タイのお坊さん映画「ピー・ナーク」のこと | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

お坊さんが出て来るだけのタイのホラー映画は無数にあるけれど、2019年製作の「ピー・ナーク(พี่นาค)」はタイ仏教における得度式の詳細が織り込まれているところが珍しい。

 

一時出家制度によって得度した経験のある多数のタイ人と、タイでテーラワーダ仏教修行のために得度したことのある少数の日本人にとっては、はなはだよく理解できる内容になっている。

 

タイ人ですら大変だと言うパーリ語の得度式次第を暗記する苦労なども描かれているところなど、経験者が見るととても面白いのだが、特に式次第の中でサンガへの入団資格を問う何か条かの問答があって、負債はないか、病いはないかなどと問う条項に混じって「汝、人間なりや?」という文言がある、そのことが「霊の出家得度」というテーマと結びついているところが、とてもよく出来ていて面白い。

 

「あなたは人間ですか?」と問う条項はブッダ時代のナーガ伝説に基づいていて、出家希望者をナーガ(タイ語訛りで「ナーク」)と呼ぶのもそれに由来するのだが、そのことがこの映画のタイトルの基になっている。

 

日本では「祟り蛇ナーク」という邦題で2020年に公開されたそうだが、蛇の妖怪が出て来る訳でもない上に、タイ映画独特のホラーやお笑いのタッチに慣れていない日本の観客の中には、「怖くない」「笑えない」といった感想も見受けられたようだ。

 

タイ好き、タイ映画好きの日本人ならタイ映画独特のその「間」こそがたまらないところなのだが、加えてタイのお坊さん映画の系譜の中でも、得度式をテーマにしているという特殊性において、「ピー・ナーク」は実に秀逸な映画だと思う。

 

 

※「ホームページ アジアのお坊さん 本編 お坊さん映画」

    

※「ブログ その後のアジアお坊さん映画」もご覧ください。

 

             

 

           

 

                  おしまい。

 

※二つ目の画像はタイ在住の日本人テーラワーダ比丘プラ・タカシ・マハープンニョ師(落合隆師)による「テーラワーダ仏教の出家作法」です。