①『友だち』
ニューヨーク自殺した初老の男友だちから託された大型老犬と暮らす女性小説家

シーグリッド・ヌーネス/著 、村松潔/訳
誰よりも心許せる初老の男友だちが自殺し、大きな空洞を抱えた女性作家の狭いアパートに、男が飼っていた巨大な老犬が転がり込む。真冬のニューヨーク。次第に衰えゆく犬との残された時間の中で、愛や友情のかたち、老いること、記憶や書くことの意味について、深い思索が丹念に綴られてゆく……。2018年全米図書賞受賞作。
②『アコーディオン弾きの息子』
スペイン内戦からバスク独立運動へ息子と親友の物語 バスクの旅の思い
ベルナルド・アチャガ/著 、金子奈美/訳
カリフォルニアで死んだ幼なじみが書いていた「アコーディオン弾きの息子」と題された私家版の回想録。親友はどんな思いで故郷バスクを去ったのか。作家は遺された言葉を元に、少年時代からの二人の物語を紡ぐ。スペイン内戦から民族解放運動まで、波乱の近現代史を描き、美食だけではないバスクの真の姿を伝える長篇小説。スペインはバスク地方出身のベルナルド・アチャガの手になる、バスク語によって書かれた小説である。
③『復活祭前日』
異教徒間の恋愛事情が事件に イランの現代文学を読む
ゾヤ・ピールザード著 藤元優子訳
イランでは少数民族アルメニア人で異教徒であるアルメニア正教信仰する。
小さなアルメニア人コミュニティでは小学校と教会がセットになってアルメニア人の社会を形成している。小学校の用務員さんの家族はイスラム教徒であるが、一家の小学生の女の子はアルメニア人小学校へ通っている。主人公のアルメニア人の少年は彼女に恋心をもっている。女の子は家ではイスラム教の戒律を守り。礼拝をおこなっている。少年は女の子のアルメニア語の国語の読み方をおしえてもらったりもしている。学校に新任の校長がやってきて事件が起きる。
イスラム教徒の用務員さんの美人の奥さんは学校の掃除婦として働いていたとき、アルメニア人の新任校長が奥さんに婦女暴行を行う。事件が勃発。
④『モスクワの伯爵』
最高級のホテル、メトロポール屋根裏部屋に住む伯爵のソ連時代物語
エイモア・トールズ著 宇佐川晶子訳。
1922年6月21日、アレクサンドル・イリイチ・ロストフ伯爵は、人民委員会議の緊急委員会に出席した。裁判官はこう告げた。「当委員会はきみがいたく好んでいるホテルへ返すこととする。しかし、勘違いをしてはならない。ふたたびメトロポールの外へ出れば銃殺刑が待っている」
伯爵は幾代も続いた貴族で、14人の使用人、20室ある邸宅で育った。18年にパリから戻ってからは、モスクワで最高級のホテル、メトロポールのスイートルームで、贅を凝らした家具に囲まれて暮らしてきたが、革命は貴族たちのよりどころを奪っていた。伯爵はホテルの狭小な屋根裏部屋で、32年にわたる軟禁生活を送ることになる。だが、物語は決して陰気にも暗くもならない。伯爵は、洗練された趣味、優雅な礼節、高い教養と、「めげない、あきらめない、ふさぎこまない」神経の持ち主だ。ホテルの空気を作る人となり、最後は給仕長になる。日々の生活空間は限られているのに、寝起きにコーヒーを飲む、レストランで食事をする、バーで飲む、狭いはずの空間が生き生きと広がる。「職業は?」「紳士は職業を持ちません」「どのように時間を過ごしている?」「食事、議論。読書や考察。当たり前のよしなしごとですよ」。軟禁を言い渡された折、検察官に答えた伯爵の言葉が誰をも魅了する人柄を表している。
⑤『靴ひも』
ナポリの70年代変化するイタリア家族父親と取り巻く家族のそれぞれの生き方。
ドメニコ・スタルノーネ 著 関口 英子 訳
