以前、《御上の声》の中で竹取物語とかぐやの真実とは全く関係無いと申し上げたのを覚えておいででしょうか?
実は、全く関係無い訳ではないのです。
竹取物語では、かぐやがこの世に降りて、元の世界へお戻りになるまでの事が描かれてますが、事実に照らし合わすと、かぐや降臨から、もう一つの心が降臨するまでの間の出来事、にあたります。これは物語などでは無く、或るモノを欺く為に御上と神族とで流した偽りの噂話の様なモノなのです。
つまり、試みはしくじり、かぐやは尊き想いの郷へお戻りになられた事にしたかったのです。
多くの殿方が、帝にいたるまでもが、その権力を持ってしても、指一本触れる事の出来なかったかぐや。
然しそれは御上の司の魂に護られていたからの事。
その尊い魂を千切ってもう一つの心に分け与えてしまった為、かぐやを護っていた結界は崩壊し、やがてかぐやは、帝でも無く、貴族ですら無い、通りすがりの山賊のカシラに、いとも容易く手篭めにされてしまいます。
御上からの充分過ぎる物資供給によって、都で優雅な暮らしをしていたかぐやですが、次第にその美しいお顔からは笑顔が消えていきました。
かぐやを取り巻くヒトビトの欲に触れ、またその欲がヒトビトの活力たる事の恐ろしさに、ついには言葉すら失い掛けました。
そんな或る月夜の晩の事です。
かぐやは、かつて尊き想いの郷からこの世の様子を覗き見ていた頃の事を思い出しながら月を眺めておりました。と、突然の激しい光りに視力を奪われ、一瞬気を失い掛け、その後で大きな胸の高鳴りを感じると、『来た!』と叫び、屋敷を飛び出し一目散に走り出しました。
どれくらい走った事でしょう?
かぐやは、真っ暗な山の中で小さく輝く御子を見つめて微笑んでおられました。
そうして胸に手を当て、何か呪文の様なモノを唱えると、自らの魂を取り出し、少し千切って御子の口に押し込まれたのです。
魂のカケラを口に押し込まれた御子は、ゴクリと喉を大きく鳴らしました。
するとたちまち御子は凛々しい青年へと変わり、かぐやに軽く会釈をしました。
その後で二人声を立てて笑い合い、その声は都にまで届く程で、夜が明けるまで響き渡っていました。
かぐやはもう一つの心に《空》(ムナ)と名を付け、そう呼びました。
本来は二人とも《かぐや》なのですが、このお話の中でも、先に降り立った姫を《かぐや》、後から降り立った青年を《空》(ムナ)とお呼びする事にいたします。
それから暫く、二人の幸せな時が続きました。
かぐやは常に空の手をとり、二人で野山を駆け巡り、(神族の試みによる)木々に宿る精霊や虫に宿る守護霊達と戯れ、お腹が空くと木の実を食し、疲れたら木陰で眠りました。そうしてその美しさはますます磨かれていきました。
その頃、都ではかぐやに就いて、発狂して失踪しただとか、あれ程までに殿方を受け付けなかったのは元々狐憑きだったに違いない、あの美しさもモノノケの罠だ!などの悪い噂で持ちきりでした。
一方で、御上と尊き想いの郷では、この一大事を何としたモノかと思案に暮れておりました。
御上の司の魂を千切って無防備となったかぐやを、なんとか尊き想いの郷に戻さなければなりません。でもその為には先ず御上の司の魂を元通りにする必要があります。
当時分かっていた御上の司の魂を元通りにする方法はただ一つ。かぐやが自身の手で空を滅し、魂を取り戻す事。
然しそんな事をかぐやが承知する筈もありません。
尊き想いの郷とかぐやの間でこんな交信がありました。
『かぐやよ、試みはしくじった。我らが物質化しても、世を司る事はもはや不可能。直ちに空を滅しその魂を戻して、こちらへ戻られよ。』
『空はどうなるの?』
『……。大丈夫じゃ、後から戻って来る。』
かぐやはそのウソを容易く見破りました。
というより、尊き想いの郷のモノが元々ウソなどつけぬのです。
そうしているうちにも、かぐやには禍が迫ってきていたのです。
今回はここまで。
