地獄の5丁目6番地:Apprentice Embalmerになる | ピロの屋本館@ロサンゼルス

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天使の女王の町Los Angelesでの生活記録

 

Spring 2022

 

 

2022年1月14日に

事務局に出した申請書は

2月8日に受理され、

私は正式に

カリフォルニア州認定

アプレンティスエンバーマー、

AE14124

となった。

 

 

 

 

が、この私のポジションを、

スーパーバイザーのピナは

喜んではいなかった。

 

 

彼女は基本的に、

自分中心でないとイヤなタイプなので、

私のこのアプレンティス

というポジションが、

彼女の立場を脅かすと思ったのだろう。

 

 

というのも、

サンドの前のマネージャーが

去ってからは、

ディレクターとエンバーマーの

両方のライセンスを持っているのが

ピナ1人だったので、

それなりにリスペクトされてきたから。

 

 

サンドは葬祭ディレクターしか

持っていなくて、

彼自身もApprentice Embalmerに

数か月前になったばかりだったので、

経営面から考えても、

ピナの存在は重要だった。

 

 

そんな感じで、

”自分だけ”

という特別感に浸れていたところ、

私がアプレンティスになれば、

いつかはライセンスを取って、

自分と同じポジションになるのも

時間の問題。

 

 

カリフォルニア州で

エンバーマーの免許を取るには、

様々な条件があるんだけど、

そのうちの2つが、

星2年間のApprenticeship

星100体のエンバーミング

 

 

となると、単純計算で

1年に50体のエンバーミングが

必要となる。

 

 

でもサンドの分もあるので、

1年間に100体は

エンバーミングするご遺体が必要だけど、

ここは小さな葬儀社だったので、

サンドと私の2人が

エンバーミングをするとなると、

ギリギリだった。

 

 

そういった事情もあり、1体でも多く

エンバーミングをしたいってのが

本音だったんだけど、

ここからピナの

嫌がらせが入ってくる。

 

 

まず、職場に届いた

私のApprentice Embalmerの

証明書を、

なかなか私に渡してくれなかった。

 

 

2月はじめに受理されたその証書を、

私が受け取ったのは

1ヵ月も過ぎた3月半ばだった。

 

 

それから、

最初の25体のエンバーミングは、

ピナのアシスタントか、

ピナの監視の元で

エンバーミングしなければ

ならなかったんだけど、

彼女は私とエンバーミングすることを

極力避けた。

 

 

どんな風にかというと、例えば、

『今日は私、午前中は忙しいから

エンバーミングは午後からやるから』

と言って、それまで

私を葬儀の手伝いに回らせ、

その間にとっとと

エンバーミングを済ませてしまう。

 

 

なので、私が葬儀から戻ると、

エンバーミングは

既に終わっている。

 

 

他にも、

私がクラスがあって

仕事に行けない日を敢えて選んで

エンバーミングしてしまうとか。

 

 

ある日なんて、

『ピナが今エンバーミングしてるから、

早く行って一緒にやってきな』

とサンドが言ってくれたので

Prep Roomに入って行くと、

ピナがマシーンに薬品を

入れたところだった。

 

 

私が、

『ハ~イ、ピナ!手伝うね!』

と声をかけると、

ピナが返してきた。

 

 

『あ、今マシーンに薬品だけ

入れて準備しただけだから。

私は今からオフィスの仕事で

行かないといけないのよ』

と言って止めてしまうとかもあった。

 

 

それでも月日は容赦なく過ぎる。

そして私は焦る。

 

 

気づけばApprenticeになって、

エンバーミングを

1体すらやらせてもらえず、

2ヵ月が過ぎていた。

 

 

そんな時、

更なる不幸が訪れる。

 

 

教会やらアレンジメントルームの

リモデルが終わり、

いよいよ最後、

Prep Roomのリモデルが開始された。

 

 

その間は、サンドの知り合いが

マネージャーをしている

葬儀社へとご遺体を運び、

そこでエンバーミングを

してもらうことになった。

 

 

当時4月。

完成予定は7月終わり。

 

 

Prep Roomが完成する頃には、

私はApprenticeになって

すでに半年になっているというのに、

まだ1体すらエンバーミングを

させてもらえない状態。

 

 

これでは2年で100体は

終わらない。

 

 

Apprenticeをやっている間は

1月1日から12月31日までの

リポートを、

毎年事務局に出さないといけない。

 

 

実は事務局に出すそのリポート、

エンバーミングだけでなく、

IDビューというものも、

100体の中に入れていい。

 

 

これなにかというと、

ご遺体確認でほんの15分程度だけど、

ご遺族がご遺体と対面するサービスで、

その為に、

ご遺体に除菌殺菌処理をして

準備をする。

 

 

これは薬品を使って殺菌処理をして、

目と口を閉じる。

あとは顔を奇麗にして、

髪を奇麗に整える程度の作業。

 

 

エンバーマーの第一ミッションは

”Disinfection(殺菌)”

なので、エンバーミングだけでなく、

そのIDビューの準備も

100体に入れる事が許可されていた。

 

 

なので私は、

リモデルの間はずっと、

地下室の水道もない場所で

1人でIDビューの準備をして

それをリポートに書いていた。

 

 

せっかくアプレンティスになったのに、

エンバーミングの1つも

させてもらえる事なく、

単なるIDビューだけのカウント。

 

 

ずっとこのままいったら、

もしライセンスを取っても、

エンバーミングの1つもできない

エンバーマーになってしまう。

 

 

私はとても惨めだった。

 

 

他のアプレンティスたちは、

日々エンバーミングをして

スキルアップしている中で、

私だけはフェイクな気がした。

 

 

それならせめて、

エンバーミング終わった後の

ヘアメイクでも、、、と

思ってサンドに言ってみても、

それはそれでピナがやるからと、

私は肉体労働の

洋服着せをやらされただけで、

エンバーマーになるのに必要な事は、

殆どやらせてもらえなかった。

 

 

学校へ行くときまって、

既にアプレンティスになった

生徒たちの間では、

『何体終わった~?』

という話題になる。

 

 

私1人だけ

そこに足踏み状態で、

毎週数が増えていくクラスメイト達に

どんどん遅れを取っていった。

 

 

それでも私は負けなかった。

 

 

やる事がない時には、

教会のモップ掛けや

トイレ掃除もやった。

 

 

掃除機もかけたし、

誰もやらない

アレンジメントルームの

ゴミ処理や珈琲補充などの、

お掃除おばさんのお仕事もやった。

 

 

入学当初の

インターン学生のように、

ご遺体の引取りにもブリオと行ったし、

葬儀の手伝いもした。

 

 

”私はエンバーマーになるんだ!

絶対になるんだ!

こんなことで負けたら、

これまでの努力を

無駄にすることになる!

負けてたまるか!”

 

 

日々そう思って

ひたすら頑張って来た私に、

更なる困難が迫っていた。

 

 

続きはまたね。