「第一の書」は、家を出ていった夫に宛てた、妻の手紙からはじまる。「もしも忘れているのなら、思い出させてあげましょう。私はあなたの妻です」というその手紙から、この夫婦の事情がだんだんと見えてくる。
二十代のはじめに結婚した夫と妻は、結婚十二年目である。二人の子どもがいる。四歳違いの兄サンドロと妹アンナ。どうやら夫は、家の外に愛する人ができて家を出ていったようだ。この愛人は十九歳。そのまま離婚というシンプルな選択にはならず、一か月も留守にしたと思うと夫はふらりと帰ってくる。そのたび妻は、生活が元に戻るのではないかと期待する。しかしそうはならず、夫はまた愛人の元に出ていく。そんな生活が四年も続く。軽やかな混沌の家族の物語。
⑥『ドイツ人の村 シラー兄弟の日記」
イスラム教とヨーロッパの負の遺産受け継いだアルジェリア人兄弟
ブアレム サンサール 著 青柳 悦子 翻訳
「兄さんの物語は僕の物語でもあり,僕たちのものであり,父さんの過去すべてだった。」
前途有望な兄ラシェルの突然の自殺に見舞われた弟のマルリクは,遺品として兄の日記を手渡される。日記をめくるごとに明らかになっていく兄の心境と自殺の動機,そしてナチスに加担した過去をもつ父親の存在……。
人がもつ孤独の闇と,それでもなお人を信頼する希望の光を,シラー兄弟の日記を通して重層的に物語る傑作長編。
小説は1990年代が背景で,91年の普通選挙失敗(イスラム原理派FIS党が選挙で多数派を獲得した時点で,政府は軍事クーデターを起こし,選挙無効を宣言しFISを武力的に解散させた)以来,過激化した旧FISはGIA(武装イスラムグループ)となって報復テロを繰り返し,10年間にわたって内戦状態が続いていました。そのなかで,1994年,内陸部の小さな村アイン・デブでGIAによる無差別虐殺が起こり,多くの村民たちが残虐なやり方で殺されます。村の長のように尊敬を集めていたひとりのドイツ人ハンス・シュラーもそのアルジェリア人妻共々非業の死を遂げます。
⑦『彼女たちの部屋』
パリの救世軍と女性会館誕生の秘話と現在の住居のないパリの貧民とボランティア
レティシア・コロンバニ 著 齋藤 可津子 訳
人生の危機に直面した弁護士はその部屋で初めて居場所を見つけた。40歳のとき、ソレーヌは弁護士としてのキャリアにすべてを犠牲にしました:彼女の夢、彼女の友人、彼女の愛。ある日、それは割れる、崩壊する。うつ病、燃え尽き症候群です。彼が立ち直るのを助けるために、彼の医者は彼にボランティア活動に頼ることを勧めます。大きな挫折のあと、弁護士のソレーヌはある保護施設で代書人のボランティアをはじめた。「女性会館」というその施設には、暴力や貧困、差別のせいで住居を追われた人々が暮らしている。自分とはまるで異なる境遇にいる居住者たちの思いがけない依頼に、ソレーヌは戸惑った。れでも、一人ひとりと話して、手紙を綴るなかで、ソレーヌと居住者たちの人生は交わっていく。
⑧『アウシュヴィッツの囚人写真家』
ポーランドシレジア出身囚人カメラマン記録

ルーカ・クリッパ、マウリツィオ・オンニス著 関口英子訳
ポーランドの写真家ヴィルヘルム・ブラッセ(2012年死去)のアウシュヴィッツ体験を、2人のイタリア人ライターがノンフィクション・ノベルとしてまとめたのが本書である。ナチスは、当初アウシュヴィッツへの収容者(ユダヤ人、政治犯、捕虜など)の名簿作成に各人の記録写真をとっていたが、その役を担わされたのがブラッセら写真家たちである。
