タテヨコ冒険譚 | カタカムナの共鳴

カタカムナの共鳴

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「イキモノ」 と 「モチモノ」 の間

女の子は縦の線、羊飼いの少年は横の線を引ける というフリーゲームのレビューです。

 

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 おもしろかった。謎解きが、解けないと、もう、あちこち線を引いてやれ! ってことになる。ステージ10で一端、終わりを迎えるが、本の目次はもっと先もあることに氣がつく。それで、羊飼いを魔女に引き渡すという選択をするのだが、どうすればいいのか、これまた悩むことになった。インクの数を使い過ぎると魔女が居なくなってしまうので、ここで、インクの数の意味に氣付いた。なるべくインクを使わないようにクリアしなければならないことだったとは。
 ステージ16をクリアし、羊飼いの魂を差し出すエンドを迎えた。無事に女の子は外に出ることが出来た。本当は一緒に外の世界に出るつもりであったけど、結果的に羊飼いを騙して先に進むことになった。なぜそうなったのかの原因は、高い崖を登るためのインクが足りなかったからであった。羊飼いを外の世界に連れ出すには、インクをなるべくつかわず、すべてのステージでベストの線の引き方をしないといけなくなる。
 ステージ12が難関だった。何せひとつしかインクが使えない。あと3つ足りない。その足りない分のインクをどのように増やしたらいいのだろう と考え、前のステージで余らせる方法はないだろうか? と考えた。しかし、ベストと書いてあるのに、これ以上のことなんて出来るのだろうか? と思い直した。このステージで何とか完結するような氣がする。いろいろと試行錯誤して、突然、ハッ と氣がついた。根拠はないけど、やってみた。それで、先に進めた時は、すごくスッキリした! 謎が解けたという実感を齎してくれた。
 自分が絵本の中に入ったら、いつの間にか取り込まれていたというホラー物語の向きもある。羊飼いの純粋な思いは裏切られ、絵本の中に閉じ込められ、女の子は居なくなるという最悪の結末。絵本の中の女の子はあるじに懺悔する。そうして、一度は外に出たけど、もう一度、絵本の中に入り、今度はインクが最小限になるような線の引き方をして、外の世界の境界に出る。もちろんステージ12も、ベスト以上のインクの数を確保することに成功した。羊飼いを外の世界に連れ出せた? 何か訳のわからない ? の世界に突然、引き込まれ、魔女が再び登場。インクはもう使えず、線も引けないという。羊飼いの魂を差し出すように唆す魔女。
 魔女の唆しを回避するには、第三のチカラが必要だった。女の子と羊飼いの操作を交代する第三者がいるのである。そのボタンは第三者に話しかけるためのボタンであった。今まで、その者は、ひとことも喋らなかった。 ? という世界で、初めて、テレビ画面の前のプレイヤーに、ことばを発することになる。プレイヤー側では何が何だか分からない。女の子と羊飼いの意識を交換するためのボタンのはずだ。それが、しゃべっている? 一体、どういうことなんだろう。目の前の羊飼いが喋っているわけでもない。かといって、反対側にいる魔女が喋っているのかと思うと、これも違う。明らかに、どちらでもない、第三の意識体なのである。
 この第三の意識体、今までは何も喋らず、黙って、女の子と羊飼いの意識を交換してくれた。それが、魔女の前では、交換が効かなくなる。いくら押しても、羊飼いの意識に飛ばない。おそらく、今、喋っている者は、羊飼いの高次元の意識体、ハイヤーマインドに相当することだろう。魔女を前にし、そこに行きたくない、魂を売り渡したくないという無意識レベルで働く防衛本能が言葉として出て、プレイヤーに訴えかけてくる。
 この第三意識体、喋るだけではあきたらず、性格もある。普段はとても穏やかな羊飼い。しかし、機嫌を損ねると大変なことになる。逆に言えば、羊飼いと同じように控えめな態度を取り、機嫌を損ねることをしなければ、あの魔女の唆しを回避する方法をプレイヤーに教えてくれるのである。ハッキリとは教えてくれない。それとなく教えてくれる。そのヒントを頼りに、外の世界のあるものに干渉した時、魔女は、その存在もろとも、溶けていくことになる。外と内の世界の境界も消え失せる。魔女という存在は、本当に、溶けて、亡くなってしまうのである。この亡くなるという感覚は、物語中の会話の中の、ボウゥと薄い明かりの灯るような感じと共通するところがある。
 女の子も魔女と同じ體で出来ていることが、ここで判明する。元は外に出られない體だという。外の世界に出られないなら、羊飼いとしては、絵本の中に居て、女の子と一緒に暮らすことも選べる。しかし、女の子の罪悪感(一度は羊飼いを騙して外の世界へ出てしまった)は、羊飼いが一緒にいることを許さない。自分には人を愛する資格は無いと言う。そして、あんたの顔なんか見たくもない! と言い放ち、羊飼いを無理やり外の世界に放り出す。結果的には別れたが、自分を騙したことなど、羊飼いは、氣にもしていないだろう。好きという氣持ちは、そう簡単には覆らない。それに、改心した者を簡単に見捨てるほど心が冷めているわけでもないのだ。
 羊飼いと一緒に外に出ようともがいていた頃、途中から「ヤ」になって絵本の中に居たいというのなら、居てもいいわよ、みたいなことを女の子は口にする。ホントは居てほしかった。それを素直に言えないことが残念である。女の子は縦の線! は性格的にとても合っている。竹を割ったような、スパッと割り切る感じがよく出ている。一度は羊飼いを見捨てたが、そこはご愛敬なのだろう。
 ところで、第三意識体の機嫌を損ねた場合はおよそ子どもの絵本に似つかわしくないとんでもない結末を迎えることになる。魔女のように、自分があれを被ってしまうことになる。被る前に警告は出るはずなので、プレイヤーの方は注意されたし。
 なお、物語の進行は自動で記録してくれる。記録するかどうかをプレイヤー側は選ばなくていい。逆に言えば、どのゲームでも当たり前であった、いくつもの記録を残すことは出来ない。記録はひとつ、プレイヤーの進行のみというのがシンプルな造りであった。