「ご希望はどのようなものですか?」

「海辺…」

「そう…海だ。家内と私はかつて海の近くに住んでおりました。」

「そうね。それから椰子の木や、ヨットが沢山あって、赤い三角屋根のおうちがあったわね。」

「年中暖かく沢山の人達が集まるとても賑やかな海辺でした。」

「空は青くて、エメラルドみたいな海が綺麗で波の音が穏やかだったの。」

「みんな居たしな…。」

「そうね。みんなでたのしかったわね。」

夫婦の話を聞いて内心いたたまれない気分になった私は感情を抑え、絵筆をとりました。

私の仕事は…









窓のむこうを描く職人。






大きな窓枠の向こうに青い空、白い雲、鮮やかな碧の海、波、椰子の木々、赤い屋根の家、波乗りやヨットで遊ぶ人々。それから…太陽。


5色を混色しながら丁寧にに心を込めて描きました。
描いている間に仲良くなった子供達は、動物や植物を知らないということに気付き歳を訪ねるとまだ6歳と4歳。

地下のトイレを少しは怖がらなくてすむよう、子供達が知らないウサギや亀やキリンやペンギンや、花や蝶々やミツバチを…サービスで壁一杯に可愛らしく描いてさしあげました。
それから太陽も。


仲良くなり、名残惜しくなってきていましたが、次の現場にいかなくてはなりません。


最後に全員と握手をし、お互い無事ならまた会いましょうと言いました。
そして小さな扉を潜り抜け、振り返った時におかあさんがいいました。



「波の音がきこえる気がするわ。」




私はその言葉に胸が一杯になりながらも、急いで次の現場に向けて出発しました。





おしまい。





夢のはなしなのでつじつまが合わないところは少し追加しました。
砂糖じゃない飴が出てきましたが、現在流通している飴も結構このタイプです。
おなかゆるくなるとか怖いなぁと思っていたので夢にも出てきたのでしょう。

防護服とかは東電の作業されている方の映像や、記事を読んだ影響だと思います。

絵を描く仕事なのは美大出で、近頃少し絵を人に教える機会があったからだと思います。

窓がない部屋は息がつまります。
窓が開けられない空間にいるなんて考えられません。

世の中のみんなが明るい陽の光を浴びて、友達や家族に囲まれて、先のことを不安に感じずに暮らせることを心から祈ります。