地獄の5丁目5番地:エンバーミングラボとユーボン教授再来!! | ピロの屋本館@ロサンゼルス

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天使の女王の町Los Angelesでの生活記録

 

Spring 2022

 

 

エンバーミングクラスは、

レクチャー(講義)と

ラボ(実習)と両方ある。

 

 

レクチャーの方は、

坊主頭にヒゲをはやし、

真っ黒いスーツにサングラスと

見た感じヤクザな、

でもとっても優しくて面白くて、

サングラスを外すとその向こうには、

クリッとした可愛いお目目がある

おじゃる教授だと

以前アップしましたね。

 

 

今日はラボのお話し。

 

 

え!エンバーミングのラボって、

実際に亡くなった人を使って

エンバーミングするの???

って思いますでしょ。

 

 

はい、その通りです。

本物のご遺体を使って

学校のPrep Roomで

エンバーミングをします。

 

 

ラボでの作業としては、

 

生徒1が右の総頸動脈内頸静脈

生徒2が右の腋窩動脈 

生徒3が右の大腿動脈

生徒4が左の大腿動脈

生徒5が左の腋窩動脈

 

のように、その週によって

どの動脈を扱うかが決まっていて、

ローテーションになっている。

 

 

その他の作業としては、

まずは全員でご遺体を洗う。

 

 

それから、

アセスメントをする係、

目と口を閉じる係、

薬品を決め分量計算する係、

リポートに記入する係などの

役割分担があったので、

それらを協力してやっていく。

 

 

そんなこんなで

それぞれがバタバタと

自分達の役割をやったら、

いざ、動脈探しに入るんだけど、

人体というものは

図解していあるほど簡単でもないので、

これがまた慣れない学生にとっては

難しいところなのであるもやもや

 

 

なので、

『先生ー!見て、動脈見つけました!』

と言って見せても、

”違うよ、それは腱!”

”違うよ、それは神経!”

とかよく言われてましたよね(笑)。

 

 

エンバーミングテーブルは

3つあるので、A, B, Cの

3グループに分かれてやる。

 

 

私たちの時には

生徒が15人だったので、

1つのテーブルに5人の生徒が

当てがわれた。

 

 

そしてラボでは、

1テーブルに先生1人つくので、

3人いた。

 

 

まずはあのDr. デーモン。

それから、比較的新しい

女性のラスカル先生、

そして最後の1人がなんと、

あの底意地悪いユーボン先生だった。

 

 

この地獄記事1丁目は、

ユーボンが主役と言ってもいい程、

彼女の登場回数は多かったと思う。

 

 

デーモンは基本的に、

ラボの先生を教えに来ていた

感じだったので、

最初の3回程はきたけど、

以降は1,2度来ただけで、

あとはラスカル教授と

ユーボンの2人の時が多かった。

 

 

ラボ初日、

Prep Roomに入って行くと

既にデーモンがいた。

 

 

彼は生徒を集めて、

ご遺体の書類を渡して質問した。

『死亡日と死亡要因を言え!』

 

 

生徒たちが答える。

『〇月〇日死亡、癌です』

 

 

デーモンがまた質問する。

『癌で亡くなった場合の、

考えられる状態はなんだ?』

 

 

生徒達がまた答える。

『衰弱?。。。』

 

 

ここでデーモン節が飛び出す。

『”衰弱”俺に質問してるのか?』

 

 

答えた生徒が返す。

『衰弱です

 

 

デーモンが続ける。

『ほら!どんどん答えろ!

サイエンスのクラスで得た知識を、

今使わないでいつ使うんだ!!』

 

 

その後もデーモンは、

 

星死後どれくらい経ってるか

星どの薬品をどれくらい使うか

星薬品の強さはどれくらいか

 

などなど、この前のクラスで

デーモンが教えてきたことを

生徒たちに答えさせて、

実践ではどう使っていくのかを

教え込もうとしていた。

 

 

それから生徒達は、それぞれの

テーブルにご遺体を乗せて洗った。

 

 

ラボ初日、ラッキーにも

私のグループはデーモンが見てくれ、

メスの刃の設置の仕方、

取り扱い方や持ち方などを

1人1人に見てせしっかり説明した。

 

 

それから

動脈と静脈の見つけ方、

歯の無い場合の口の閉じ方を

デモンストレーションした。

 

 

そしていよいよ我々生徒たちは、

それぞれの場所について

動脈探しに入った。

 

 

デーモンは遊び心が半端なく、

我々のテーブルはAだったんだけど、

デーモンの元でどんどん

進むもんだから、

テーブルBとCに向かって

デカい声でプレッシャーをかけた。

 

 

『OMG!テーブルAは

もう薬品注入始めちゃったよ~!

