『あるヴァイオリンの旅路』ヴァイオリンとヨーロッパを旅するノンフィクション | ・・・   旅と映画とB級グルメ と ちょっと本 のブログ

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フィリップ・ブローム (著), 佐藤 正樹 (翻訳)
古いバイオリンの出自を探る旅と17世紀欧州史、さらには著者の自分史と家族史を絡ませながら編み上げた重層的な作品だ。物語は著者がある工房で古いバイオリンと出合うところから始まる。内側には2枚のラベルが貼られていた。1枚は17世紀後半のミラノで活躍した職人、カルロ・ジュゼッペ・テストーレのものだが、この世界ではよくある偽物。もう1枚には1882年にウィーンで修理されたとある。こちらはどうやら本物らしい。独特な「訛(なま)り(様式)」のある姿から、ドイツ南部の町、フュッセンで修業した職人がイタリアの工房で作ったものと専門家はみる。


バイオリンが北イタリアに生まれ、発達した16世紀半ばから、すでに響孔はf字型でした。なぜこの形か理論的にはまだわかりませんが、確かにちょっと形や大きさを変えるだけで音ががらりと変わってしまうんです。なお、fの横棒は駒や魂柱(こんちゅう)の位置を合わせる基準の目安となっています。内と外で高さが違い、その真ん中の位置が基準です。ということは、少なくともS字孔ではダメということですね。
イタリアのf fが斜めなのがイタリア式

ドイツ語のf 




fが立っているのがドイツ語のfらしい。

 


 著者は1970年にドイツのハンブルクで生まれた歴史家。ジャーナリスト、作家でもあり、青年時代はプロのバイオリニストになろうと努力を重ねたものの、才能のなさを悟り夢を諦めた過去を持つ。いまだにバイオリンへの憧れをいだく著者はその姿と音色に魅せられ、300年前を生きた製作者をハンスと名付け、彼を探す旅に出立する。これが本書の本筋だ。

 フュッセン、ロンドン、ウィーン、ミラノ、ベネチアを訪ねて、製作や鑑定の専門家に取材し、さまざまな史料に当たる。確かな証拠を得たと思ってもすぐに反証が出てくる。行きつ戻りつのプロセスは探偵小説のようにスリリングだ。著者はこの本筋にペスト、小氷期、戦争に翻弄された17世紀欧州の歴史を重ねる。すなわち移民、交易、庶民生活の実相、音楽史、文化史などにも目を配り、その中にハンスを置いて真実に迫ろうとするのだ。加えてバイオリンに挫折した自分と家族の歴史にも言及、自分の情熱が何に由来するのか突き止めようとするところなどは私小説の趣がある。
ヴァイオリンと歴史でヨーロッパを旅することが楽しめるノンフィクション小説かな。 おもしろいよ。