声 | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム

[黄金週間たちんぼう日記]


[黄金週間:鬼子母神たちんぼう中]
4月29日(金)から5月8日(日)までの午後1時から2時までのあいだ、
雑司が谷「鬼子母神」境内にて〈シングル小説〉を手売りします。
希望者にはその後、雑司が谷墓地に眠る文豪たちの墓を、曽根がガイドいたします。
手売り場所は、鬼子母神本堂向かって左の小堂で、前回同様「原節子のジャケット」を足もとの石台に置き(30メートル先からも見えるはず)、文庫本を読みながら待っています。
※たいがい、小堂左側の奥の柵に座っています。



5月6日(金)鬼子母神は曇天。

坂口安吾は云う。
「僕らは人生をエンジョイすることを命題にして生きてるのだ」
と。

あなたはエンジョイしているかい?
この黄金週間。
私は?
その命題に生きている。
日々。

私はここ5年、本当に笑ったことなどない。

夕べ「死にたい」と言う男たちが私の前に、なんと3人も現われた。
他に、才能のないカメラマン(才能がないと決め付けたのは私だ。朝まで「ものを作るのはやめろ」とさとした)や漫画家や原稿書きや編集者たちが――6畳の「七曲がり荘」に8人も。男だけさ。

死にたい3人は人生をエンジョイできないのだと云う。
いや、どうしてもできないのだと。
「今日死ぬか、明日死ぬかを考えてるんです」

みな向精神薬を飲んでいる。
眠れないから眠剤も多量に。
そしてみなアル中だ。
無職。
ひとりは認知症の母親を自宅介護している。
私は3人に、身を振り絞って言う。


俺は、首を釣るなら太陽に首を吊りたい。


私は人生をエンジョイするという命題に生きている。
あなたはまさか、人生をエンジョイしているのか。
命題以前に?
それはクソだぜ。



今日は誰も来なかった。
ウソだよ。
乞食のおばあさんが私のそばに座った。
臭いおばあさんだ。
1時間いっしょに。

彼女は無言だったけど、私も無言だったけど、お酒を呑んだよ。
彼女はことわったけど。
5月の、雑司が谷鬼子母神の緑と、光と翳は美しい。
黄金週間だ。
そして私は彼女になにもできない。

クソだ。
けど、エンジョイを考えたいんだ。
乞食のおまえと。
乞食の女であるおまえと。
乞食の俺の脇に座るおまえと。

無言で。
いや、なにか言えよ。
大きな声で。

いや、小さな声でいい。
俺は聞きたいんだ。
あなたの小さな声を。


淋しいのは俺だけだ。







おやすみなさい。
読んでくれてありがとう。
よい夢を。