昨今の感染対策で、普段からマスクを着けていても違和感のない時代になったから、お坊さんたるもの、頭の上から順に、剃髪、マスク、法衣と来れば、ほぼ外面上、実態が現われていないようなもので、ましてメガネの一つも掛けているお坊さんならば尚のこと、常に変装をしているようなものだ。
前にも書いたことがあるが、小学校の高学年くらいの時だったか、江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」「陰獣」「屋根裏の散歩者」などに出てくる、簡単に出来て不自然さの少ない変装方法のくだりや、「シャーロック・ホームズの冒険」や「怪盗紳士リュパン」といった短編集の中の、それぞれ有名な各1篇に出て来る変装トリックなどを箇条書きにまとめて、変装についての作文を書いたことがある。
乱歩は昭和28年に随筆「変身願望」を発表した時点で既に「トリックとしての変装は、今日ではもうほとんど興味はなくなっているが、変装それ自体には、やはり魅力がある」と書いているのだが、私はむしろ「変装」と表立って表現されていない場合であっても、新旧問わず、一人二役トリックが出て来るミステリ作品を読むと、今だに無性に嬉しくなる。
といったようなことを、毎日、法衣を身に着ける度に、ふと思う。
おしまい。
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