歪んだガードレールを越えてから、ぐずぐずとおれたちは歩きだした。 | 曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

曽根賢(Pissken)のBurst&Ballsコラム

元『BURST』、『BURST HIGH』編集長の曽根賢(Pissken)のコラム

[日記]
四谷は晴れ。
街に夏の匂いが歩いている。

今日で禁酒5日目。
先週3日続けて深酒(毎夜朝までウイスキー1本以上)となり、
当然、膵炎の兆候が現れ、危うく救急車を呼ぶ寸前までいった。

淋しさに殺されかけた。
声を出し、自分を叱りながら痛みに耐えた。
とうとう初めて、近況報告と題して、棄てられた女へメールをした。
ストーカーと思われるだろうなと、怖かったが、2日後返事が来た。
それも東京湾を走る、船の上からだ。
(女は釣り船の「なかのりさん」をしながら、釣り船宿の女将になるべく修行中)

おそらく真っ黒になっている女の、
海と釣りに対する言葉は力強かった。
なんと、凛と立った宣言だろう。なんと健康な言葉の波だ。
波の切っ先は、病んだ私を袈裟懸けにぶった切った。

私はすっかり忘れていた。いちばん大事なことを。

ここ10年以上、作家として作品を書き上げようと、
日々「火舌」に炙られてきた。
酒とクスリでからだを焼いてきた。
作家が不幸に見えるのは、作家のトリックだと、
知っちゃいるが、止められなかった。

バカな。
私は、肝心の言葉の筋金さへ、焼き切ってきた。
からだも魂も腐らせてきた。
病んだ言葉に、誰が感動するだろう。

どんな不健康な言葉を綴ろうと、
言葉の綾の筋金は、健康でなければならない。
そもそも、私が書かなければならないのは、
ストーリーや雰囲気や、啓示の蜘蛛の巣ではなく、
力強い言葉のスイングだった。

言葉のバットで、思いっきり魂を打てよ!


今日の銭湯は熱かった。それでも湯に2度浸かり200数えた。
風呂から出て、脱衣場の鏡にからだを晒すと、
全身が赤銅色だった。

先週、寝泊りさせてもらっているP デザイン事務所へ顔を出した、
編集者2人から仕事をもらった。どちらも初めてする取材&書き仕事だ。
金曜日から相棒ユージと共に、取材開始。

今日、P デザイン事務所のボスTが、私の名刺をデザインしてくれた。
出来上がりは明日。名刺を持つのは、ほぼ7年ぶりだ。縦組の明朝体。
住所や電話、ファックス番号はP デザイン・スタジオ。

他の仲間も心配してくれて、いろいろと仕事を考えてくれる。

同い年の女性誌副編集長のAが、
PISS&JUNK編集の、ウェブ・マガジン『BALLS』のプロデュースを
かってでてくれた。
ウェブの作業と管理は、去年から世話になっているウェブ事務所Bがやってくれるという。
ノーギャラでだ。

無論、ありがたく、やらせてもらう。

A3判型の紙にこだわってきたが(これからもこだわるが)、
いま、やらずに、いつやる。
来月は、本来一緒に『BALLS』を編集するはずだった林文浩の1周忌だ。
来月の24日で、私は48歳になる。

さっき、簡単な企画書とコンテンツを書いた。

[ウェブ版]
スキャンダラス・アート&フォト・マガジン
『BALLS』(ボールズ=金玉)

女に棄てられ住所不定の宿無しピスケンと
×××××を言い渡されたジャンク・ユージの無職コンビが
今一度、枯れ井戸の奈落から這い上がり
景気よくばら撒く
拾え!  詩人たちよ!
この割れちまった
悲しみの皿を


さて、せめて枯れ井戸の奈落から、ひでりの路上へ、
PISS&JUNKはリターンズできるか?
乞うご期待。


[今日の詩]

『ぐずぐずとおれたちは歩き出した』

真夏の正午だった

路上の血溜まりに
ガソリンの虹が浮かんでいた

あたりは、やけに静かで
聞こえるのはアブの羽音ばかり
ゆっくりと虹は
砂時計の砂漠に沈んでゆく

 タイヤのスリップの跡は
 年老いた大蛇のよう
 歪んだガードレールに座る
 おれたちの足元で千切れている

もどかしいまでにゆるいカーブで
少年の単車はバーストした
なにも見えないもどかしさが
淋しく吠えてバーストしたのさ

 真昼の暗闇の
 ガーゼを首に巻き
 さあ、仕事にもどろう
 ぐずぐずとおれたちは歩きだした

 自分の影が墓穴に見えるから
 おれたちは空を見上げながら歩いた
 明日の新聞に少年の死亡記事は載らないだろう
 明日の新聞におれたちの死亡記事は載らないだろう

狂ったおれたちの
狂った生活を
生きのびる道は
歪んだガードレールを越えてから

ああ、死人だらけだ
おれたちはおれたちの
世代をみとる世代だ
歪んだガードレールを越えてから

さあ、仕事にもどろう
ぐずぐずとおれたちは歩きだした




ただいま24時10分前。
これからレトルトのクリーム・シチューを温め、
ご飯にかけて夕食としよう。
ぬか漬けが食べたい。
ここ5年、ぬか漬けを続けてきた。
(女の家に残してきたぬかは、どうなっているだろう)
そうだ、明日は浅漬けをつくろう。
おやすみなさい。