登山道から外れてもきっと大丈夫だと高を括っていたのが間違いだった。
登山の経験もほとんどないのに登山道をまっすぐ登るだけなんて退屈だと思い、登山道から外れてしまったのだ。
かれこれ2時間近く山の中を迷っている。
せっかく暑くなる前に頂上へ到着できるよう、朝の5時からスタートしたのに、7時を過ぎた辺りから気温がどんどん上がっていっているのが感じられた。
水筒の水も減るペースが上がってきた。
このまま遭難なんてことになったらどうしよう。
食料も持っていないし、水の残りもわずかだ。
木々と掻き分け進んでいると、土がむき出しになり続いている道のようなものを見つけた。
これはきっと登山道だ。
しばらくその道を進んでいるととても急な坂になり、その坂にはロープが張ってあった。
やはり登山道だったんだ。
助かった。これでなんとか頂上まで行くことができそうだ。
ロープと伝って急な坂を上る。
ここに来るまでにかなり山道を歩いたので、体力的には限界に近い。
急な坂がひたすら続くハードな山道だったが、さっきまで遭難しかけていたことを思うと足取りも軽かった。
巨大な鉄塔の下を通ってしばらく歩くと坂はなだらかになった。
そろそろ頂上だろうか。
そう思い前方を見上げると木々の間から建物が見えた。
道はそのままその建物へと通じていたので自然と足は建物へ向かった。
何年も放置されたなんらかの建造物らしい。
建物の壁は青々とした草に覆われ、ガラスはいたるところで割れている。
しかし、美しい佇まいだ。
入り口の扉はもはや扉の役割を果たしてはいなかった。
少し、不安もあったけど好奇心から建物の中へ入る。
古い電話機があった。
その佇まいはまるで今にもベルが鳴りそうな堂々としたものに見えた。
ほとんどのガラスは割れている。
床にはガラスの破片が大量に散らばっていた。
歩くとバリバリと音がなる。
朽ち果てたようにも見えるが、どことなく気品を感じるデザインに息をのむ。
窓枠の形や、柱の形に美しさを感じた。
壁紙が剥がれたその壁にも深い味わいを感じた。
自然と時間が織り成した芸術だと思った。
丸い窓と白い壁が教会のような雰囲気をかもし出している。
どこか神聖な気配を建物に感じた。
地下へと降りる階段があったので降りてみる。
そこはかつてのバスルームがあった。
窓から差し込む光がとても美しくて、そこから見える新緑の美しさを引き立てていた。
階段を上がると
広々とした部屋があった。
広々とした部屋に一歩足を踏み入れると不思議な感覚におそわれた。
ガラスは割れ、壁紙は剥がれ、床には瓦礫が散乱している廃墟の部屋。
もうそこは役目を終えた部屋のはずなのに、頭の中では蓄音機から流れるレコードの音が聴こえるような気がした。シャンソン歌手の歌声がノイズ交じりに聴こえるようだった。
目を閉じればそこに豪華なドレスを着た夫人やタキシードを着込んだ紳士の姿が思い浮かぶ。
かつては、この場所で晩餐会が模様されていたのだろうか。
山道を登っていた時は大量の汗をかいていたのに、その汗もいつの間にか引っ込んでしまい。
今はすがすがしい気分で、目に映るもの全てに美しさを感じていた。
その時、突然理解した。
あぁ、これは蝶の見てる夢なんだ。
今は存在しない場所の記憶を蝶は持っている。
いや、別の世界ではこの建物は今でも美しいままで、その役目を果たしているのかもしれない。
蝶はきっとそのことを知っているんだ。
そして、こんな夢を見ている。