あれ~、BとCはまだ

モタモタと血管探しか~?』

 

『あれ~!うちはもう

縫合入った生徒がいるわ~!

CとBはやっと今から

薬品注入なのにな~!』

 

などと、煽る煽る笑い泣き

 

 

それでもデーモンは、

ラボでもレクチャーでも

”教える”

という事を自分のミッションと

しているかのように(そうなんだけど”笑”)

質問には誠意をもって

しっかりと答えてくれ、

必要ならば、

ラボ内の人体図を使って

説明までしてくれた。

 

 

しかし、こんなことも。

 

 

うちのグループのリーダーは

当時既にApprentice Embalmerで

もう5ヵ月ほどで

免許が取れる感じだったんだけど、

グループでも飛びぬけて不器用な

ジャンというおじさんの

縫合を手伝っていた。

 

 

そこにデーモンが来てこう言った。

『ジャンの学ぶ機会を奪うな!

言葉で教えてやるのはいい。

だけどお前は手を出すな!』

 

 

私はデーモンのこの姿勢を

本当に素晴らしいなと思った。

 

 

それからこのデーモン、

めっちゃめちゃ見ている。

見てないようだけど、

しっかり見ている。

 

 

ある時こんなことがあった。

乳痂 といってベトベトした

湿疹のようなものを取るのに、

ラスカル教授とディラが

『ベビーパウダーを使うといいよ』

と言ったのでそうしてたら、

すかさずデーモンがやってきて、

『止めろ!そんなもん使うな!

これ使え』

といって、別の薬品を持ってきた。

 

 

私がそれを使用して

乳痂 を奇麗にした後

またデーモンがやってきて、

『どうだ、あっちの方が

奇麗に落ちただろ?』と。

 

 

また別の日には、

私が動脈っぽいものを見つけて、

でもそれを確認したくて

側に先生がいないか見るのに

顔をあげたら、

2,3m離れた場所の

デーモンと目が合った。

 

 

その瞬間、私が聞く前に

デーモン、首を横に振った。

”それじゃない”って意味で(笑)。

 

 

15人の生徒が

わさわさと慣れない手つきで

作業している中でも、

しっかり1人1人を見ていること、

それから、

どんだけ遠くからでも、

それが動脈かどうかを

一瞬で見極めるあの鋭い目!

 

 

本当に人間か???

と思ってしまう程、

彼の観察眼は優れていた。

 

 

デーモンに関して

私が感心したこんなことも。

 

 

ある生徒が、使っていたツールを

ご遺体の上に置いた。

するとそれを見たデーモン、

そのツールを

手でバシッとやって叩き落とし

こう言った。

 

 

『ご遺体はお前らの

道具置き場じゃない!

二度と置くな!!!』

 

 

デーモンは厳しいけれど、

こういったところがあるので、

私はどうしても

嫌いにはなれなかったのだ。

 

 

 

そして今度は

ユーボンのお話し。

 

 

彼女は彼女でまた、

ユーボン節を連発した。

 

 

ある日エンバーミングも終わり

皆で縫合をしていた時、

グループのリーダーが、

ユーボンに反転縫合というものを

教えてもらっていた。

 

 

この方法は、

縫った場所が見えないように

するやり方。

 

 

グループのメンバーも見ていて、

”次回のラボの時に

やってみようね!”

とみんなで話していた。

 

 

そして次回、私がそれを

リーダーに教えてもらって

やっていたらユーボンが来て、

『止めなさい!』と言って

適切な理由もなく

阻止されてしまった。

 

 

なぜ???

ラボって実技を学ぶ為に

やってるんじゃないわけ?

 

 

またある時は、

1ヶ所動脈を見つけたから、

別の場所も見つけようと切開したら、

またユーボンがこういった。

 

 

『みんな注目!

