ヒトリコ 額賀澪  いいですよ | 2018年 本棚への旅

2018年 本棚への旅

年間200冊の本を読む活字とインクの森の住人、
ピロシキ亭のシロクマおじさんの読書録です



ヒトリコ 額賀澪 277頁
★★☆☆(★★★と★★★★の差はこういう本を読み終えた時に
強く感じる)202冊目

ちゃんとしている。。。読後の第一印象です。
物語というものは部数の伸びや、実験や、集めた史料を小器用に
まとめるだけのものでは、読者のこころのある位置より先には
決して刺さらない。
ましてや番宣や映像化を意識した形だけの物語など問題外で、
最初の数頁で化けの皮が剥がれるものであります。

さて、そしてこの本、これはこっちがわの本だ。という空気感が
その最初の数頁で自分を包み込みました。
作者が書こう、という意思の力が登場人物を動かしていきます。
ちゃんと書く、書きたいものをきちんと掘って行く。。。。
また青春と音楽か、、、、みたいな類似商品とは違うのです。




小学生5年生の日都子。今まで疑いようもなかったクラスの
友達関係と楽しい無邪気な小学校生活はある朝唐突に、そして
残酷に断ち切られます。
クラスで飼っていた金魚が連休明けにポンプの故障で全滅していて、
その責任の全てがエサやり係の日都子のせいにされてしまいます。
友だちだと思い込んでいたクラスのほぼ全員が同調し、
担任の教師は自分の家庭のトラブルの捌け口を見つけたかのように
彼女をようするどころか逆上して殴り付け、彼女を犯罪者のごとく
決め付け断罪します。
彼女の世界はその日閉ざされ殺されるのでした。
想像するだに恐ろしい状況ですが、彼女はその日以降
誰とも関わることなく頼ることもなくひとりで生きていくことを
決意します。
賎称のようにつけられたあだ名、ヒトリコ、誰からも仲間に
入れてもらえず、いつもひとりでいるこども。
クラスカーストの最底辺。残酷ではあるが世界とは無縁でない
現実のひとつ。
だがしかし彼女は引きこもるでもなくグレるでもなくヒトリコ
として生きて行くことを選びます。
仲間はずれ、や無視、いじめや教師のプレッシャーにも負けず
学校に通い続けます。
その孤高な精神の強さ、清廉さ。ヒトリコという呼び名は彼女にとっては誇称であり存在証明となるのでした。



状況が極端過ぎる、主人公ができすぎ、女子の性格が類型的ワル、
男子が掻き分けられてなくて理想すぎ、、、、、などなど。
この本には沢山のアラがあります。ですがそれを補なうだけの
強さをこの本は自ら発しているようです。
不登校やいじめ、学校での諸問題にスポイルされ心を削られて
いる子供たちが今もこの国の至るところに居るのでしょう。
その子供たち、その親たちにとって、この物語があるということ。
それがなにがしかの救いになり杖となることができる。
そんな価値のある本だと思いました。