⑥『放射能 キュリー夫妻の愛と業績の予期せぬ影響』
ローレン レドニス/著 徳永 旻/訳
2度のノーベル賞に輝くピエールとマリー・キュリー夫妻の恋と人生と彼らが研究し影響を及ぼした放射能、放射性物質、放射線による光と影を美しいアートと文で描く。ピュリッツァー賞にもノミネートされたアメリカ人気鋭女性アーティストの渾身の作品。
キュリー夫妻の私生活と研究、レントゲン、放射線治療、そしてヒロシマ、スリーマイル、チェルノブイリ、そして・・・・・・。激動の時代を生き抜き世界を変えたピエールとマリー・キュリー夫妻とその子供たち。時代背景から核物理、核兵器、原発、生物、植物、映画等に至る幅広い様々なトピックスを含めてアートと写真等で副次的に表現し、難しい物理学のストーリーでも飽きさせない様々な工夫がなされている。
⑦『ヴィクラム・ラルの狭間の世界』M.G.ヴァッサンジ/著 小沢 自然/訳
植民地時代のケニアを中心とする東アフリカ。支配者の英国人にとって、インド人は便利で使い勝手のいい中間層だった。過激なアフリカ人マウマウは凄惨なテロで対抗する。独立を果たした後、ヨーロッパ人は去り、インド人は残った。今度はアフリカ人が主人だ。この物語はこうした革命期のケニアを舞台に、狭間(In-Between World)に生きたインド人の人生を、主人公ヴィクラム・ラルに託して書き上げた重厚な作品である。ンジョの推薦で政府に職を得たヴィクは、優れた実務能力を示し始める。冷めたところのあるヴィクは見込まれて大臣の秘書になりマネーロンダリングを任され、大統領の面識を得るまで出世する。便利で使い勝手がいい、つまりは汚濁に塗れていくのだ。正義感の強いンジョは野党の側に回り、ディーバの店先で、暗殺されてしまう。ヴィクもお払い箱になり、カナダに亡命する。夫を亡くしたディーバもカナダにいる。2人は、やはりカナダにいる反政府派のンジョの息子ジョセフを気づかっている。「第四部 帰郷」。ナイロビに戻ったジョセフはすぐ逮捕される。ヴィクは、ジョセフを救いに帰郷するが、当然の事ながら、破局が急激に訪れる。この最終章は、あっけにとられるほど短い。だからこそ、そこに深い余韻が残るのだ。
⑧『沈黙を破る者』メヒティルト ボルマン/著 赤坂 桃子/訳
現代ドイツで死去したある老人の遺品をきっかけとして、封印された過去の因縁を探ってゆく話です。物語内の過去パートでは、オランダ国境に近いドイツの町が舞台とナチ暗黒時代を生きることになった仲良し青年6人組の運命の交錯、そして悲劇が描かれます。ストーリー上のひとつの焦点は、その男女6人組のうちの1人がナチス親衛隊に入り、結果的に戦争犯罪を犯しまうところです。その直接的な原因が、仲良しメンバー内の愛憎のもつれだったりするのが大きなポイントですね そう、本書について、作品の文芸性やミステリ性以上に興味深く、価値を感じさせるのが、ドイツ人のナチ加害者意識持ちながら生きるナチ世代とナチ加害者を親族に持つであろう2世3世の世代の人々はナチ加害者しての歴史をどのように受け止めているのかを考えされられる物語
本書の主人公、マックス・シュルツはシレジア州ヴィースハレ市に生まれの生粋のアーリア人種であり、私生児という設定だ。母は娼婦のような生活をしていて、父と見做したい男が五人いる。母親はポーランド人の理髪師・スラヴィツキと暮らし始める。スラヴィツキの「みじめ」な理髪店の真向かいにはユダヤ人が経営するしゃれた理容サロン「社交界の紳士」があった。そこには、生年月日がまったく同じイツィヒ・フィンケルシュタインという息子がいる。やがてマックスとイツィヒの二人は、まるで双子の兄弟のように仲良く同じ時間を過ごしていく。イツィヒは「金髪で目は青く、鼻筋はまっすぐで、唇は上品な曲線を描き、歯並びがいい」が、マックスは、「髪は真っ黒。両目はカエルのように飛び出ていて、鼻はワシ鼻。唇は分厚く、歯並びは悪い」。学校の仲間は、マックスの方をユダヤ人と見做して、イツィヒと間違えて呼ぼうとするというように描写している。そのことは、この小説全体にいえる色調でもあるが、「人種」を外見で判断するという皮相性をユダヤ人でもある著者が諧謔化していることに他ならない。
マックスはイツィヒとともに、イツィヒの父のもとで理髪師の修業をしていく。やがてヒットラーの台頭に際し、継父と一緒に親衛隊に入り、ポーランドの強制収容所へ転属になる。マックスはそこで、収容されてきたイツィヒやイツィヒの両親をはじめとして多くのユダヤ人を殺害、つまり大量虐殺者となっていく。
ユダヤ人とナチスの民族の問題を掘り下げながら、違う視点、イスラエル理想の国家としての問題点を考えさせてくれる物語になっている。ホロコーストを生き延びたユダヤ人の物語とは違い加害者の視点で描かれている(ユダヤ人の著書)
⑩『カブラの冬──第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』藤原辰史著
第一次世界大戦下のドイツで70~80万人もの餓死者を出したと言われる「カブラの冬」(1916~17年)。開戦によって海外からの食糧輸入ルートは遮断され、当初、長期戦になろうとは誰も予想していなかったので食糧問題には何らの考慮も払われておらず、(大戦前の時期に小麦はアメリカ・ロシア・アルゼンチン・カナダなどから大麦はロシアからたくさん輸入していたにも戦争は短く終わると考えて準備なしに開戦してしまったこと、パンにジャガイモを混ぜるなどの工夫や代用食、馬の徴用や男性労働者が徴兵され肥料の輸入も不能となり食料生産が低迷したこと)付け焼刃的な食糧政策はかえって混乱に拍車をかけた。例えば、「豚殺し」。学者のはじき出した単純なカロリー計算によると、豚飼育用のジャガイモは人間の消費量を上回る。ならば、豚は殺してしまえ──しかし、人間のエネルギー源として穀物と脂肪分とで果たす役割の相違を無視した暴論は飢餓をより深刻なものとした。
飢餓にまつわる不満を訴えようにも政治システムとして適切な代表ルートがなかったため革命を誘発。続くヴァイマル共和国期でも食糧政策の脆弱性や不平等性は克服できず、大戦中に実体験した飢餓に根ざした憎悪感情は行き場を失い、ナチズム台頭を後押しする契機となった。こうした憎悪は、「飢えたドイツ人/豊かなユダヤ人」という人種主義的偏見を増幅させたり、「食糧さえ確保できていれば戦争には勝てたかもしれない」(背後からの一突き伝説)という「終わり損ねた戦争」意識をもたらした。海上封鎖を受けたことは、海外植民地ではなく東方拡大を目指したヒトラーの「広域経済圏」構想にもつながったという。
ことし読んだ本で一番 面白いのは「ストナー」再版らしいけどこれを出版した。出版社に感謝しなきゃいけないね。 ストナーただ英語を教える大学の先生。そんな男の物語が悲しく。不器用な生き方に共感するから面白いのかも。
『ヴィクラム・ラルの狭間の世界』珍しいアフリカが舞台の小説。アフリカに鉄道建設の為に出稼ぎできたインド人の移民3世がケニアで狭間の世界に生きていく為の悲哀。こんな世界もあるんだな。読んだ本が少なかったかな。2014でした。