動脈は1人1つだけ。

複数はダメ!』

 

 

その日の講義の時に、

たまたまなんだけどおじゃる教授が、

『今日はみんないくつ

動脈見つけられたんだ?』

と聞いて来た時、何人かの生徒が

『1人1コだよガーン

と答えた。

 

 

その瞬間おじゃる教授、顔をしかめて

『なぜだ?』と言ったので、

教授の目の前に座ってた

私とザビエルが答えた。

 

 

『許可されてないんだよ。

ユーボンが1人1つだけって言ってさ』

 

 

おじゃる教授、

『は???』とムッとして

『それじゃラボの意味がない!』

と怒りを露わにした。

 

 

それから2週ほどが経った時、

ユーボンが遅刻して

我々生徒はPrep Roomに

入れずに廊下にいた。

 

 

するとデーモンが、

あのインテリヤクザのような

出で立ちでスカしてやって来て言った。

 

 

『なんだなんだ、大勢で。

なんのクラスの生徒だよ~』

 

 

知ってるクセして

あーいう事言うデーモンである笑

 

 

どうやらデーモンは、

ユーボンから”遅れる”と

連絡をもらったので、

ユーボンが来るまで

我々の子守をしに来たようだった。

 

 

そして彼は、

Prep Roomを開けて

中に入った途端にこう言った。

 

 

『よし、いいか!

今日は最低1人2つの動脈を

見つけるんだ、いいな!

見つけられるだけ見つけろ!』

 

 

やっぱりデーモンがくると

場の雰囲気が一気にアップする上矢印

 

 

その他ユーボンがやらかした

失態としては、

生徒の縫合をやってしまったこと。

 

 

動脈を2つ見つければ2つ、

3つ見つければ3つ、

必ず縫合もする事になるわけだけど、

ある生徒が1ヶ所縫合していたら、

『私がこっちやってあげるわよ』

と言ってやり始めてしまったのだ。

 

 

なぜそれをやったか。

それは自分が早く帰りたいから。

 

 

もう、そんなに教えたくないなら、

とっとと教師止めろって

話になってくるんだけど、

でもこれがユーボンなのだ。

 

 

因みに、我々のグループは、

初っ端のラボリポートで、

全員ユーボンから0点をくらった。

 

 

理由は、ご遺体の骨格に関して

間違っていると。

 

 

そのご遺体は、

胸郭が歪んでいたので、

”Distorted(歪み)”

と書いたんだけど、

ユーボンはそれを違うと言い張った。

 

 

リーダーまでもが

ユーボンに抗議したけど、

ユーボンは、

『これは元からなっているものだから、

歪みにはならない』

とか、意味不明な理由を述べた。

 

 

エンバーミングの

ケースリポートというものは、

その時のご遺体の状態を

記録するものなので、

歪みが先天的だろうが

後天的だろうが、

まんま記録する必要がある。

 

 

でないと、もしもご遺族が見て、

”こんな変形してなかった”

なんて言い出し、

我々もそれを記録して

いなかったとしたら、

我々が歪めたことになってしまう。

 

 

ご遺体は亡くなってから

またご遺族の元へ戻るまで、

様々な人の手に渡る。

 

 

もしもその間、

ご遺体のコンディションに

変化が起こった場合でも、

”うちに届けられた時点では

こうなってました”

という事を記しておかないと、

我々のせいになってしまうから。

 

 

そもそもユーボンが言った、

”それは元からだから”

というのもおかしいだろ!

だってそのご遺体の生前を

知らないお前が

なぜ元からだと分かるのだ!

 

 

それからこんな酷いことも。

 

 

爪が紫に変色していたご遺体があって、

私とグループメンバーが、

薬品を注入しながら

マッサージしていた。

 

 

するとユーボンが来て、

『それはこうするのよ』と、

あるツールを取って、

その間にご遺体の指先を挟み、

ツールを滑らせて

マッサージをはじめた。

 

 

しかしユーボンは、

『こうすんのよ!

ほらほら、こうよ!!!』

と、あのイヤな薄ら笑いを浮かべ、

そんなに強くはしない方が、、、

と言いたくなるほどの

強さでガンガンとツールを使って

ご遺体の指を刺激しはじめた。

 

 

『分かった?』と言い、

その場にツールを

軽く投げる感じで放って

去って行ったユーボン。

 

 

私がご遺体の手を取り指を見たら

皮膚がベロりと剥けてしまっていた。

 

 

あの時ばかりは、

私はユーボンを睨みつけた。

 

 

ユーボンのご遺体の扱いは、

まるでストレスでも晴らすかのように

本当に乱暴だった。

 

 

私は、数回だったけど、

そこにデーモンが来て

教えてくれた事にとても感謝した。

 

 

でなければ、

新人先生のラスカルと

ユーボンだけのラボでは、

せっかくのエンバーミングラボでも、

あまり勉強には

ならなかったかもしれなかったし。

 

 

というわけで、

やっぱりユーボンは

何一つ変わっていない女であった。

 

 

 

 

ラボのお話しは、

エンバーミングも修復のクラスも

まだ続きます。

 

 

ではでは、またねパー