金より価値ある時間の使い方 | エイリアンの書店侵略

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短く書かれた時間術の本。内容もワンテーマですぐに読み終えられる。『金より価値ある時間の使い方』(アーノルド・ベネット、 角川文庫)を読みました。

書かれているのは優先順位や効率化といった類のメソッドではなく、言うなればダラダラ過ごしている時間、その有効活用のすすめ。本書でいう時間とは、夕方六時に会社を退勤した"後"の時間を指します。

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書かれている方法論は次のとおり。 
①一日のプロローグ・エピローグという無意識の認識を捨てる。
 会社を午後六時に出た後~翌朝十時に会社に行くまでのこの十六時間と、仕事のオンタイムである八時間を区分しないこと。八時間アクセルを踏んで、残りをエピローグ・プロローグとしてアイドリング状態でもったいなく過ごさないこと。頭の休息は睡眠があれば十分。 
②新聞は通勤時に読まない
  新聞は細切れの時間でもさっと読める。せっかくのまとまった時間は別の事に使う。列車で新聞を読まなければ(もちろんスマホをダラダラ見することもなければ)ここで三十分~四十分/日の貯金ができる。
③一週間のうちの七時間半で奇跡を起こす 
 会社を出てから寝るまでに三時間は取れるはず。けどそこまで張り詰めて暮らすというのもアレだから一晩おきに、半分の一時間半なら取れるであろう。一週に三晩、これで四時間半/週、②とあわせて七時間半/週を貯金できる。
④週末は予備日にする 
 何かを達成出来ようと出来まいと、精神衛生上、週末はもともとなかったものと考える。
⑤汝自身を知る
 行きの列車と帰宅する列車の中では内省する時間を取る。新聞を読んだりはせず、自分は今何を思うのかどうしたいのか何に心を囚われているのか。自分自身の心をコントロール出来るようになるよう努める。
⑥テーマを決めて没頭する
 あれこれ手は出さず、テーマを決めて没頭して学ぶ。哲学でも、音楽でも文学でも他の芸術でも、または何か仕事に関係する事柄でも、はたまた芸術や文学に限ることなく自分の興味が向くものなら何でも、七時間半/週を一年でも学び考え続ければ、玄人はだしの博覧強記の人になっているであろう。
(※仮に文学に没頭しようという場合、本書では小説を推奨していない。小説は楽しく快適なものであり「熟慮を要する読書」にあらず。目的は読破ではなく自分の頭で考えること。著者は難解な詩を読むことを薦めている。)

ぼくを含め結構な人が①の認識に無意識に囚われているんじゃないかと思います。このマインドチェンジが出来れば大きい。時間は生み出そうと思えばいくらでも生み出せるし、いつかの部活動や恋愛などを思い返してみれば限られた時間だっていくらでも最大効率で没頭出来る。

週に三晩でまず慣らす所からだとしても、一週間で七時間半、一ヶ月では三十時間、一年で三六〇時間にもなる。一晩の時間を増やせば、あるいは週に四晩、五晩としていければ。それが三年間続いたとしたなら…
奇跡、起こせそうですよね(単純) 

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本書の功績はその時間術もさることながら、時間をムダにして無為に過ごしてしまっている人がそれでも「これじゃダメなんだよ」と思いながら何となく抱えている不安や罪悪感の様なものをうまく言語化してくれている点だと思っています。声高に「それじゃダメだ」というわけでもなく、「不安だよね、けどダラダラしちゃうよね、わかるよ」と寄り添ってくれるわけでもなく、言葉にしたところで何の解決にもならないけど、かみ砕いて分析する事をまずしてくれているから、何というか信用できる。

漠然としたこの気持ちの正体。ぼくなんかはすごく腑に落ちたのでそちらの一節を紹介して終わりたいと思います。

この漠とした落ち着かぬ願望をさらに分析すれば、それが、自分たちが忠誠心や道義心からやらなくてはならぬこと以外に、何かしなければならないと思い込んでいる固定観念から発していることがわかるだろう。人は皆、あれこれ定められた規則や不文律に従いながら、自分や(家族がいれば) 家族が健康で快適に暮らせるように努めている。支払いをし、貯金をし、効率化を図ってよりよい生活ができるように努めている。
それだけでも大変だ!誰にでもできることではない!とても無理ということだってある!だが、うまくできたとしても、満足はできない。まだ例の骸骨がつきまとってくるのだ。
しかも、自分にはむりだ、自分にはできないとあきらめながらも、「限界を超え ている自分の力を振り絞って、もうひとがんばりできさえすれば、こんなに不満を感じずにすむのでは?」と思ってしまうのだ。
それがまさに事の真相である。通常やれていること以外の何かが自分にはできるのではないかと思うのは、ある程度頭のよい人たちに共通することだ。その願望を充足すべく何をすればいいのか。まだ始まっていない何かが始まるのを待つ落ち着かない感覚が、心の平安を乱しつづける。

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寝るまでの時間、スマホを触っては置き、何となくショート動画を観て気づけば一時間以上溶かしてしまっている晩の時間を、一日のエピローグとして割り切ってしまうのも自由だし、より豊かに過ごさんと行動を起こすのも自由でしょう。

けど「面倒くさい」「今日はその気分じゃない」を乗り越えて行動を起こした先に、それを継続することが出来たならば、没頭出来るテーマを見つけることが出来たならば。習慣の力が大きな成果と自信をもたらしてくれるはずです。 

 誰もが心に例の骸骨を抱えている:★★★★☆