ビヨンド・ザ・NWO 永遠のバッドガイ | miracle apple laboratory

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かつて全米プロレス界を震撼させたNWOという軍団について、その首謀者であるところのケビン・ナッシュは次のように振り返った。
「ビートルズにはなれなかったが、ツェッペリンぐらいにはなれたかな……うん、ツェッペリンだな」

この発言を聞いて、NWO大好きだった僕はズッコケてしまった。
レッド・ツェッペリン程度じゃ不服だ、と言いたいのではない。例えとしてあまりにもうまくなさすぎるだろう、と言いたいのだ。
NWOは、ハードロック的な美意識が中心にあったプロレス界に、B系のノリを持ちこんだことが成功の一因だったと思っている。マイクでのシュート発言の数々(dis?)や、やたらスプレーを多用していた(グラフィティ・アート?)ことからも、そのことには自覚的だったのだと思っていたが、そうでもなかったようだ。
恐らく、90年代当時のストリート感覚/流行を取り入れた結果、自然とギャングスタ的な集団になったということなのだろう。

ケビン・ナッシュはNWOにおいて多くの権限をもっていた最重要人物ではあるが、先の発言を振り返る限り、軍団をクールたらしめていたセンスの持ち主だったかというと疑わしい。
ポール・ヘイメンはECWを振り返る時に「ECWは古臭いハードロックだらけの中に、グランジ、オルタナをぶち込んだんだ!」と語る。その例えの正確さ、その嗅覚の鋭さに比べると、ナッシュの発言は遥かにアナクロに思えるからだ。

こないだ、今年3月に開催されたWWEの恒例行事『ホール・オブ・フェイム』のDVDを観て、そんなNWOに対するひとつの謎が解けたような気がした。
今年の殿堂入り選手は、アルティメット・ウォリアー、ジェイク・ロバーツなど、素行の面で問題のあった“破滅型レスラー”という点で共通していた。
その中に、NWOの中心人物だったスコット・ホール――NWO以降、アルコール中毒で所属団体の解雇・復帰を繰り返していた――もラインアップされていたのだった。

殿堂入りに際してのスピーチでは、各人の素の生き様や美学が浮き彫りになる。
WWE上層部と揉めに揉め続けたアルティメット・ウォリアーは、恩讐を越えた晴れ舞台の壇上で、1時間以上もかけて当時の恨み節と感謝の念を、未整理のまま語り続けた。
映画『ビヨンド・ザ・マット』で薬物中毒と私生活の問題を晒したジェイク・ロバーツは、ウィットを交えてはいたものの、基本的には過去を懺悔し悔い改めて第2の人生を生きる、という決意を表明した。

WWE在籍当時のレイザー・ラモン名義で登場したスコット・ホールは、粋だった。
レイザー・ラモンを紹介する役を任されたケビン・ナッシュに対し、舞台裏で「短めで頼む」と漏らしたというホールは、カメラに向けて咥えていた爪楊枝を投げつけるお得意のムーブで「Hey, yo」と登場し、スピーチそのものは極めて簡素に、5分程度で終えた。

「この業界にいて分かったことがある。どんなに苦しい時でも、入場ゲートをくぐると力がみなぎってくるんだ。だから“最近、調子どう?”と聞かれたら、大体はこう答えた。“Better than you, chico(てめえよりはマシ)”ってな」
感傷的になりかねない時でも、寸前でワルに努めようとするのを決して忘れない。

レイザー・ラモンの殿堂入りに際し、その選考理由として「ストーンコールドやロックよりも先にバッドガイのヒーロー像を演じた」ことが挙げられていた。
最前列では、現在のWWEトップ・スターであるジョン・シナがスピーチを聞いていた。
彼は、エミネムを模したラッパー“ワル学の博士”というギミックで頭角を現したものの、常にコアなファン層からは不支持を受け続けている。マニアたちはもう、よりリアルな“ワル”を知っているのだ。

ホールはスピーチの締めに、自分がプロレスを通して学んだことを述べた。
「努力は報われる」、「夢は必ず叶う」、「悪い時は、決して長くは続かない」
遠くを見ながら、そんな殊勝なことを述べた後、最後に眼前のカメラを見据えてこう言った。
「だから、バッドガイは永遠だ」

この瞬間、かつて自分が心酔した集団NWOのエッセンスは、ナッシュでもなく、当然ホーガンでもなく、スコット・ホールにあったことを痛感したのだった。
NWOは無くなっても、バッドガイは永遠!