読書「第七官界彷徨」尾崎翠 | 渋谷宙希のブログ

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「第七官界彷徨」尾崎翠
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再読でしたが、


やはり、凄く良かったです。



このブログを始めてから読んだ小説や、観た映画は感想を書き残しているんですけどブログ以前に読んだ小説や映画は感想が残っていないので、書き残しておきたいなぁ、と思いまして、以前読んだ小説や観た映画をもう一度、読んだり観たりして感想を書き残そうという活動をしております。


で、この小説も再読してみました。


この小説は以前読んだ時にもおもしろい小説だな、って感じたんですけど、あまり内容をハッキリと覚えてなかったので読み返す候補に入れておりました。


とにかく不思議な小説です。


主人公である小野町子とう少女が変な家族と暮らす日々を描いたものです。





町子は田舎の祖母の家から兄一助、ニ助、そして、従兄弟の三五郎が住む家で炊事係として一緒に暮らすことになる。


家族一同みなそれぞれに勉強家で、なにかしらの勉強をしている。


一助は分裂精神病院で医師をしており、分裂精神病の研究に余念がない。ニ助は苔の恋愛を研究している。従兄弟の三五郎は音楽学校の浪人生。


そして、町子は


人間の第七官へひびくような詩



を書きたいと願っている。


第七官とは人間の五官と第六官を超える感覚。


そのため、第七官の定義を研究している。


そんな4人の共同生活が始まる。






こんな内容です。


って全然内容の説明になっていませんが。


正直言ってこれといった物語があるわけではないんですよね。


ただただ4人の登場人物がおしゃべりしているだけのシーンが延々と続いたりします。


主人公町子の一人称で物語が語られるのですが、町子は赤いちぢれた毛の少女で、この設定がなんとなく昔の少女漫画っぽいなぁ、と思ったら松岡正剛が


竹宮恵子や萩尾望都や大島弓子が実のところ尾崎翠の末裔である。


というような事を書いていました。


あの少女漫画界に革命を起こしたいわいる24年組といわれている代表的な作家の名前を出して尾崎翠の末裔という感じはなんとなくわからないでもないです。


24年組の作家が描いた少女特有の感覚世界の原型がこの小説にはあるのだなぁ、と思いました。


とにかくこの尾崎翠と言う作家は独特の感覚を持った作家です。


この小説が最初に発表されたのが、1931年ということなんですが、今読んでも全く古臭く感じません。


それどころか、独特の世界観と言語感覚は今読んでも新鮮です。



まさに第七官にひびくような小説なんじゃないでしょうか。



この小説は以下のような文章で始まります。


私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。



この始まりの一文を読んだだけでも、もう面白そうです。


この最初の文章からして、町子のひとつの恋を描いた小説なんだろうと、思ってしまうんですけど、実はこの恋の部分はほとんど描かれていません。



さりげなく最後の方にサラっと描かれているんです。


この感じが凄く良かったです。


そして、植物がこの小説では重要です。



ほとんど、登場人物と同じくらいの存在感を持っているのが、ニ助が部屋で研究のために育てている苔です。


苔の恋愛をテーマにした論文を書いているのですが、その論文からは現代的な擬人化っぽい印象も受けました。


苔が1つのキャラクターとして登場しているような感じです。



この独特の植物の扱い方も古い小説とは到底思えない面白さを持っています。


そして、河出文庫の最後には


「第七官界彷徨」の構図その他


というタイトルの解説のようなものが作者によって書かれているのですが、これがまた凄く面白いのですよ。


尾崎翠が小説を書く際の手順が書かれているんですけど、まず最初に「場面の配列地図」というべき図を制作するそううなんですが、


この配列図というのが1枚の紙に鉛筆で幾何学の図のような円や三角を描いたり、時には風車のような形、時には蜘蛛の巣のような形をかいたりして、それに文字や符号で場面の覚書きのようなことを書きつけていく。



んだそうです。


なんというか、その図凄く観てみたいです。


直感的な感覚を最初に図に起こして、それから文章に変換していったのかな?って思いました。



頭の中にあるイメージをアウトプットする際に役に立ちそうな方法だな、って思いました。


ただこの解説の中に1つ気になる部分があって、それは


劈頭の二行を削除したことによって、配列地図が円形を描いてぐるっと一廻りするはずが、直線に延びてしまった。



というような部分です。


どうやら、当初雑誌に発表されたものには作者の言う「劈頭の二行」というものが、ラストと繋がり物語が円環して終わるというものだったようですが、この河出文庫に収められているものでは、その二行が削除されているようです。


どんな二行があったのか、凄く気になります。



現在手に入る本で削除されていない本はないのでしょうか・・・・・


少女の持っている独特の感覚世界を文章で凄く上手に表現している名作だと思います。



気になった方は是非とも読んでみてください。


表紙のデザインも凄くかわいいので、持ってるだけで嬉しくなる1冊ですよ。


尾崎翠の小説はこれしか読んだことがないので、是非他の作品も読んでみたいと思いました。


全集買わねば。







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