人魚の肉を食べたために年を取らなくなって800歳の齢を得た女が比丘尼となり、諸国を放浪して遂に若狭の空印寺で生涯を終えたという八百比丘尼の伝説に、私もお坊さんになる前に興味を覚え、空印寺をお参りしたことがある。人魚の肉を食べて、というところが特に面白く、人魚に比定されるジュゴンなどの海牛類は実際に美味だと聞いて、どうもこの伝説には何がしかの真実が含まれているのではないかなどと思ったものだ。
八百比丘尼の伝説は様々なクリエイターの皆さまにインスピレーションを与えることが多いようで、手塚治虫の「火の鳥」、水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」、高橋留美子の「人魚の森」、岡野玲子の「陰陽師」(原作は夢枕獏)といった錚々たる作品に、それぞれ八百比丘尼が登場する(「妖怪ウォッチ」にも登場するそうだが、私はその作品を見たことがない)。
ATG映画にも「聖母観音大菩薩」という八百比丘尼伝説をモチーフにしたものがあるが、古くは馬琴の「南総里見八犬伝」にも八百比丘尼妙椿(みょうちん)が登場するくらいだから、本当にこの伝説は多くの人の想像力を、いたく刺激するようだ。
入手しやすい手近な書物では、柳田國男の「山の人生」に八百比丘尼伝説に関する民俗学的な見解が述べられているので、これからこの伝説を基に創作などを考えている方がおられるならば、是非基本的な参考文献として、読んでおいて頂きたいものだと思う。
も是非ご覧ください。