ミステリ作品において作者が読者に対して仕掛ける文章上や構成上のトリックを指す「叙述トリック」について書くつもりだったのだが、インターネット上に「新・叙述トリック試論」という大変詳しいサイトがあったので、もはや私が付け足すこともないと思い、とりあえずその評論にも出て来た「叙述トリック短編集」(似鳥鶏著・講談社タイガ文庫)を読んだので、今回はその感想だけを書くことにする。
私はライトノベルというものが好きではないのだが、それはライトノベルが文学としてはどうのとか、小説としてはこうだとかと考えているからではなく、そうした作品に頻出する、往来で隣り合わせた素人さんの面白くもないのにやたらと得意げなノリツッコミを聞かされているような、つまらないギャグの応酬が肌に合わないだけなので、叙述トリック物としては非常に面白そうな「叙述トリック短編集」ならばと、辛抱して読んでみることにした。
そうしたらなかなかに面白い。カバーの帯に仕掛けがあるというのも、もちろん泡坂妻夫の「しあわせの書」や「生者と死者」のような、作品内容と関わるほどの仕掛けではないとは言え、楽しませてくれた。
冒頭の油断ならない「読者への挑戦状」も、作者の狙いは予想が付いたものの、各話1作ごとに工夫は凝らしてあったし、「叙述トリック」を敢えてタイトルに冠して堂々と読者に挑戦するその遊び心は十二分に伝わって来たので、私は満足だ。
※「新・叙述トリック試論」では「叙述トリックという用語が定着するまでの呼び方の変遷」も詳しく述べられていたが、そこに挙げられていた以外にも、昔の創元推理文庫の紹介文には「技巧派ミステリ」「トリッキィなミステリ」という表現があったように記憶する。
おしまい。
※「ホームページアジアのお坊さん本編」もご覧ください。