自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝/紀伊國屋書店

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 そういえば2015年から三年連用日記をつけ始めました。管理人です。
以前読んだ今村暁さん『1分間の日記で夢は必ずかなう!』をやってみようと思って。
半信半疑ですが、読み返したときに絶対楽しいと思うし、気楽に書いています。
皆さんもいかがでしょうか。

 さて、本日の本はレスリー・デンディ&メル・ボーリング『自分の体で実験したい-命がけの科学者列伝-』です。

 人間にしか分からない暑さや、人間にしかない消化構造、人間にしかない病気、人間の限界スピード……こういったものって、どうやって研究されているのか疑問に思ったことは無いでしょうか。もちろん、一般的な人ならマウスや、人間に近いチンパンジーを使って実験するでしょう。でも、どうしても人間で実験しなければならない必要に駆られたら、好奇心の塊の科学者たちはどうするのか……?

 そう、自分で実験するのです!

 本書は、自分の肉体を科学の発展と自分の好奇心のために捧げた科学者たち(+デザイナー)の一風変わった人物伝なのです。中学生向けに書かれた本だというだけあって、写真や挿絵や専門用語の解説が豊富でとても読みやすいです。普通に生活している人は名前も知らないような科学者たちが、好奇心と探究心に突き動かされて自分の体で試行錯誤を繰り返す姿は恐ろしくも敬服せざるを得ません。この本が無ければ決して表にでなかったであろう知られざる科学者たちの命を書けた物語を、是非読んでみてください。

以下一言ずつ感想。

①ジョージ・フォーダイス(1770年代イギリス)
『あぶり焼きになった英国紳士たち』
ずばり暑さへの挑戦!!いいですねwこの単純にして奥深いテーマ!
読んでいると滑稽だなぁとおもいますが、
病気になったら体温を測るように、
体温は体の調子を測る大事なバロメーターなんですよね。
気化熱ってすごいなぁ!

②ラザロ・スパランツァーニ(1770年代イギリス)
『袋も骨も筒も飲みこんだ男』
動物によって消化の方法って大きく違うようです。
確かに食べているものが全然違いますもんね。
だから人間の消化機構を調べるには人間が一番!
ということで、ラザロさんは紐の付いた袋にいろんなものを入れては飲み込み、それを引っ張るという聞いているだけで「オェッ」となってしまうような実験を行います。

③ウィリアム・モートンとホレス・ウェルズ(1840~70年代アメリカ)
『笑うガスの悲しい物語』
今でこそ歯を抜くときには麻酔をしますから、歯医者も命がけというわけではなくなりましたが、当時はそれこそ激痛を伴う治療だったんですね。それを、エーテルや笑気ガスでなんとかしようとしたのがこの二人。でも、新しいことをするのに失敗はつき物。公開実験の失敗でウェルズは自殺という悲しい最期でした。

④ダニエル・カリオン(1885年ペルー)
『死に至る病に名を残した男』
死に至る病であったペルーいぼ病に自ら感染して、その経過を仲間の医師たちに逐一報告し、自国にその名のとおり命を捧げた科学者。下宿先のおかみさんや友人たちに見送られて最期を迎えるカリオンの姿は涙なしには読めません。こんなすごい人がいたのだなぁ。

⑤ジェシー・ラジア(1900~1901年キューバ)
『世界中で蚊を退治させた男たち』
黄熱病といえば日本人ならば野口英世を思い浮かべますが、このラジアもその研究に尊い命を捧げた科学者でした。ラジアたちは黄熱病の媒介者が蚊であることを突き止めたんですね。彼の遺志をついで、仲間たちも壮絶な実験に身を捧げています。これだけの犠牲があるから私たちは気軽に海外旅行にいけるようになったんですね。

⑥マリー・キュリーとピエール・キュリー(1902~34年フランス)
『青い死の光が輝いた夜』
この二人は有名ですよね。ラジウムを始めとした放射性元素の研究に大きな貢献をしたご夫妻です。管理人は女性としての研究者の地位向上という面でもキュリー夫人の活躍は見逃せないなと思います。ポロニウムという元素がキュリー夫妻の祖国であるポーランドの名前を取ったというのは知りませんでした。

⑦ジョン・スコット・ボールデーンとジャック・ボールデーン(1880~1940年代イギリス)
『危険な空気を吸い続けた親子』
「危険の無い人生は、マスタードをつけない牛肉のようなもの」こんな言葉はほんとうに危険をかいくぐってきた彼にしかいえないでしょう。かれらは、炭鉱や潜水艦といった空気の悪い場所で、いかにして安全に仕事をするかという研究でした。人は体内に二酸化炭素が増えると苦しくなるそうですが、それは体内が酸性になるから苦しくなるそうです。
 管理人は趣味でスキンダイビングをするのですが、ハイパーベンチレーションというテクニックで息を止める前に二酸化炭素濃度をものすごい下げておくと長い間息を止めていられるんですよ。これはそういうことだったんですね。(危険なのでハイパーベンチレーションはやらないほうが良いというのが今では定説ですが)

⑧ヴェルナー・フォルスマン(1920~50年代ドイツ)
『心臓のなかにはいりこんだ男』
体の心臓以外の部分なら麻酔をかけて開いちゃえってなもんですが、心臓だとそうはいきませんよね。フォルスマンはそれを心臓カテーテルでやろうと考えた人。時代はもう20世紀も中盤ですから自己実験への反発は強かったようで、彼は看護師の一人に施術すると見せかけて自分に麻酔かけちゃうんですねw策士。

⑨ジョン・ポール・スタップ(1940~1950年代アメリカ)
『地上最速の男』
戦闘機にとってその速度と安全性の向上は最重要課題といっても過言ではありません。彼は自分の体を実験台にして何Gまで耐えられるか調べました。停止の衝撃で一時失明しかけるとかこわ……こわ……。

⑩ステファニア・フォリーニ(1989年アメリカ)
『ひとりきりで洞窟にこもった女』
彼女は科学者ではなくてデザイナー。なんで洞窟なんかにこもったのかというと、太陽が上ったり沈んだりしない宇宙空間で、人の体内時計はどうなってしまうのかを実験するため。この実験によると、人は太陽の光で一日の体内時計をリセットするため、太陽に当たらないと1日がどんどん長く(30時間も眠らないでへいきになっちゃうとか!)なってしまうようです。太陽の光がどんなに大事なのか良く分かりますね。

 人間のとどまるところを知らない好奇心は恐ろしくもありますが、力強い希望を感じさせてくれますね。ほかにもこんな例はたくさんあるようで、巻末に論文リストが載っています。気になる方は自分で確かめてみてくださいね!