縄文聖地巡礼 対談中沢新一、坂本 龍一  | 2018年 本棚への旅

2018年 本棚への旅

年間200冊の本を読む活字とインクの森の住人、
ピロシキ亭のシロクマおじさんの読書録です



縄文聖地巡礼 対談中沢新一、坂本 龍一 200頁
★★★ 211冊目
中沢氏の作品(あえて作品と呼ぶ)は嫌いではない、いやむしろ
好きな部類に入っている。
読んでいると昔の諸星大二郎氏や星野伸之氏の一連の漫画シリーズや
夢枕氏や高田崇志氏の伝奇推理シリーズを読んでいるときのような
ワクワク感や知的疾走感を感じる。

こちらの本は音楽家でありアートや歴史、地誌に造詣が深く
「教授」ともよばれている坂本龍一氏と一緒に中沢新一が
日本の各地の縄文的な痕跡を伝える印象的な場所をめぐりながら、
そこから得たインスピレーションや自分の民俗学、縄文論、
アート論を楽しく語り合うという内容です。



アースダイバーや精霊の王を既読の方は、三内丸山遺跡や諏訪大社、
敦賀、奈良、鹿児島といった霊気豊かなエリアを二人とめぐる
地方版アースダイバーといった楽しみ方が出来ると思います。

惜しむらくは、読みながら感じる欲求に対して写真や解説が
少ないため、折角の日本各地の縄文の息吹を感じることが出来ず、
一番楽しそうなのは中沢さんと坂本さん、お二人、
という印象を受けてしまうことです。
見てきたものの印象や解説が二人の中では”共通知のもの”という
前提で対談しているため、
知っている人には参加できてるようで面白いけど、
初めて見聞きする人は、「僕ッて仲間はずれ・・・」
という淋しい気持ちが生まれてしまいます。

本にする際は、その辺を配慮する必要があると切に思いました。
本の装丁や紙質の手触りにすごく気をつかって、
縄文に触れてるような感じ、を出そうと苦労されているようです
ので尚のこと残念です。
本は装丁も大事ですが中身が大事、なのです。

さて、こちらの本では体裁こそアート論、と
民俗学のメディアコンプレックッス、叡智の会合、
みたいな雰囲気を与えることを意識しているようですが、
ネタモトはロハスマガジンの対談連載だということに注意しておく
必要があります。
アマゾンのレビューを読むと案外この点が見落とされており、
評価の是非は中沢論について好きか嫌いか、受容できるか反論意見か
についてのみで二分されているようです。

対談と著作の違いについては成立形態をよくイメージする必要が
ありますが、この本のようにロケ、取材先の手ごろなラウンジで
リラックスして旅先の感想や自分の持論を交換する形で
まとめられたということは、
語られる学術的な内容や他の識見者の説の引用、誤用、牽強付会
が発生しやすいという点を忘れてはいけません。

その分、相手の反応や想起されるインスピレーションにより
発想のジャンプが発現してエキサイティングなライブ感覚を
読み手が共有できるという対談の良さというものがあります。
しかし、どんなに学術的な対談であっても、その実態はライブであり
一部はアドリブであることを覚えておく必要があるでしょう。

対談で弾けた斬新な発想の着眼点は、意見として世に出すには書斎の闇の中で熟成し推敲する時を得ねばなりません。
ですので、この本の評価、成否については珍しくも本の内容、
対談の中身、質にあるのではなくて、むしろこの本のデザインの
方向性、販売プロモーションの手法の間違いにある、
というのが僕の見解です。
装丁自体は上品で、センスのあるものだと思います、ですが
この本の性格、活用性を考えれば、より相応しいのはmook本や
カラーグラビアを多彩に盛り込んだ紀行ガイドのような軟派な体裁
であり売り方、ではないかと思ってしまいました。