彼らは収容者だけでなく、収容所側のSS(ナチスの親衛隊)などの写真も撮影している。はからずも極限状態にある加害、被害の生と死の残酷さが浮かんでくる。「記憶を消し続ける。なにごとも記憶にとどめない。前日に目にしたことを日々忘れていく」、それがこの収容所での生きる掟(おきて)であった。しかしブラッセらが撮影し保管した膨大な写真は、消せない記録として今なお私たちの目にふれる。人間の感情とカメラの写実性とが歴史をどう伝えるか、本書はその試みの書でもある。
⑨『香港の歴史:東洋と西洋の間に立つ人々』
読んで 現代香港について考える
ジョン・M・キャロル 著 倉田 明子 訳倉田 徹 訳
黎智英氏と周庭氏の「逮捕劇」が記憶に新しい。中国が香港国家安全維持法を導入し統制を強めた結果、自由と人権を訴える香港の人々の意志を阻む露骨な専制は激しさを増している。 一体、今、香港で何が起きているのか? 「一五〇年以上にわたりイギリスの植民地にならなければ、香港はこのような場所にはならなかった」 現在の香港を知ろうと願うなら、香港が歴史上どのような場所であったのかおさえることは必須だろう。 本書は、その恰好(かっこう)の道標である。著者は少年時代を香港で過ごしたアメリカ人。中文と英文の資料を解読する彼は、香港をイギリス植民地の一つとして扱うのではなく、また、中国史の一部として描くのでもなく、更に言えば、近年の反北京感情の高揚による香港の独自性を主張する政治的イデオロギーからも距離を保ち、「東洋と西洋の間に立つ人々」を主語に、歴史の中の香港を多角的に検証する。 「中華帝国と大英帝国という二つの帝国の周縁に置かれた」香港の歴史を叙述するには困難がつきまとう。たとえば一九九七年のあの出来事を「返還」あるいは「回帰(復帰)」、はたまた「主権移交(主権の引き渡し)」とするのか。用語一つとっても、どれを使用するかということ自体が、政治的な選択と直結する。
⑩『縫いながら、紡ぎながら』
パリの社交界にデビューしたイリス31歳はクチュリエとして成功できるか
アニエス・マルタン・リュガン 著 徳山 素子訳
黒とターコイズブルーの、カラーブロックのワンピース。ちょっとヴィンテージのクレージュっぽい雰囲気のある、キルティングを施したラウンドカラーの半袖ワンピースで、後ろ身頃にはバックベルトをつける>。
主人公のイリスが服飾学校の入学試験のために制作した洋服だ。
オートクチュールの世界を描いた作品といえば、有吉佐和子『仮縫(かりぬい)』を思い出すが、こちらは、本場パリが舞台。
イリスは、パリから列車で3時間ほどのところに、医師である夫と二人で暮らす31歳の女性。保守的な考え方の両親に育てられ、クチュリエ(服作り職人)になる夢を封じ込めたまま結婚し、銀行に勤めていた。しかし、あることがきっかけで夫を残し、単身パリのプライベートな服飾学校の養成コースに入学する。このメゾンの女主人マルトは、元モデルでココ・シャネルを思わせる美しくエレガントな女性。イリスは、マルトに才能を見込まれて援助を受け、数々の名だたるメゾンで仕事をしてきた教育係フィリップの特訓課題をこなしながら、彼女の色に染まっていく。田舎の中流家庭のパーティーしか経験のないイリスが、パリ社交界のパーティーに招待され、顧客を得ていく夢のような毎日。どれもが素敵な世界で、お洒落(しゃれ)なフランス映画を観(み)ているように読み進める。
お勧めは『アコーディオン弾きの息子』と『友だち』。
『モスクワの伯爵』は今年みた映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』の舞台の一つとしてモスクワの高級ホテルが出てきて面白かった。

