坊主小咄…地蔵思い | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

人っ子一人いない山の中にお地蔵さんが立っていたので、お坊さんはこう思いました。

 

「誰もいない山中にお地蔵さんが立っていて、そして今、お地蔵さんと私が出会っている。

ということはつまり、お地蔵さんは私と出会うために、ここに立っておられたのに違いない」

 

そこでお坊さんはお地蔵さんに話しかけました。

 

「雨の日もあったでしょう、風の日もあったでしょう、それでもあなたは私を待っていた、あなたはとてもやさしいからです」

 

「むかし、むかし、ずっと昔、大みそかの夜のこと、あなたは米俵を運んだそうですね。

あなたの小さなからだには、米俵はとても重かったことでしょう、それでもあなたは俵を運んだ、あなたはとてもやさしいからです」

 

「むかし、むかし、すこし昔、原子爆弾が落ちた時、あなたのお顔は怒りにゆがんだそうですね。
原爆はとてもひどかったのでしょう、この世で一番やさしいあなたのお顔が、怒りにゆがんだというのだから」

 

お地蔵さんが返事をしないので、お坊さんは最後にもう一度、お地蔵さんにこう話しかけました。

 

「お地蔵さん、あなたは少しもしゃべりませんね。

きっととても無口なんでしょう。
やさしい人はみんなそうです」

 

 

               おしまい。

 

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