沢山の扉とエアフィルター、エアカーテンを何枚か潜り最後にミスト状の消毒をかけられました。

目の前には……














小さな小さな扉。


白雪姫のこびとさん達の住む家かと思うような扉です。


私がかがんだらどうにか潜れるくらいの扉。


コンコンコン…
ノックします。

扉の中から声が
「IDカードをインターホンのカメラにかざしてください」

かざします。

ガチャリ。

扉が開きました。
そこには…









小さな男の子が2人とお父さん、お母さんの一家が暮らす家がありました。



「お待ちしていました。」
満面の笑みのお母さん。私に少し人見知りしているかのような子供達。
普通の暖かい家庭がこんなところにあったのです。


どうやら煙突のようなダクトから空気が送り込まれているようです。

お父さんにソファーをすすめられました。ふわふわのソファーに体を沈めてようやく本当にほっとしました。
お母さんが紅茶を出してくれます。しっかり綺麗な赤い色の出た紅茶。

これがどれほど貴重な品かは私もわかっていました。震える手でカップを持ち「いただきます」と言ったもののなかなか飲むことができません。
『何年ぶりかな…なつかしいな。』赤い色を見ながらそんなことを思っているとお父さんが「遠慮せず召し上がって下さい。」と笑いながら声をかけてきました。
我に返りそのお父さんの紅茶のカップを見ると、明らかに濃さがちがう。薄い茶色の液体が見えました。

『外から来た私に精一杯のもてなしをしてくださっているのだなぁ。』と泣きそうになりながら、懐かしい香りの赤い液体を飲みました。

「この4人家族以外と会うの6年ぶりなんですよ。」とお母さん。
「正確には6年4ヶ月と23日ぶりだ。」とお父さん。

どおりで子供たちが近づいてこないはずです。


部屋を見回すと今いる部屋がこの家族の空間の全てであるようで、4人で暮らすにはかなり狭く感じられます。

狭い部屋の中には流し台と水の濾過機、缶詰やチューブの食料とわずかな食器の並ぶ小さな棚。ソファーにテーブル。壁際には折り畳み式のベッドが数個。天井に小さな照明。たったこれだけ。

子供達は空の缶を転がしたり投げたりして遊びだしました。


「さて、仕事をはじめさせていただきます。」
私は鞄から仕事道具を出しました。

つづく