大根(太い)とにんじん(標準的)を提げ、来た道を引き返す。
さっきより猫が増えているような気がする。
来たときもじゅうぶん多かったのだけど。
む。近づいてくるものあり。
どこからともなくミルクティー色のものも忍び寄る。
しまった囲まれた……いやキミ、なにやってるの?
しきりに体をこすりつけてきたかと思えば人の足の間にもぐり込んで毛づくろい。人懐こいにもほどがある。
しゃがむと「なでろ」と訴えてくるので、ひたいや首の後ろをぐりぐりなどしている隙にですね、
こいつが袋に首を突っ込んでいる。
見事なチームプレイである。さいわい袋の中身は大根(太い)とにんじん(標準的)であり、彼らの興味をひくものはないのだけど、ソーセージでも入ってたら切ないことになっていただろう。「結局それよね。アタシの食べ物だけが目当てだったのね(嗚咽)」的なね。まあそうだろうね。生きていくってたいへんだ。
三匹の窃盗団とお別れして、先を急ぐ。
釣りのおじさんと猫二匹の少し上流で、アオサギもまだ魚待ち中。
反対側の岸にいるのは、わたしがうっかりそばを通って脅かしてしまったから。ごめん。
先へ進むと、おじさんと猫たちは来たときと同じポーズで魚待ち中だった。
いいなあ、のんびりしてて。と見守っていると、またしても
猫が袋を狙ってやってくる(もう学習した)。
こんな看板発見。
猫はともかく、イノシシに餌付けする人がいるとは驚きだ。たしかにここ、山の中だし、「出る」のは考えにくいことではないけど、餌はやらんやろ。と思いながら、ふと気づいた。いま、ここでイノシシに狙われる人がいるとすれば、それはわたしなのではないか。間違いない。なにせ野菜の入った袋を提げているのだ。そんなとき七匹のかわいいウリ坊がまとわりついてきたら、袋を投げ出してなでくりまわすに決まっているではないか。その隙に母イノシシが大根(太い)とにんじん(標準的)を……
さ、先を急ごうではないか。
やっとスタート地点に戻る。もう4時前だ。サクラの木にまといついたツタの葉が、西日を浴びて赤々と美しい。
そういえば、はじめ「毘沙門堂に行くのもいいかも」なんて思っていたのだった。野菜など買ってる場合ではなかった。持ち重りのする野菜をぶら下げて山登りするのはさすがにいかがなものかと思われるので、その計画はあきらめて、疎水に沿って西へ向かう。
そうだ、こちらへ向かわなければならなかったのだ。
だいぶ影が長くなっている。東山を越える計画も当然あきらめる。山中で夜を迎えるわけにはいかない。
……これもあるしな。
わたしは野菜を携えている。こちらに刺激するつもりがなくても、野菜がイノシシを興奮させるかもしれん。こちらに餌を与えるつもりがなくても、野菜を奪われるかもしれん。ああ、紅葉など見にくるのではなかった。じゃなくて野菜など買うのではなかった。イノシシに狙われなくても、重い袋の提げ手が指に食い込んでつらい。
おのれの阿呆さを呪いつつ野菜を置いては写真を撮るわたしを、道行く人々が不審げに見ているような気がしてならないが、まあそんなのはどうせ気のせいなので気にしない。
ああ、コンデジは扱いにくい。一眼レフがほしい。どっかに落ちてないものか。それはともかく、写真を撮っていて思うのだけど、こういう無料の紅葉には、折れた枯れ枝とか、ほかの木の枯葉とか、くもの巣とか、「これがなければいいのになー」という余計なものがくっついていることがかなり多い。有料の紅葉はその点きちんと手入れしてあるのかもしれない(が、ほとんど見たことないので真偽のほどは不明)。
さて、引き返しますか。
せっかくなので対岸に渡る。こちらは舗装されていない道。
散り敷いたクヌギの葉がけっこういい感じ。
だけどこちらの道はすぐ通行止め。橋を渡って舗装された歩道へ戻る。
けっこう暮れてきましたね。
左のほうの、あのあざやかな朱色は、ヤマハゼかヌルデだと思うんだけど、近づけないのでちょっとよくわからない。
カルガモの皆さんも家路を急いでいる(かどうかはしらない)。わたしも帰ろう。野菜が重い。疲れ果てているいま、イノシシが出たら勝つ自信がない。いや体力があっても勝てる気はしないです。すみません。
さて、ウチに着くころにはとっぷりと日が暮れていた。やれ疲れた、写真の整理でもしようかね、とパソコンに向かうと、友人からメールが来ていた。いわく、「カニを二杯もらったので、それを持ってそっちに行く」 添付された写真はズワイガニ丸ごと。……カニの産地の出身者なら誰でも、いつでもどこでもカニをさばけるとでも思っているのだろうか。思っているのだろうな。しかしだな、ウチには出刃包丁なんぞないし、だいいちわたしはカニをさばいたことなどない。母がさばくのを見ていたので手順は知ってるけど、やったことはないし、包丁でやるのは怖い。しかたないので、近所のスーパーにキッチンバサミと軍手を買いに行き、カニの到着を、もとい友人の到着を待った。友人到着。やってきたカニは、せこがに(子持ちのズワイガニのメス)だったので拍子抜け。これならハサミは要らない。それより、てっきり松葉ガニ(ズワイガニのオス)でカニ鍋をするものと思い込んでいたので、ほかに食い物もない。あるのは大根(太い)とにんじん(標準的)だけだ。オマケに友人がカニとともに携えてきたのは赤ワイン。おいおいカニには日本酒やろがい、ということで、大鍋に塩水を沸かして沸騰直前に甲羅を下にしてカニを入れたところで外出。友人に、沸騰したら吹きこぼれないように火加減に注意して15分茹でて、それまでにわたしが戻らなければ、カニをざるにあげて冷水かけとけ、と、こと細かく指示して(せっかくのカニをカスカスにされてはたまらないので)、再度近所のスーパーに日本酒と食材を買いに出た。
戻ってきたら、茹で上がったカニが待っていたので、解体して甲羅盛りに。
持ってきてくれたワイン用に、マッシュルームのチーズ焼き、豆サラダをつくり、100円のバゲットを添えて。
BGMは友人の持ってきた、レヴィン・ブラザーズのCD。これが非常によかった。
- Levin Brothers/Tony Levin
- ¥2,600
- Amazon.co.jp
わたくし贔屓のベーシスト、トニーと、ピアニストのお兄ちゃんピートのレヴィン兄弟のアルバム。
道を間違えて気づいたら滋賀県にいたり猫に買い物袋を狙われたりイノシシに怯えつつ重い野菜をぶら下げて長時間歩いたりした一日の締めくくり、疲れた体には酒が沁み、カニはうまく、音楽は素晴らしい。終わりよければすべてよし、なのだ。



































