昔、ハム・ジャーナル誌にJA1AEA鈴木氏が、「オールバンドをコンパクトにカバーするにはスラグ・チューンが最適」と書いていたと思います。私は3バンドまでしか経験はないのでそこまで実装密度を切実に感じた事はないのですが、その通りだなと思う事は色々とあります。
バリコン同調の場合、まず真空管用の耐圧のバリコンは小さくありませんし横方向に展開します。加えて周波数直線など回転角と容量変化の関係を工夫すると、羽根は非常に異形となってしまいます。これに対し、スラグ・チューン(μ同調)では動きは直線的ですし、回転角との特別な関係も不等ピッチの採用や駆動カムの形状の工夫でできます。いずれもコリンズが大昔から実用化しています。
ところが可変インダクターにはバリコンのような多連の汎用品がないのは自作上の難点で、鈴木氏もコリンズの外し品を使っていました。コイルメーカーだったトリオは9R-59や自作向けに全波受信機用のコイル・パックを販売していましたが、初期にスラグ・チューンに手を染めなかったので、その後も無線機一般にバリコン一徹で通したような感じがあります。これに対し、八重洲はFT-101での採用を皮切りに幾つもの機種でスラグ・チューンを活用し(俗にギロチン)、特にFT-301用の機構は160mバンドまで対応しながら本当にコンパクトです。
半固定の同調回路を作る場合も、以前はコア入りのコイルを多用しました。それら部品が入手しにくくなり今はトロイダル・コイルとセラミック・トリマーで組む事が多くなりましたが、トリマーは可変範囲が狭く、コイルの方で合わせていた頃より「やり直し」が増えた感じがします。コイルは不等ピッチも可変範囲の拡大に利用でき、そこにも小型化の要素があります。
スラグ・チューンが量産で使われた例には昔のカー・ラジオがあります。5個くらい並んだ機械式の選局ボタンで「ガチャメカ」を駆動してダストコアをプリセットした位置まで動かす仕組みが真空管時代から存在し、それは回路の方がIC化しても採用は続いていました。私が最初に乗った日産シルビアS110型の純正ラジオもこの類でした。
あとはゲルマや1、2石程度のラジオでしょうか。ポリバリコンのように簡易ダイアルの付属したラジオ専用の「μ同調器」には市販品があり、「子供の科学」誌あたりの初心者向け工作の素材でした。