「人質の朗読会」小川洋子
★★★★☆
久しぶりに小川洋子の小説を読みました。
やっぱ好きです。
この人の小説には”優しさ”と”死”が漂っている気がします。
この小説は9つの物語が入っているんですが、一つの物語の中でそれぞれの主人公が語る物語になっています。
小川洋子はポール・オースターが一般の人々の実体験を募集して小説にした「ナショナル・プロジェクト・ストーリー」を読んで、
「小説というものは、小説を書かない人の心の中にいくらでもあるんだ。そして、それが本来、人間が求めている小説な在り方だろう」
と感じ、それをフィクションでやろうと考え執筆したのがこの「人質の朗読会」だそうです。
南米のある村で日本人観光客7名が反政府ゲリラに拘束されるという事件が発生する。
犯人は身代金と仲間の釈放を求める声明を発表。
交渉は難航し、なかなか事態は発展しないまま100日が過ぎた。
ついに軍と警察の特殊部隊がアジトに突入。
銃撃戦の末、犯人グループ5名が全員死亡、特殊部隊員2名が殉職し、さらに犯人が仕掛けていた爆弾により人質8名全員が死亡するという最悪の結末をむかえる。
事件から2年後、犯人のアジトに仕掛けられた盗聴器で人質たちの音声が録音されたテープが公開される。
そのテープには人質8名がそれぞれ心に残っている出来事を物語として書き起こした小説を朗読する様子が収められていた。
遺族を取材していたラジオ記者は被害者遺族を説得し、このテープをラジオで公開することになる。
番組のタイトルは「人質の朗読会」とし、すでに亡くなっている人々が物語を語りだす・・・・
というのが全体の内容です。
ここからは、個人個人の物語になっていくのですが、この個々の思い出に残っている出来事というのが現実の話しなんだけど、少し不思議な物語で凄くその世界に引き込まれていきます。
もしかしたら、誰にでも小説的な体験というのはあってそれは普段記憶の奥底にしまっているんだっけど、改めて自分と向き合って記憶の奥底まで覗いてみると思い出すことができるものなのかもしれません。
ただ、人間の記憶というのはかなりあいまいなもので、実はそんな体験実際にはしてなくて自分が無意識の中で作り出した物語なのかもしれません。
そんな、あいまいな記憶を振り返って小説にする作業というのは自分という存在にとって結構大切な作業になりえるのかもしれないな、って思いました。
8名の人たちが語る自らの体験はどこか不思議で、全ての物語に死の気配が漂っていました。
人質として、いつ死んでもおかしくない状況だから自然と思いだす記憶も死の匂いがするものだったのでしょうか。
自分の中にもそんな記憶があるのだろうか?
と記憶を探ってみました。
あるようなないような感じがします。
あれば、あらためて小説形式で書きだしてみたいものです。
そして、この小説。装丁が凄くいいですよね。
表紙に使われているのは彫刻家の土屋仁応の作品”小鹿”です。
この方の作品は柔らかい曲線と、幻想的な雰囲気が凄く好きです。
小川洋子の世界観にも通じるものがあるような気がするので、この表紙は凄くしっくりきました。
気になった方はぜひ読んでみてください。
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