水木しげる「のんのんばあとオレ」のこと | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

子供の頃の愛読書だった松田道弘の「奇術のたのしみ」は、ちくま文庫に収められたこともあったが現在は絶版で、当時はちくま少年図書館というハードカバーの単行本シリーズの1冊だった。

 

同じ頃に図書館などで同じちくま少年図書館の1冊である水木しげるの「のんのんばあとオレ」という本が出ているのは何度も目にし、当時、パラパラとめくって拾い読みなどもしているのに、なぜかきちんと読んだことがなかった。

 

その後、十代の頃に水木しげるの代表作である鬼太郎漫画を全巻読み、そこに含まれた神話や民俗学の蘊蓄にも興味を持ち、お坊さんになってからも鬼太郎は読み続けたし、本山に上がる前にしばらく私の身柄を預かって下さった老僧の自坊でたまたまテレビドラマ版の「のんのんばあとオレ」の放映を見て、修行を終えて下山したら出雲や境港にも行ってみたいと思ったものだ。

 

にも関わらず、それから一度も「のんのんばあとオレ」を読むこともなく過ごして来たのだが、この度ふとそのことに思い至って図書館で借りて読んでみることにした。

 

ところが既に水木しげるの大人ものの随筆を何冊か読んでいる身としては、初めて読んだ「のんのんばあとオレ」が案外に面白くない。表題にもなっているのんのんばあや妖怪のことが全体からするとそれほどたくさん登場しないからということもあるのだが、ただ、以下に引用した部分だけは特に印象に残った。水木自身の作詞になるアニメ版鬼太郎の主題歌の歌詞は、ただの言葉の羅列ではなく、作者の心からの思いが込められているのだということが、よく理解できた。

 

「学校も落第、就職も落第、もうこれ以上落第するものはなにもないほどなのだが、オレはそれほどこたえなかった。虫やキツネや海草は、落第も及第も無くやっているし、人間だって、からださえ健康なら、どこだってくらせるとおもっていた。虫の生活に感心して「天昆童画集」をかいたほどだから、虫的気分になりがちだったのだろう。」

 

 

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