リンキング・リングのかなしみ | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

小学生の頃に奇術が好きで松旭斎滉洋師にファンレターを出した。独特の筆跡で書かれた優しく親切なお返事を、今も手元に残している。

 

ところでその頃にテレビの奇術番組で頻繁に演じられていた、金属で出来た切れ目のない6本のリングが繫がるリンキング・リングというトリックがとても不思議で、私はどうしてもそのタネが知りたかった。

 

当時、テレビのクイズ番組に出演した景品に奇術セットを貰った上級生の女の子がいて、テレビを見ていたらそのセットの中にリンキング・リングが入っていたので、私は面識のないその子の家を友人と二人で訪ねて貸してくれるように頼んでみたのだが駄目だった(きっと今では失くしてしまっていることだろう)。

 

しばらくしてから百貨店の奇術売り場でこのリングを小さくした4本組のチャイナリングという商品をディーラーが演じているのを見て、目の前で溶けるように繫がるリングに息を呑んだものだが、安価で演じられるよう開発された商品なのかも知れないのに、当時の私のお小遣いではその商品が買えなかった(奇術家の皆さまの記事などを読むと、この時のディーラーさんは松旭斎洋一師だったのではないかと思う)。

 

そしてさらにまたその後のこと、古書店でたまたま目にした柳沢よしたね氏の「一週間奇術入門」という本にリンキング・リングのトリックが解説されているを見つけて狂喜し、そしてこの奇術の単純にして巧妙なその仕掛けに舌を巻き、しかしやはり私にその本は買えなかったので、先ほどの友人をけしかけて購入させ、何度も何度も借りては読んだことを思い出す。

 

さて、お話変わって当時のテレビ番組「奥さまは魔女」の中で、魔法を使ったサマンサに、魔法を信じられない男が「鏡を使ったんだろう?」と言う、そこでサマンサがまた魔法で手鏡を取り出すと、相手は「袖の中に隠してたんだろう?」と言い返すので、今度は大きな姿見の鏡を取り出してみせると、そこでやっと相手が魔法を信じるというシーンがあった。

 

私は既にその時、松田道弘氏の「奇術のたのしみ」や「とりっくものがたり」を読んでいたので、このシーンが奇術の種を見破ろうとする西洋の客の常套句、「They do it with mirrors」、「It up the sleeve」という2つの言葉のパロディであることに気が付いた。

 

その松田道弘氏は、多くの著作の中で、奇術師が種明かしをしない本当の理由は観客の夢を壊すからだ、種明かしをされた客はがっかりするだけで決して感心することがないからだ、といった意味のことを書いておられるのだが、幼い頃の私は果たしてそうだろうかと疑問に思ったものだ。

 

私は子どもの頃、人を驚かせたいとか、夢を与えたいとかではなく、ただ単にタネが知りたくて、手品の本を読むようになった。そしてタネを知るたびに一々とても感動した。

 

私がお坊さんになる前に宗教や伝説について興味を持ち出したのも、今思えば、この世には不思議なことが満ちていて、まずはその謎を解き明かしたいと思ったからだった。

 

 

               おしまい。

 

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