人っ子一人いない山の中にお地蔵さんが立っていたので、お坊さんはこう思いました。
「誰もいない山中にお地蔵さんが立っていて、そして今、お地蔵さんと私が出会っている。
ということはつまり、お地蔵さんは私と出会うために、ここに立っておられたのに違いない」
そこでお坊さんはお地蔵さんに話しかけました。
「雨の日もあったでしょう、風の日もあったでしょう、それでもあなたは私を待っていた、あなたはとてもやさしいからです」
「むかし、むかし、ずっと昔、大みそかの夜のこと、あなたは米俵を運んだそうですね。
あなたの小さなからだには、米俵はとても重かったことでしょう、それでもあなたは俵を運んだ、あなたはとてもやさしいからです」
「むかし、むかし、すこし昔、原子爆弾が落ちた時、あなたのお顔は怒りにゆがんだそうですね。
原爆はとてもひどかったのでしょう、この世で一番やさしいあなたのお顔が、怒りにゆがんだというのだから」
お地蔵さんが返事をしないので、お坊さんは最後にもう一度、お地蔵さんにこう話しかけました。
「お地蔵さん、あなたは少しもしゃべりませんね。
きっととても無口なんでしょう。
やさしい人はみんなそうです」
おしまい。
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