遠乃物語 藤崎慎吾 「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」 | 2018年 本棚への旅

2018年 本棚への旅

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遠乃物語 藤崎慎吾 を読む📖👓37
「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」
遠野物語の序文であるが多分に演劇的ではないでしょうか?
遠野物語本文の素朴で故郷の囲炉裏の匂いがする民話のテイストからは微妙にそぐわないような気がしていたのですが、こちらを読んで、すとんと物語が繋がったような気がします。



台湾の調査から帰国した民俗学者伊能嘉矩は遠野の神社で地元の作家佐々木喜善とともに、別の世界に迷い混みます。そこは遠野によく似ていながら、どこか作り物めいて、奇妙な事象が頻繁する遠乃という村でした。
二人の家も親も妻も、そこに居るのにどこか違和感があるのです。豊かなはずであった、むかしっコという名称の伝承譚が村の誰からも語られず、代わりに語りの世界の不思議や住人が此方の世界にはみ出して来ているようなのです。。。。。(((((((・・;)




この伊能さんと佐々木さんは実在の人物で柳田国男が遠野物語を著作することに大いに関わっているので、本書のエピソードを読むと何処までが本物で何処までが創作か渾然となり、正に遠乃の異界に紛れ込んだような気分が味わえます。 

作者はハードSFの新鋭、その彼が伝奇ミステリに挑む試みは畑違いどころか意外!しっくりときて面白い。これは星野宣之の宗像教授シリーズを彷彿とさせました。
今のところあまり注目されていない本書ですが、ベストセラー平積み本にも負けない隠れたオススメ本でございます。