ブッダガヤと印度山日本寺の出て来る書物 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

 
ブッダが悟りを開いたインドのブッダガヤは八大仏跡の中でも特に有名だから、書物の中にその名が現れることは珍しくないが、ノンフィクションでない創作文学にその名前が出てくることは余り多くない。
 
そんな中で、インド人著者による「シャーロック・ホームズ、ニッポンへ行く」(ヴァスデーヴ・ムルディ著・国書刊行会)という小説には、シャーロック・ホームズの旅路の途中にブッダガヤの描写が出て来る。
 
名探偵シャーロック・ホームズは「最後の事件」という作品の中で、宿敵モーリアーティ教授と共に滝壺へ落ちて死亡したと思われていたが、後に「空家の冒険」という作品において、実はその期間、姿をくらましていただけで、無事に生きていたことが判明する。
 
その期間をシャーロキアンたちは「大空白期間」(大空白時代= Great hiatus)と呼んでおり、ホームズ自身の語るところでは、この期間、彼はチベットに潜入していたとのことなのだが、「シャーロック・ホームズ、ニッポンへ行く」の中ではその期間にインドを経て日本へ来たことになっている。
 
但し、時代設定が違うので、「シャーロック・ホームズ、ニッポンへ行く」の中に印度山日本寺のことは出て来ない。ブッダガヤの印度山日本寺の本堂が完成したのは1973年(昭和48年)のことだ。
 
沢木耕太郎氏の「深夜特急」の中には、印度山日本寺のお坊さんが出て来る場面がある。この本が出版されたのは1986年だが、沢木氏が実際にインドを旅したのは、ちょうど日本寺が出来た直後の、70年代前半だったらしい。
 
紀行文やガイドブック、インド仏跡案内本などにブッダガヤや日本寺の名前が出て来るのは当然なのだが、その中で多少、特徴のあるものを列記すると、まず80年代に一世を風靡したNHKのシルクロード特集の書籍版に、NHKのスタッフが日本寺を訪ねるくだりがある。

 

1998年発行の「インド佛跡巡礼」(東方出版・80年代に蓮河舎から出ていた「佛跡巡礼」の新装版)には、ブッダガヤに日本語を話す商魂逞しいインド人が多いのは、日本寺で始めた無責任な日本語教育のせいだなどと書いてある。

 

90年代半ばにテレビドラマ版の「深夜特急」が放映されたが、日本寺はロケに使われず、回想シーンにブッダガヤのヴィノバ・アシュラムが少しだけ出て来る。尚、この番組の書籍版ムックには、スタッフが日本寺に泊めてもらったという記載がある(私の駐在中に泊まって下さった)。

 

2006年に幻冬舎文庫から出た女優の中谷美紀氏の著作「インド旅行記 3」にも、少しだけ日本寺のことが出てくる。「大きなブッダ像のある印度山日本寺と、無料保育所や無料診療所のある大乗教寺院」みたいな記述があるのだが、確かに大乗教にも無料保育所や無料診療所があるし、日本寺の本尊である釈迦像は大きいと言えば大きいが、大仏で知られる大乗教と菩提樹学園や光明施療院のある日本寺のことを混同しておられそうな記述にも読み取れる。
また、同じ2006年の雑誌「NEUTRAL」5月号がインドの特集で、カメラマンの方がブッダガヤを訪れて、数枚の写真を掲載しておられる。

 

印度山日本寺の草創期に日本寺に止宿しておられたとある写真家の方が、「当時、印度山日本寺に泊めてもらっていた」ではなく、「ブッダガヤの僧院で暮らしていた」「インドの僧院で仏教の勉強をしていた」などとプロフィールにいつも記しておられるのはご愛敬だが、同時期に寄宿しておられた現・宗教学者の方の当時の滞在記なども昔に出ていたことがある。それらも含めて、古いガイドブックなどに当時の日本寺の様子が時々載っていたりするのを発見するのは、なかなかに興味深い。
 

 

                        おしまい。