃば…これ二つください!」
ボタンはおじいさんにはおよそ似合わぬ赤と白のチェックの袋に詰められ僕はそれを受け取った。
「ありがとうございました!」
本来ならば店側のおじいさんが言わなきゃならない言葉なのだろうが、彼女は何の驕りもなくそう言い放った。彼女の言葉には嘘がない。僕はただただ彼女を見ていた。
「おいしい?」
彼女が家に来て…ご飯を作ってくれたんだが記憶が断片的にしかない。終始夢心地だった。彼女がずっと横にいたのだけは覚えている。
「あ…うん、うまいよ!」
ほんとは味なんてわからなかった。ナシゴレンとかいう東南アジア系の料理らしく…食べるのはもちろん、見るのも初めてだった。これが正解の味なのか僕にはわからなかったが彼女が作ってくれたのは事実だった。
「作らなかった人は後片付け当番なんだよ?」
キッチンに洗いものを残しそう言って彼女はダッシュでコタツに潜り込んだ。彼女の中のルールなのかな?それとも前の彼氏と…考えないようにした。僕は一心不乱に洗いものをした。
「あ、ちょっ…早いよ!」
キッチンから戻ると彼女は慌てて何かを隠した。でもそれがボタンが取れた僕のコートだというのはすぐにわかった。赤と白のチェックの袋がコタツの上に口が開いた状態で置いてあったからからだ。
「もしかして、洗いもの得意?」
マジマジと僕を見る彼女に僕は思わず笑ってしまった。
「え?なになに?」
僕は笑いを堪えながら彼女の向かいに座った。彼女は尚も不思議そうな顔しながらまたボタン付けを始めた。
「な~に~?言いたいことがあるならハッキリ言ってよ…」
一気に緊張が走った…。これは…これは…告白しろということか?!いや待て…違ってたら恥ずかしい。。いやでも…このシチュエーションで断られることはナシゴレンだろ?いやしかし…このシチュエーションだからこそ断られたら後が酷いぞ?うん…、もしOKなら…そういうことか?終電はまだあるが…そうなのか?あれ、ゴムあったっけ?いやその前に…風呂だ!風呂は大丈夫か?
「と、トイレ行ってくる…」
「え…」
トイレに行くふりをして風呂場のチェックをしに行った。何をするわけでもなくとりあえずトイレに入った…あ、ウチには汚物入れが無い…。いやちょっと待て…それが必要ってことは彼女は今…アレであるからにして…とゆーことは今日はナニができないわけで。。ん~、そのとき
部屋の方から物音がした様な気がした
何かごそごそ動くのが確かに聞こえる…マズイ!まさか彼女が帰ってしまうんじゃ?僕は慌ててトイレの扉を開けた。部屋に戻ると彼女は…その…一糸纏わぬ…綺麗すぎてなんだか…ローマかどっかにある芸術品を見ているようで…
なんて妄想でもしなきゃよぉ!
ボタン付けなんてよぉ!夜中によぉ!やってらんねぇよぉ!!!玉留めがね…玉留めだよな?玉結び…いや玉留めだ。玉留めがいつもうまくいかねーのよ。うまくやる方法誰か教えて~
さて問題です。一体どこからが妄想でしょう?