泡坂妻夫「ヨギ ガンジー」シリーズの思い出 | アジアのお坊さん 番外編

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優れた奇術家にしてミステリ作家でもある泡坂妻夫師のシリーズ探偵の一人・「ヨギ ガンジー」のことが、私は余り好きではなかった。それまで読んで来た泡坂師の珠玉の初期作品群と比較して、どうしてもこのシリーズの、特に短編が小粒に見えてしまったということがまず一つ。

 

次に探偵役であるヨギ ガンジーの不自然な関西弁が全く面白くないこと。松田道弘氏が、ジョン・ディクスン・カーのイギリス人特有のドタバタ調のギャグが、文章で読んでもうるさいばかりで楽しめないと書いておられるが、大好きな泡坂師(奇術家であることを考慮して、敬称は「氏」ではなく「師」を付けさせて頂いている)にこんな失礼なことを言いたくはないのだけれど、他の追随を許さない泡坂師の小説の中で唯一の欠点が、ヨギ ガンジー・シリーズ以外の作品にも頻出する、くどくてベタなギャグ会話の部分だと私は思う。

 

最後にもう一つの理由が、ヨギ ガンジー・シリーズの長編である「しあわせの書」が、やたらとプロの作家・評論家や一般の読者に持ち上げられていること。もちろん私も初読の時には十分に感服し驚きもした「しあわせの書」だけれど、最近の再評価も含めて余りに色々な方がこの本の仕掛けをほめそやすので、偏屈な私は却ってこの本を読み返そうとは思わなくなっていた。

 

ところが最近、「泡坂妻夫引退公演 手妻編」の中の、奇術の出て来る短編を読み返したついでに、他の収録作品も全部読んでみたのだが、その中に単行本収録から漏れたヨギ ガンジー物が3篇あって、読んでみたら意外と面白かったので、試しに「ヨギ ガンジーの妖術」と「しあわせの書」を読み直してみることにした。

 

そうしたら、まず短編集である「ヨギ ガンジーの妖術」は伏線やテーマも楽しめるひねりの効いた内容だし、「しあわせの書」は例の大仕掛けもさることながら、仕掛けを成立させるために無理に作ったストーリーのように以前は感じたのに、今回読んだら、新興宗教を追い詰める活劇的展開までが面白く、十分に楽しめた。

 

思えば、以前に読んだのが二十歳前後の頃なので、おそらくは年を取った自分に、物語を楽しむ余裕が出来たのかなと思う。

 

日本人上座部僧・三橋円寒ヴィプラティッサ比丘が訳された、

タイの高僧プッタタート比丘の「仏教人生読本」「観息正念」を

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