良いアイデアは、こんをつめて考えるよりも、何かふとした拍子に突然思いつくものだ。




 例えば、ある放送作家は、ネタを考えるとき、自分が降りる駅の一つ手前の駅で下車し、いつもより多く歩て帰る。トボトボと歩いて帰っているうちに、ぱっと素晴らしいネタが思いつくらしいのだ。




 特にネタをひねり出そうとしたわけでもなく、心の隅に面白いことがないかあと軽く思っていただけ、鼻歌をフンフン鳴らしたり、目に留まるポスターを何気なく見たりしているとき、それは突然やってくる。




素晴らしいアイデア。




 直感的な発想が産み落とすこのようなアイデアは、理論的に熟考したわけでもないのにもかかわらず、実に的を得たものであることが多い。
これは多くの方が体験していることだと思う。




 例えば有名な話では、十九世紀のドイツの化学者ケフレの大発見がある。
彼は、当時の科学最大の謎とされていたベンゼンの分子構造の研究に取り組んでいた。

ベンゼンが六つの炭素原子と六つの水素原子からなることはわかっていたが、どういう構造でそれが一つの分子になり得るのか誰もわからなかった。




 ある日、ケフレが暖炉の前でウトウトとしたとき、眼前に何匹もの蛇があらわれて、身をくねらせはじめた。
そのうちの一匹が自分の尾っぽを噛んで輪になった。




『そうか、わかった』




 このとき、ケフレは六つの炭素分子が輪になったベンゼン環の構造を思いついたという。




 この話は夢が画期的なアイデアをもたらした話として語られているが、半分睡眠状態に陥っている状態であるがゆえに、こんをつめてベンゼンについて考えているとはいえない。
ウトウトしているのだから、むしろ何も考えてない状態と同じといえる。




 しかし、世界最大の謎が解けてしまったのである。
これは驚くべきことであるが、ここまでの大発見はないにせよ、多くの人が遠からず同じように、ふとした拍子にアイデアを創出しているはずである。




 ポール・マッカートニーが、『yesterday』を思いついたのも、朝起き掛けにベットでグズグズしているときだったという。
 中学生が、好きな女の子の裸をリアルに思い描くのも、まったく耳に入ってこない授業中であることが多いのもそうだ。




そして今日の僕である。




 昼食後、決まりきったかのように便意をもよおし、僕はトイレに駆け込んだ。
力んで脱力、力んで脱力を、数回繰り返した後の脱力のとき、それは突然舞い降りた。




  『・・・・洗剤のアリエールは、人魚姫アリエルから名付けられたのでないか』




最後に泡になって消えてしまう人魚姫アリエル。



アリエール




そして泡となって最後には汚れを消し去る洗剤アリエール。



アリエル






これは実にアリエル話だ。

いや、むしろ的中しているに違いない。




 僕ははやる気持ちを抑えて丁寧にケツを拭き、自席に戻って早速インターネットで、この両者の関係を調べてみた。




そして結果はというと。





はずれてたんだなあ。





あぁぁっと気が抜けたら、嫌な感じで残糞感が甦ってきた。
もむーん。




 それにしてもなぜアリエールとアリエルのことが、頭を過ぎったのだろうか?

一年に一回あるかないかという頻度でしか、これらの単語を口にしないのに。





もしかして老化しているのだろうか、僕は。







【補足】
P&Gの説明によると、アリエールとは、そもそもヘブライ語で神を意味し、中世になっては『空気の精』という意味に変化した言葉。清浄されたイメージがあるこの言葉を商品名にしたらしい。ふーん。