手ぶくろを買いに/新美南吉/偕成社
うっかり本当の手を出したにも関わらず、帽子屋のおじさんは小さな手にぴったりの手袋を売ってくれた。
嬉しそうに話す子狐。
お母さん狐は一人、呟くのです。
「人間は本当にいいものかしら。」
夏の初めに、汚れた首輪の猫が迷い込んできました。
ガリガリに痩せて、みすぼらしくて、お腹を空かせて。
首輪がきつそうに見えて、気になって、ごはんでおびき寄せるようになったのです。
幸い、首輪はきつくなく、確認してみたけれど、名前も住所もありません。
遊びに出たまま迷ってしまったのか、捨てられてしまったのか、置き去りにされたのか。
猫の素性は謎。
もともとはピンクだったと思われる首輪は、有名なペットメーカーのもので、その子の毛色によく似合うものだったのでしょう。
うちに来たときには、もうぼろぼろだったのですが。
迷子ならば、ここで食事にありついて元気が出たら、また頑張って家を探すかも知れない。
捨てられた子だったら……。
置き去りにされた子だったら……。
何日かごはんをあげている内に、もしかして妊娠しているのではないかと思うようになりました。
痩せすぎの体に、ふくらんだお腹。
もしかしたら、寄生虫がいるのかも?
近所で迷子になった子ならば、その辺に張り紙があるかも知れない。
市内で迷子になった子ならば、市のHPに登録されているかも知れない。
けれど、そのどちらもなく。
毎日ごはんを食べに来る子に、私は私の家の住所と、新しい名前を書いた首輪をした。
もしも近所の飼猫ならば、飼い主が首輪を外すだろうと信じて。
猫は首輪をしたまま、相変わらずごはんを食べに来る。
慣れてしまえば人懐こい子で、とても可愛らしい。
お腹が空くと催促して鳴くようになった。
うちの子になってもらおうと思った。
我が家には猫が2匹いるので、すぐに家に入れることはできないのです。
ノミやダニや寄生虫がいないか、病気を持っていないか、調べてみなければ。
そして外にいるなら何よりもまず、避妊手術をしなければ。
一旦捕獲して、病院に連れていって健康診断をして貰うと、かなり痩せてはいるものの、健康状態はとくに問題なし。
心配していた妊娠の方はと言うと、何とすでに出産済み。
どこかに子猫を隠しているはずだから、避妊手術はしない方が良いでしょうとのこと。
避妊手術をするとミルクが出なくなるし、何より、まだ小さな子供がお腹に吸い付いて手術跡が膿んでしまう可能性もある。
避妊手術はいつでも出来るので、まずは離乳させなければ、と。
いずれ、子猫を連れてごはんを食べに来るようになるよといわれたのが6月の終わり。
それから待って待って待ち続け、もしかしてもう子猫は死んでしまったんじゃないだろうか?猛暑や雨風に晒されて育てられなかったのではないだろうか?なんて思い始めたころに、3匹の子猫がやってきた。
子猫は警戒心が強く、今でもまだ人間の姿を見ると逃げる。
母猫は子猫を気遣いつつ、私にごはんをねだる。
3匹の子猫と、母猫と。
一緒にごはんを食べに来るようになった雄猫。
この5匹を、我が家の子にしようと思う。
順番に避妊・去勢手術をしなければならないのだけど。
子猫を連れた母猫は、ごはんをねだりながらも警戒心が強い。
そして雄猫は、生粋ノラのようで、とことん警戒心が強い。
最近になってやっと、姿を見ても逃げなくなった程度。
全員の手術にはかなり時間がかかりそうな気配。
今夜も、母猫は子猫を連れてごはんを食べに来た。
必死になって食べる子猫と、私たち人間を交互に見る。
その目が、まるで私たち人間を試すようで。
ふと、「手ぶくろを買いに」の母狐を思い出したのです。
「人間は本当にいいものかしら。」
一度は人に飼われ、可愛がられ、餌は捕るものでも盗るものでもなく、与えられるものだと覚えた猫が。
何が原因だか突然に捨てられ、外を彷徨い、信じていた人間に邪険に扱われ、時には水や石を投げられたこともあっただろう。
それまで自分を撫でるものであった手が、容赦なく振り下ろされることもあっただろう。
またここで、自分に食事を提供してくれる人間に出会った。
けれど。
信じていいのだろうか?
子猫を託していいのだろうか?
この人間は、本当にいいものだろうか?
外で暮らす5匹のために、軒下にダンボール箱を設置して、中にタオルを敷いた。
小さな犬小屋を買って、少しでも雨に濡れない場所を作った。
蚊を避けるために、ペット用の虫除けも設置した。
餌のにおいにたかってくるハエをどうにかしなければ、と、ハエ捕り器も設置した。
夏の太陽をさえぎるすだれもつけた。
蟻がドライフードにたからないように、蟻の巣ころりも置いた。
猫たちはほぼ毎日やって来る。
子猫はタオルに潜り込んで遊び、犬小屋に入って兄弟喧嘩をする。
ねぇ、もう他所には行かないで、この家の庭の中だけで生活することにしませんか?
寒くなる前に、家の中の子になりませんか?
これ以上、子供を産ませてあげられないから、全員に手術は受けてもらうことになるけれど、その代わり、一生、衣食住には困らせないし、あなたたちを愛して、心から大切にするから。
うちの子になってくれませんか?
そう、お伺いを立ててみるけど。
返って来る返事は一つ。
「人間は本当にいいものかしら?」