鈴虫その1 ~過去の名作 筆記文~ | カタカムナの共鳴

カタカムナの共鳴

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「イキモノ」 と 「モチモノ」 の間

川端康成さんの「鈴虫」を筆記します。

 

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「鈴虫」

 

大学のレンガの壁を外れ
高等学校の前に差し掛かると
校庭の黒い葉桜の下の
ほの暗い草むらの中から
虫の声が聞こへてくる。

虫の声を惜しんで
校庭に沿ひ
右へ折れ
左へ折れると
ミカンの植わる
土手が始まる。

左へ折れる角で
「あれは?」
と目が輝き
小走りした。

土手の裾に
かわいらしい
五色の提灯が
一団となり
稲荷祭りのやうに
揺れている。

子どもたちが
草むらの虫を採っていたのだ。

提灯の火は二十ばかり。

紅桃色、藍色、緑色、紫色、黄色の
五色の灯を点しているが
それだけではなく
ひとつの火で五色を点した
こだわりの提灯もある。

店で買うただけの
小さな紅提灯もある。

けれど多くの子どもたちは
思索(試作)をめぐらして
自らの手で作りたもうた
四角い提灯であった。

この寂しい土手に
二十人の子どもが集まり
小さな灯が揺れるまでには
ひとつの物語があるはずだ。
 

(つづく)