何気ない北国の朝…。障子の隙間からは霜が降り立った街が覗いていた。朝飯(ムリクリ押し込んだ夕べの残り)を食べ終えたあとお茶をいただいた。僕には非現実的な朝だった。僕だけじゃないか…。

午後から舞台本番

がある。本家で風呂を借りて、このまま劇場入りしようと思っていたが…セレモニーホールにシャワーがあるはずなく。。となると東京の家に一度帰らねばならず…となるともう一時間後の新幹線に乗らなければならない。しばらくするとミッチーと母ちゃんが慌ただしく現れた。

「なんだおめぇ?」

兄弟で似たような事言ってるし…

「何しに来たの?」

バカ話で始まるのが三男同士の挨拶

「何しにって…朝メシ食いに」

母ちゃんとは一瞬顔を合わせただけで、すぐにミッチーの車で駅へ向かうことになった。

「よく来たぁ、ってばあ様喜んでるよ」

帰り際、後から来た親戚たちが口々に言う。けど僕にはあまりピンとこなかった…それは憶測でしかない。

【死人に口なし】

ばあ様が何を思っているかなんて誰もわかりやしないよ。やっぱり僕はどこか欠けているんだろう。

「お前から届いた手紙と写真…みんなに見せびらかしてたぞ」

ボソッと刀研ぎ師の叔父が教えてくれた。そうか…、手紙を出してから何の音沙汰もなかったが…まぁ電話じゃ耳遠くなってろくに話できなかっただろうし、でも…そうか、喜んでくれてたかぁ。

一番デキの悪い孫

なんだけどね僕は…なんだかこそばゆい感じがした。駅へ向かう途中の車内、相変わらずミッチーとバカ話をしていたが時折寂しそうな顔を見せていた。

ばあ様はみんなの母

だったんだなぁ。運転席の中年男は親父の顔ではなく息子の顔をしていた。

新幹線の時間は8:40

朝の通勤ラッシュで道が混んでいたため、駅のロータリーに着いたのは8:35だった。間に合うか?ダッシュで階段を駆け上がる。自動券売機で切符を買いホームへ急いだ。

新幹線に駆け込み乗車

したのは初めてだな…なんとか間に合った。さて、席はどこかな?切符を確認する…ん?席番号が書いていない…なぜ?よくよくみると

【立席】

と書いてある…立席?立つのか?立って東京まで行くのか?立席…席じゃねーじゃん!しかも乗車料金は変わらず…マジかよ~。気がつくと以外にも回りには【立席】な皆さんが多数いる…あ、ここデッキね。お、あっちにも…

修学旅行生の群れが!

おめぇらか…おめぇらのせいで平日なのに満席なのか。。あ~あ半分以上立ってるよ…引率の先生何やってんの?!

代わりに座らせてくれねぇかな?

東京まで2時間半…長ッ!!待てよ、盛岡の滞在時間2時間半…短ッ!!最短記録だな…しかも実家には帰ってないし。。眠いし疲れたし腹いっぱいだし…朦朧とする中考えていた、じい様の葬式のとき寺の庭に咲く桜の花を見て思ったんだ

地元で舞台をやろう

って…。生きてるばあ様や母方のジーバーにも俺が何をやってるかを見せてやろう…って。その一年後の桜が咲く季節、僕は東京仲間を引き連れこの地を訪れた。

今、何を想う?

ばあ様が逝っちまって、僕は何を想っているのだろう?行きの高速バスに乗車しているときからずっと考えていた。実際、ばあ様と対面した今…何を想う?

「哲平の嫁さんがみたいなぁ」

晩年ばあ様はよく口にしていた。嫁か…まだ嫁を娶る器じゃないんだよねぇ。。まだ一端の役者にもなれてないし…むぅ、役者か。そうだよね、それだよ!始めからからわかっていたことさ、

役者やる!

東京に帰ったらすぐ本番だ!今、僕は間違いなく生きている。生きているんだから好きなことやろう。死んだ眼なんかしてちゃダメだ。精一杯生きるぞ、俺の人生生き抜いてやる!

END。