次回はかぐやに降りかかった最初の禍に就いてお話しいたします。
鄙虎猫蛇
実は、全く関係無い訳ではないのです。
竹取物語では、かぐやがこの世に降りて、元の世界へお戻りになるまでの事が描かれてますが、事実に照らし合わすと、かぐや降臨から、もう一つの心が降臨するまでの間の出来事、にあたります。これは物語などでは無く、或るモノを欺く為に御上と神族とで流した偽りの噂話の様なモノなのです。
つまり、試みはしくじり、かぐやは尊き想いの郷へお戻りになられた事にしたかったのです。
多くの殿方が、帝にいたるまでもが、その権力を持ってしても、指一本触れる事の出来なかったかぐや。
然しそれは御上の司の魂に護られていたからの事。
その尊い魂を千切ってもう一つの心に分け与えてしまった為、かぐやを護っていた結界は崩壊し、やがてかぐやは、帝でも無く、貴族ですら無い、通りすがりの山賊のカシラに、いとも容易く手篭めにされてしまいます。
御上からの充分過ぎる物資供給によって、都で優雅な暮らしをしていたかぐやですが、次第にその美しいお顔からは笑顔が消えていきました。
かぐやを取り巻くヒトビトの欲に触れ、またその欲がヒトビトの活力たる事の恐ろしさに、ついには言葉すら失い掛けました。
そんな或る月夜の晩の事です。
かぐやは、かつて尊き想いの郷からこの世の様子を覗き見ていた頃の事を思い出しながら月を眺めておりました。と、突然の激しい光りに視力を奪われ、一瞬気を失い掛け、その後で大きな胸の高鳴りを感じると、『来た!』と叫び、屋敷を飛び出し一目散に走り出しました。
どれくらい走った事でしょう?
かぐやは、真っ暗な山の中で小さく輝く御子を見つめて微笑んでおられました。
そうして胸に手を当て、何か呪文の様なモノを唱えると、自らの魂を取り出し、少し千切って御子の口に押し込まれたのです。
魂のカケラを口に押し込まれた御子は、ゴクリと喉を大きく鳴らしました。
するとたちまち御子は凛々しい青年へと変わり、かぐやに軽く会釈をしました。
その後で二人声を立てて笑い合い、その声は都にまで届く程で、夜が明けるまで響き渡っていました。
かぐやはもう一つの心に《空》(ムナ)と名を付け、そう呼びました。
本来は二人とも《かぐや》なのですが、このお話の中でも、先に降り立った姫を《かぐや》、後から降り立った青年を《空》(ムナ)とお呼びする事にいたします。
それから暫く、二人の幸せな時が続きました。
かぐやは常に空の手をとり、二人で野山を駆け巡り、(神族の試みによる)木々に宿る精霊や虫に宿る守護霊達と戯れ、お腹が空くと木の実を食し、疲れたら木陰で眠りました。そうしてその美しさはますます磨かれていきました。
その頃、都ではかぐやに就いて、発狂して失踪しただとか、あれ程までに殿方を受け付けなかったのは元々狐憑きだったに違いない、あの美しさもモノノケの罠だ!などの悪い噂で持ちきりでした。
一方で、御上と尊き想いの郷では、この一大事を何としたモノかと思案に暮れておりました。
御上の司の魂を千切って無防備となったかぐやを、なんとか尊き想いの郷に戻さなければなりません。でもその為には先ず御上の司の魂を元通りにする必要があります。
当時分かっていた御上の司の魂を元通りにする方法はただ一つ。かぐやが自身の手で空を滅し、魂を取り戻す事。
然しそんな事をかぐやが承知する筈もありません。
尊き想いの郷とかぐやの間でこんな交信がありました。
『かぐやよ、試みはしくじった。我らが物質化しても、世を司る事はもはや不可能。直ちに空を滅しその魂を戻して、こちらへ戻られよ。』
『空はどうなるの?』
『……。大丈夫じゃ、後から戻って来る。』
かぐやはそのウソを容易く見破りました。
というより、尊き想いの郷のモノが元々ウソなどつけぬのです。
そうしているうちにも、かぐやには禍が迫ってきていたのです。
今回はここまで。
次回はかぐやに降りかかった最初の禍に就いてお話しいたします。
鄙虎猫蛇
